Chapter7-2「初遭遇」

暴漢?を撃退ころした後、私とメアは別の町に向かっていた。

この世界は無数の町や村が地図一杯に広がっていて、その一つ一つに名前が付けられている。付けたのはいつかの転生者らしい。

その証拠として、村や町の名前は私の世界の軍艦の名前が用いられている。

重要そうな、もとい大きく発展した街なら私でも知ってるような有名な軍艦の名前が、そうでもないのなら本当に実在するのだろうか、と思ってしまうようなシンプルな名前がつけられている。

先に話したキルストリークたちはアメリカ軍人なので、自分の国の軍艦の名前に詳しかった。後者の町名は駆逐艦が殆どで、時々軽巡洋艦の名前が使われているらしい。

自分達が現役の頃は図鑑でしか見たことないか、無理矢理な魔改造で歪な現代兵器へと変貌したらしいけど。


とにかく、私はアトランタから別の町、自治区へと向かっていった。

自治区とはあるが実際は五大国に実効支配された植民地だそうだ。私には、どうでもいいことではあるのだけど。

ただ、馬車や自動車、後に利用することになる他の機械種たちを使うよりは歩いて町と街の間の風景を見るのは好きだった。

戦火は続き、魔物も跋扈する危険地帯とは言うけれど。

私が歩いていたこの道は静かな草原が続いていて、平穏そのもののような空間だった。

とても私のようなものが、歩いていいようなものではないと思ってしまうほどに。

因みにメアにはウォーキングが趣味だと嘘をついている。

あるいは馬車代の節約とか食後の運動とか適当な事を言って付き合わせていた。

無論、彼女だけを先に行かせるのもありかなと思ったのだけど、そういう星の下にでも産まれてしまったのか、私が彼女と出会った二回は共に窮地に陥っていたので、それを警戒していたのかもしれない。恐らく全部違うのだろうけど。

私すら、わたしのことがわからない。


いそいそと後を追いかけるメアを尻目に、私がそうして耽っていた時に彼女は来た。

これから何度も遭遇する、きっとライバルという関係の彼女が。


始めに耳に入ったのは轟音。ジェット機が空を飛んでいるような音、と言えばいいだろう。それが突然聞こえたと思ったら、私の目の前で何かが土煙を豪快に上げながら着地した。着弾か、落下と言い直してもいいかもしれないほどの勢いだった。

彼女は本当に唐突に降ってきた。後に話せるようになったあとに聞くと、私のあとをずっと飛んでいたらしい。

彼女なりにヒーローらしい登場を考えた結果なのだろう。土煙を装甲化された翼で吹き飛ばしてその姿を見せた。

あとで知ったことを混ぜて話すと、彼女は私が出会ったクモ型ロボットと合体した直後で本来のカラーではなかったらしい。

最初に出会った彼女は、身体の色んな所にダクトテープのようなものが巻きついていて、装甲と身体の接合面から血が滲んでいたりして急造品、という印象だった。

彼女本来のカラーではない、紫色と黒のツートンカラー。

それが私が最初に見た、有栖川クロエという女だった。

「シーナさん!何が起きたんですか!?」と後ろからメアの声が聞こえてくるのを聞きながら、クロエの登場を呆然と見ていると彼女は得意気に、急造品らしさが強く表れている銀色の未塗装部分が目立つ指を指して言い放った。

「ようやく追いついたぞ!この人殺しめ!」

その時、メアが言うにはそれを聞いた私の反応は。


「…チッ、見られてたかそんな、私は人なんて殺してない!」と凄く小声でつぶやいていたという。

「シーナさん?」と彼女が困惑の表情で聞いたのはそのためだったのだろう。

その時私はどうしていたのか分からないけど、代わりにメアが口を開く。

「ち、違います!シーナさんは…多分何も意味もなく人を殺すような人じゃないと思います!私を二度も助けてくれたし…!」

反論してくれたのは嬉しいが、メアでさえ私が系の動機で人を殺すかもしれないと思っていたのは少しだけ残念だった。とはいえ、私のこれまでの挙動たたかいを振り返ると、むしろ今まで理由があっただけでもよかったかもしれない。

