第4話謁見

 王都タリスタンの飛空艇場に到着し、飛空艇を降りたのだが、出迎えに来ていたのは冴えない顔した老兵一人だ。


 一国の国の王子が来たというのに酷い扱いだな。

 別に俺は構わないが、これではマーディアル王家が舐められているみたいじゃないか。


「おい、そこの老兵。これはどういう扱いなのだ」


 さすがに焦ったのか、冷や汗を流しながら言い訳を言い始めた。


「儂は一介の兵でありまして、詳しい事は城で陛下にお会いしてお確かめ下さい」

「では案内しろ」


 さすがの俺も少々ご立腹だぞ!

 だが老兵に案内され、飛空艇場から街に入ると、なんとなく察してしまった。


 街は静けさに包まれ、人々は肩を落とし表情が暗い。

 本来は賑わっているはずの露天も、閑古鳥状態だ。


 アーロンたちも街のようすに眉をしかめている。


 よほど戦況が好ましくないのか。

 前を歩く老兵に話を聞いてみる。


「戦況は良くないのか?」

「見ての通りです。男手は兵に志願し、この街に残っているのは女子供ばかりです」


 案内をしてくれている老兵も腰が曲がっている。

 本来は兵ではないのだろう。


 クッソ! 父上にハメられた!

 どこが小競り合いだ!

 滅びの道一直線じゃないか。


 ここまで来て今更文句を言っても仕方のない事だけど、僅か300足らずの兵では焼け石に水なのではないか?


 めんどくさそうだったら理由つけて帰るか。


 城の前で老兵が立ち止まり、申し訳なさそうに小刻みに頭を下げてくる。


「兵の方々はここでお待ちになって頂いても……」


 当然だな、こんな人数で押し入るわけにも行かん。


「わかった。ただし兵団長は同行させるぞ」

「もちろんでございます」


 老兵との遣り取りを聞いていたアーロンに視線を送ると、頷いた。

 パリスたちに「ここで待機だ」と伝え、アーロンと謁見の間に出向いた。


 謁見の間に入ると、玉座に腰掛けるセスタリカの王と、王の脇に立つ赤髪ポニーテールの美少女がいる。


 部屋の両端にはこの国の貴族と思わしき男たちが並び立っている。


 セスタリカの王のげっそりとした顔には、誰の目から見ても心労が伺える。


「よくぞ来てくれた、アルトロ王子」


 王のアルトロ王子と言う言葉を聞き、貴族たちが明らかに肩を竦め項垂れた。


 どうやらこの国の貴族たちの間でも、前代未聞のクズ王子伝説は轟いていたようだ。

 助けが来たと思ったらクズ王子がやって来たのだ、そりゃそうなるよな。


 そしてもうひとり、俺に嫌悪感の眼差しを向ける美少女。

 恐らくセスタリカの姫だろう。

 そういう強気な女をベッドの上で調教するのも好きなんだよな!


「早速ですが、戦況の方は? 迎えに老兵一人を差し向けるほど良くないのですか?」

「非礼を詫びよう。察しの通り戦況は好ましくない」

「それで俺たちは何をすればいいのです? 父上からはセスタリカの力になるよう送り出されました」

「アルトロ王子にはココル村の警護についてもらいたい」


 ココル村? 街や砦ではなく村を護るのか?


「お言葉ですが王、我々は村を守るのですか?」


 俺が王に反論した事が気に食わなかったのだろう、ポニーテールの美少女が嫌悪感丸出しで、王が応える前に話し始めた。


「まず一つ、あなたを信用できないということ。あなたの評判は最悪よ。二つ、東の砦の一つが落とされたことで周辺の村が被害に遭っていること。三つ、たかだか300の兵ではなんの足しにもならない。四つ、そのくせセスタリカを助けてやったと言われ、後で何を要求されるかわからない。以上です。まだなにか聞きたいことでも?」


 なるほど、良くわかった。

 この女、やはりドSだな! 堪らん!

 ここまで来たんだ、絶対手に入れてやる。 


「良くわかった――」


 随分物分りがいいと驚いているな。

 俺が逆上するとでも思ったのか?

 甘いな。


「ただし条件がある!」

「条件?」


 何を言い出すのかと、王も貴族たちも身構えていやがる。

 なに、簡単なことさ。


「そこのお前もココル村に同行しろ!」


 赤髪ポニーテールを指差し高らかに宣言する。


「俺はお前が気に入った! 俺の側に居ろ」


 目を見開きワニのように大口を開け驚いているな。

 貴族たちもざわついている。当然の反応だ。

 だがひとり動じない王は、流石だな!


「ふ、ふざけないで! 私はこの国の姫よ!」

「そんな事は見ればわかる」

「無礼にも程があります!」

「では俺もまず一つ、他国の兵が300も押し寄せれば、ココル村の人々は俺たちを必ず警戒する、そうなれば、いざという時こちらの指示に従わない者も現れ、守れるものも守れなくなる。だがこの国の姫が一緒となれば安心するはずだ」


 話を聞いていた王がまっすぐ俺を見つめ、頷き、次の言葉を急かす。


「して、二つ目は?」

「お父様!」


 明らかに動揺している美少女ちゃん、だが俺は手を緩めないぞ。

 お前を手に入れてみせる!


「二つ、万が一この国が落ちた時、姫を我が国アイーンバルゼンで保護するため、俺の近くにいてもらいたい。――もちろんそんな事はさせない。あなた方は嘗て我が国の窮地を救ってくれた恩人だ! 恩には恩で報いるのがマーディアル王家の誇りだ。だが最悪の事態も想定しなければならない。違いますか?」


 もっともらしい俺の意見に唇をかみしめて悔しがっている美少女ちゃん。

 王も所詮は人の子だ、娘の安全を一番に考えてしまうものだ。

 なら俺に預けるのがベストだ!


 王は傍らにいる娘に顔を向け声をかける。


「アリアよ」

「何ですか……お父様」

「お前はアルトロ王子とココル村に出向くのだ。いいな」

「……はい」


 よっしゃー!

 お姫様がパラダイスの仲間入りだ!

 我がハーレム城へようこそ、なんちゃって。てへ。

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