俺、不意打ちをくらう。

俺は今、××駅に来ている。

1月3日の寒い朝、なぜこんなところにいるのかというと、桜ちゃんと待ち合わせをしたからだ。

××駅は、「お礼」の時にも桜ちゃんとの待ち合わせ場所になったところ。

微妙な形をしたオブジェが懐かしい……


「祐樹くん、お待たせしました。」


「いや、今来たところ。」


昔の焼き直しのような会話。

でも、あの時とは関係が変わった。

前は先輩と後輩、今は彼氏と彼女。

確かに一歩、前に進んでいる。


と、そんなシリアスな文面を頭に浮かべながら顔を上げると、着物を着た桜ちゃんがいた。

いや、桜ちゃんがいるのは当然といえば当然なんだけど、まさか着物を着てくるとは……

グッジョブ。


「せっかくなので着てみました。似合ってますか?」


「そりゃもう!めちゃ似合ってるよ!」


じっと見つめすぎたか、ちょっと照れたように聞いてくる桜ちゃん。


落ち着いた感じの青い着物が、桜ちゃんのクールなイメージをグッと押し出す。

着物に描いてある花はなんなのかわからないけど、桜ちゃんに良く似合うのはわかる。


なんか、良いよ。

語彙力ないから伝わらないけど、良いよ。

ってか伝わるな。

この良さは俺だけが知ってれば良いんだ!


「それで、祐樹くん。」


「ん?」


俺がトリップしかけていると、桜ちゃんが俺を現実世界に引き戻した。

現実世界に戻されても幸せなんだけどね。


「祐樹くんは電話の時、ウトウトして危うく出損なうところでした。」


「う、うん。」


あれ?これもしかして怒られてる?

謝った方が良い?


「だから、私は祐樹くんに罰ゲームを執行する権利があると思うんです。」


へ?罰ゲーム?なんの話だっけ?


予想してなかった話の展開に、一瞬惚けてしまったそのタイミングだった。


桜ちゃんが俺の肩に手を置いて、それを支えにすこし爪先立ち。

そして頬に唇を優しく……俺の頬には柔らかくて少し湿った感触が残った。


ちょ、桜さん何してるんですか。

いやこれは罰ゲームというよりむしろご褒美だけど、なんでこのタイミングで?


「さ、さあ、行きましょうか。」


桜ちゃんは少し慌てたように俺の手を取る。

手を繋ぐ時、ほとんどいつも桜ちゃんからなんだよな……情けない。


そんなこんなで、手を繋いで歩き始める。

俺も真っ赤だと思うけど、桜ちゃんも真っ赤だ。

なんだ、桜ちゃんも照れてるじゃん。


ただ、お互いに神社に着くまで無言だった。

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