第4話 都市へ

「一時間後に臨時便が来る。それに潜り込めるよう手配は済んでるわ。地下倉庫の貨物エレベータ脇から乗れるように整えてるから、そこでパスを受け取って。列車は途中から地下に潜るようだから、それまでには自力で脱出してね。そこから先はワンズに近距離移動装置ショート・ムーヴを送っておいたから、インストールして呼び出して。行き先はインプット済みだから、自動オートのままで最初の知り合いのところへ案内してくれる予定よ。私の名を出せば次の指示を出してくれるわ」

「ゲームみたいだな」

「楽しんでらっしゃい。うまく攻略できることを祈ってるわ」

 ラオジェはそう軽く笑みを浮かべて送り出そうとしたが、その笑みに不安の色が濃く広がるのを禁じえなかった。


 だが、二人はそれに気づかないフリをし、二人もまた浮かび上がる不安を隠し切れずに軽く笑って部屋をあとにした。



 列車が到着する地下へ向かうエレベータ脇に辿り着くと老人が座り込んでいた。

 その老人からパスを受け取り、荷下ろしを終えたカラの列車に乗り込む。

 その背に老人が小さく篭った声で呟いた。


「床下でゆっくり十秒数えて出て来な。塔を出るまでは監視モニタがある。それはセントラルと繋がってるらしいからな。うまくやんな」


 頷いて二人は床下に潜り込み、発車すると同時にゆっくり十秒数え始めた。

 そうして十秒経った頃に床下からそっと這い出て塔を振り返った。

 遠ざかる塔の姿はあまりにも寂しいものだった。


「俺達、あんな中にいたんだな……」


 ジンの呟きにシドはああ、とだけ唸った。

 塔の周囲には砂礫が広がるばかりで何もない。

 塔の窓から見える景色は、遥か彼方に都市の街並みが微かに覗くだけだった。

 その場所に今向かっている。

 それはジンにとっては不安と期待の入り交ざった複雑なものだろう。

 だが、シドにとってはもっと別の種類の複雑なものがあった。


 ジンは塔で生まれて塔で育った。

 塔から出るのは生まれて初めてのことだ。

 一方のシドは違う。

 少年時代までを都市で過ごしている。

 都市での思い出も朧にではあるがある。

 都市に知り合いもいる。家族もいる。

 そこに戻ることに対する感情は複雑だった。

 全てを捨てて塔に辿り着いた者として。


「そろそろ脱出しなきゃ。地下に潜る頃だろ?」

 ジンの言葉でシドは視線を塔から外した。

 ジンが手際よくすでに扉の鍵を解除していた。

 ゆっくりと開かれた扉から外の風が入り込む。

 汚れきった風がそれでも澄んでいるように感じた。


「羽を呼び出せるか?」

 確かにこのスピードだと飛び降りるのは躊躇われた。

 ジンのワンズは旧式だ。

 だから、呼び出せるモノが極端に少ない。

 一応改造はしてあるとはいえ、それでもやはり動作も遅く性能が悪かった。


「俺も古い型の羽しかないからなぁ……二人は結構キツイかもな」

 シドのワンズはジンのよりも少し新しいタイプだったが、よく使うもの以外はあまり性能のいいものを入れていない。

 不安はあったが、時間がなかった。


 手の甲のワンズが青く光ると同時に、シドの背にカラクリの小さな羽が呼び出される。

 完全に呼び出されるまでの僅かな間に、シドはジンを抱えて外に飛び出していた。


 ふわり。


 軽く浮いてすぐに地面に着地する。が、うまくいかず砂の上に転がった。

 バラバラになった羽の欠片が散乱する中、二人はなんとかそれでも無事に外に脱出できていた。

 それを確認して、ゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。


 地下に潜って行く列車の先に、巨大なビル群の遺跡が見えた。

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R-0:Misfits Wizard 紬 蒼 @notitle_sou

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