第2話秘密基地

 王宮内を全力疾走で駆け回る。

 追ってくる姉様たちをよそ目に、すれ違うメイド達のスカートをひらりと捲り上げ確認。


「っきゃぁぁぁぁー!」


 赤、黄、白、青、黒――


「おぉスゥイート!」


 どれも見事なパンティーちゃん達。

 こんなパラダイスを捨てて地獄に行きたがる奴などいないだろ。


 走りながら流し目で後方を確認すると、次女ジェニルと三女セシル、二人の姉様がしつこくもまだ追って来やがる。


 広く真直ぐ延びた廊下を突き当りに曲がると、シスが洗濯物を両手に抱え歩いている、丁度いい。


「シス股を開きそこを動くな」

「っえ?」


 俺は身軽な動きでシスの長いスカートの中に身を隠した。

 見たか、これが秘技スカートの中の秘密基地だ!


「ハァハァ、いませんわ」

「お姉さまアル君は何処に?」


 姉様たちの声だ! 追いついてきたな。

 だが愚か者どもが! 俺を見つけられないだろう。


「そこの貴方! アルトロを見なかったかしら?」

「っえ!」


 透かさず秘密基地の中から指示を出す。


「向こうに走っていったと言うんだシス」


 シスは忠実に指示に従い、姉様たちに嘘を伝える。

 もはやシスは俺の虜だ。


「あちらに走り去って行きました」

「助かったわ、行くわよセシル」

「はい、姉様」


 姉様たちが去ったかシスに確認し、秘密基地から颯爽と登場する。


「いやー助かったよシス」

「何かあったのですか? アルトロ様」


 一介のメイドに話しても仕方がない、妙な心配をさせるだけだ。

 そう判断し、シスの腰に手を回して引き寄せ、口づけを交わしカッコよく決めてみる。


「お前が心配することなど何もないよ、愛しのシス。それより業務の途中だろ、悪かったな」


 シスはニコッと微笑み、一礼し去っていった。


 さてこれからどうしたものか。

 ほとぼりが冷めるまで時間を潰すにしても、自室には帰れそうにない。


 それにしても父上もなんで俺なんだよ!

 そりゃ兄様たちが国を離れなれないのは分かるが、王族の俺がなんでわざわざ行かねばならんのだ。


 セスタリカ、確か一度だけ小さい頃に父上に連れられて行った事はあるが、我国アイーンバルゼンと国土も兵力も変わらなかったはずだ。


 大国なら義理立てする事も理解できるが、いくら旧知の間柄とは言え、息子を戦場に出すか普通。


 王宮内を歩き回り、中庭までやって来てしまった。

 そういえば昔、この中庭で同い年くらいの女の子のスカートを捲って遊んだっけ。


 幼かった頃の事を思い出していると、不意に背後に嫌な気配がする。


「見つけたわよアル」

「もう逃げられないよアル君」


 しっかりと肩を捕まれ、振り返ると燃え盛る姉様二人が立っていた。

 二人の姉様に両脇を抱えられ、再び国王の間に連行された。


 「そこに正座なさい」と言う長女クレパス姉様の命令で、父上が座る玉座の前で正座させられている。


 後ろを振り返り、逃走経路を確認するが、扉は閉められしっかりと兵が見張っている。


「アルトロよ、マーディアル王家を代表し、セスタリカに出向いてくれるな」

「……」

「アル、セスタリカと我がアイーンバルゼンは、互いに何かあった時には必ず、王家の者が駆けつけると誓い合った仲なのだ」

「そうだよアル。アルはまだ小さかったから覚えてはいないかもしれないけど、この国が窮地だった時にもセスタリカは手を貸してくれたんだよ」


 二人の兄様が必死で説得しようとしてくるが、行きたくないものは行きたくない。


「恩には恩で尽くさねばならん。健闘を祈るぞアルトロ」

「っえ! まだ行くなんて言ってないですよ」


 父上とフゼン兄様が顔を見合わせ頷き、扉の前に立つ兵に合図を出すと、扉を開けた。

 金属鎧や革鎧の装備に身を包んだ四人の兵士と、羽織ローブに身を包んだ一人の女魔道士が入ってきた。


「我々もアルトロ王子と共にセスタリカへ同行し、アルトロ王子の為に武功を上げる事をお約束いたします」


 五人とも跪いてくれているのだが、俺は正座中だ。


 しかしこの片目に傷のある男は知っている、平民出身なので騎士ではないが、騎士団の者に匹敵する実力者と聞いている。

 他の三人は知らないが、一人女性兵が混ざっているな。


 それとこのちびっ子ツインテールの魔道士は知っている。

 15歳という若さで、今年王宮魔道士になった天才児だ!


 しかし俺を含めた六人で戦地に赴く訳じゃないよな?

 そんなもんセスタリカの王だって嬉しくないだろう。


「もちろん飛空艇で行くんだよな? 何人くらいで向かうんだ?」


 正座したままの情けない俺の言葉に、透かさず返答してくれる。


「っは! 現在セスタリカに向かう準備をしている兵は、約300であります」


 コイツが指揮官なのは間違いないな、ある意味安心した。

 というのも位を持つ者が同行するとなったら、俺は見下されているから正直面倒なんだよな。


 恐らくはその辺も理解した上で、フゼン兄様が平民出身の実力者を揃えてくれたんだろう。


 ここで行きたくないなんて言ったら、この者たちにも馬鹿にされてしまう。

 俺にだって最低限の王族としての誇りくらいはある。

 仕方ない腹を括るしかないな。


 俺はいい加減立ち上がり、玉座に座る父と向き合った。


「この度のセスタリカへの、支援に伴う遠征という大役をお与え下さったこと、感謝致します」


 俺は深々と頭を下げた。


「アルトロ……立派になったな。頼んだぞアルトロ」


 兄様も姉様も涙ぐんでいる。

 ヒヒ、まぁ問題ない、セスタリカにも可愛い女はいるだろう。


「アルトロ=メイル=マーディアルの名に誓い恥じぬよう、奮闘してまいります」

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