第3話セスタリカ

 アイーンバルゼンの王都、バルセルトの飛空艇場に、青く立派な飛空艇が待機している。

 どうやら兵たちが必要な物資を既に積み終えたようだ。


 行くとは言ったがいくらなんでも急過ぎはしないか。

 

 姉様三人は見送りに来ているようだが、父上に兄様たちは忙しいらしく、見送りにも来ていない。


「マーディアル王家に恥じぬ行動をするのですよ」

「マーディアル家の顔に泥を塗ったら承知しませんからね」

「アル君、向こうのメイドさんにエッチな事しちゃダメだからね」


 どれだけ信用がないんだ。

 とはいえセシル姉様の言い付けだけは守れそうにないな。


「わかってますよ、姉様たち」


 姉様たちと別れの言葉を交わしていると、兵士団隊長アーロンが出発を告に来た。


「アルトロ王子、搭乗の時間です。お急ぎを」

「ああ、わかったすぐ行く――」


 姉様たちの顔を見て片手をあげ、飛空艇に向かって歩き始めた。


「行ってきます姉様たち」



 ◆



 飛空艇に乗り込むと、深々と頭を下げるシスが居る。


「シスも一緒にセスタリカに行くのか?」

「クレパス様たちより、アルトロ様の身の回りのお世話を言い付かっております。何なりとお申し付けください。」


 姉様たち、俺がセスタリカでハッスルしないように仕込みやがったな。

 ヒヒ、お陰で移動中も退屈しなくて済む。


 「アルトロ王子、この者たちの紹介をしてもよろしいでしょうか?」


 話しかけてきたのは片目に傷の有る男、アーロンだ。

 アーロンの背後には、先ほど国王の間に来た四人が立っている。


「ああ、頼む」


 俺の言葉を聞き、アーロンが四人に目配せをすると、一人ずつ一歩前に出て頭を下げた。


「俺……私はザックと申しますっヒ、今回の兵士団の副隊長を任せられておりますっヒ」


 酔っ払ってんのか? 顔が赤いぞこのオヤジ。


「私はパリス、女でも剣の腕には自信があります」


 黒髪のボブがとても似合っていて可愛い。合格だ!


「私は弓隊のセドリック、どんな敵も女も確実に射抜いて見せます」


 この金髪イケメンとは気が合いそうだな。


「私はルナ、宮廷魔道士見習いです」


 ちびっ子ツインテール、嫌いじゃない、合格。


 酔っ払いに女剣士、女好きの弓使いとちびっ子魔道士か。

 悪くない。


 偉そうな貴族たちよりは100倍マシだな。

 が、少し硬いな、俺が王子だから緊張しているのか?


 どうせなら楽しい旅行にしたいな。

 セスタリカとパルセミリスの小競り合いなんて、俺からすれば幼子の喧嘩みたいなものだ。


 父上たちも誰も知らぬが、俺は輪廻転生で生まれ変わった元七大魔王の一人なのだ。


 しかし出来ることなら目立ちたくはない。

 目立ちすぎると厄介ごとを言い付けられるかもしれん。

 厄介はこの一回で十分だ。


「お前たち、俺の事はアルと呼べ。それとタメ口で構わん」


 兵隊長のアーロンも残りの四人も驚き、互いに顔を見合っている。

 まぁ無理はない、このような事を言う貴族、ましてや王族に出会ったのは初めてだろう。


「それはできません! アルトロ様は王子なのですよ。平民である一介の兵にそのような振る舞いは――」

「お前たちもある程度、俺の噂は聞いているだろう? 前代未聞のクズ!」


 気まずかったのか、一様に俯いてしまった。

 俺が自分で言っているのだから気にせんでもいいのに。


「俺は、平民とか貴族とか王族なんて気しない。生まれ持った立場や身分で人を測るなど、愚か者のする事だ――」


 顔を上げ真剣な眼差しで俺を見ている。

 それでいい。


「俺はお前たちと友達になりたい! 友達に様付けして呼ぶのも敬語を使うのも変だろ。もちろん時と場合で使い分けてくれればいい」

「わかった。それも命令というのであれば、アルと呼ばせてもらう」


 命令ではないのだけれど、みんな嬉しそうだし、まぁいいか。


 「ところでどのくらいでセスタリカには着くんだ?」


 俺の問に腕を組み応えるイケメン。


「夜には着くんじゃないかな」

「まだ時間があるぜぇっヒ、部屋で寛いでいたらどうだアルっヒ」


 ザックの言うとおり、部屋でシスにご奉仕してもらうか。

 パリスとルナのどちらかでもいいのだが、焦る事はないな。


「じゃあそうさせてもらうよ。部屋に案内してもらえるかシス」


 俺の世話をするため、待機していたシスに声をかける。


「はい、ではご案内しますねアルトロ様」

「シスも俺の事はアルと呼んでくれて構わないぞ」

「では二人の時はそう呼ばせてもらいますねアル」


 シスの案内で自室にやってきた俺は、ベッドにダイブした。

 その姿を確認したシスは「では何かあったら呼んで下さいね」といい、部屋を出ようとしている。


 何を考えているんだいマイスゥイィィート!


「待つんだシス! ベッドの上でのご奉仕がまだではないか!」


 顔を赤らめ、髪を耳に掛け、小さく頷きゆっくり歩み寄ってくる。

 今更何を恥ずかしがっているのだろう?


 焦らしプレイか! 好きですねぇ、ヒヒ。


 ――ベッドでシスにたっぷりとご奉仕してもらい、俺の腕枕で寛ぐシス。

 

 コンコン!


 「はい、どうぞ」


 扉をノックする音に応え、部屋に入ってくるなり赤面するパリス。


「っあ! すみません」

「謝る事はない。どうした?」


 俺の横でシーツを胸元まで手繰り寄せ、恥ずかしそうにするシスをチラッと確認し、俺に視線を向けた。


「直にセスタリカ国、王都タリスタンに到着です」

「そうか」


 俺は立ち上がりベッドから出て、部屋の窓からタリスタンの街並を一望する。


 振り返りパリスに顔を向けると、先程以上に顔を真っ赤にしている。


「ふ、服を着てください!」

「お前男を知らんのか?」

「そ、そんな事、い、今は関係ないじゃない」

「今度俺が教えてやるから恥じる事はない」

「だ、誰も恥じてなどいないわよ」


 よほど恥ずかしかったのか、走り去ってしまった。

 だが楽しみがまたひとつ増えたな。

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