反論されたクロエことメカ女は、思わぬ反論を受けたのかむぅと漏らした。

彼女はこの後も似たように自分の発言や決定に自信がないように、答えに困るような素振りを見せることが多かった。

私と同じくらい何も考えずに、正義の味方というものを求め続けていたからなのだろうか。自分がその正義の味方になるつもりにしては、意思が弱いような気もする。


あるいは、彼女は真っ直ぐすぎる故に反論されるとどうしていいか分からなくなってしまうのかもしれなかった。

私はどうでもよかった。私は、わたしの邪魔をするのなら排除する。それだけだから。

ただこの時のクロエは「だからしかし、現に証人が後ろにいるのだ!私も彼らのあとをつけていたのだからな!」と得意気に私とメアの後ろを指さした。

この時の私は「それはどういうこと!?」とか言った気がするんだけどメアが言うには。

「…くそっ、もう憑いてきたかそれはどういうこと!?」だったらしい。

「シーナさん!?」「もっと壊してから行けばよかったあの傷で動けるはずが…そもそも死んでいるはずなのに!」「シーナさん!!?」

こんな感じで真っ当なことを言っていたつもりだったが、この時の私はまさに犯罪者のような言動だったらしい。

「で、でも、あんな状態で私達のあとを追えるはずが…っ!?」私の代わりにメアが言って、後ろを振り返って絶句したのでなんだと思って後ろを振り返ると。


ホラー映画のように、私にやられた状態のまま、まさにゾンビのようにじりじりと近づいてくるあの暴漢たちの姿が見えた。

恐ろしいのは私がどうやったかして胴体を分断された男もそのままの状態で這いずってきている所だったし、私が投擲したレンガで頭部を粉砕された男もそのままの状態で来ている所だった。本当にゾンビか殺人現場の幽霊めいていた。

これには当のクロエも多少驚いていた。多分空を飛んでいる最中に見かけたので、そこまで細かく見ていなかったのだろう。

あなたはあれが証人になると思ったの?本当に動いてる…どうして…?

「動いているなら喋ることもできる…はずだ…?」

多少の無茶を言うが彼女も暴漢たちの状態を見て言葉を詰まらせた。

だが問題はここからだった。


暴漢が一列になって立ち止まったと思ったら、その身体が、

ただ肉塊になったのではない、突然色を失ったように銀色になったと思ったら一瞬で銀色のスライムのように形を失って溶けたのだ。

「なんだ!?」「ひっ!?」襲撃してきたはずのクロエとメアが同時に声を上げる。

彼女の生前にはなかったのだろう、人間が溶ける光景なんて。私の記憶にもないけど。おまけにそれが銀色のスライムのようになったのならなおさらだ。

その直後、そのスライムが持ち上がって改めて形を象り出した時に、私は目の前のそれが先程惨殺した暴漢たちではないと分かった。

緩やかな曲線を描いた、鳥のくちばしのような頭。

鎧のようにも見えなくはない体の凸凹。しかし全体的に流線形の身体。

デフォルメされた宇宙服のように先端が膨らんだ手足に、ものを掴むには不便そうな爪。

頭に一対、身体の各部から生えた触角のようなもの。

宇宙人の騎士。そんな言葉が浮かぶような外見のそれが、二体。

私に分断された方の暴漢を象っていたそれは、どうも元の姿に戻れなかったらしく、もう一体が手を伸ばすと、銀色の剣と盾に変形してその一体の武器となった。

「メア。近くの岩場に隠れて丸まってなさい」何を思うこともなく、私はそう言った。続いて私はクロエに「あなたはあれでも証人と呼ぶ?」と聞く。

「もしかしたら金属生命体かもしれないからな…」と私への警戒を解かずにそれを注視して。


ギュンッ!と金属質で何かが高速で動くような音が聞こえたと思ったら、武器を持った方が盾を構えてクロエに体当たりをしていた。

そしてもう一体は、爪が伸びたと思ったその瞬間には私の首目掛けて爪を突き出していた。


椎奈に言われたように近くの岩陰に隠れながらメアは二人の戦闘を見ていた。

突然現れた女性が見た事もない速度で体当たりを受けて吹き飛んでいき、続いて椎奈と組み合っていた。

だが彼女の目には、二人が見えていた。

「どうして……?」

椎奈とクロエには銀色の怪人に見えていたそれは、メアにはギルドで何度も見かけた転生者の装いをした青年だった。

何かを言いながら椎奈とぶつかりあっている。恐らく高速移動のスキルを発動して畳みかけているのだろう。しかし。

椎奈の拳が怪人の爪を砕く。正確には彼女の指と指の間から飛び出した刃が爪を砕き、その先の腕に深く突き刺さっていた。

メアには、転生者の<超高速>をものともせず椎奈が彼のロングソードを叩き折って柄を握っていた手も砕いているように見えた。

怪物が甲高い、金属質と例えるような叫び声を上げて砕かれた腕を持つ。

転生者が聞いたこともない悲鳴を上げて拉げた手を握る。

直後、砕いたはずの爪が元通りに修復された。

<自己再生>を発動して拉げた腕を再生させた。

続けて椎奈がそのくちばしのような、あるいは兜のような頭部に頭突きを叩き込む。

だが、今度は椎奈の頭突きがその端正な顔つきを潰した。

そこで、メアの目に異常が起きた。あるいは、怪物の何かが異常な事態になったの

か。

転生者の身体が感度が悪くなった魔法通信の映像のように歪む。

すぐに元に戻るが、次第に耐え切れなくなったようにその外見が歪み続けて、そこに現れたのは銀色の怪物だった。しかしメアの目にはまだ転生者の顔が見えていた。

問題はその顔が、まるで歪んだ鏡、正確に言うとスプーンの表面に映ったように歪んでいることだった。着ていた黒いロングコートもまだ残っていたが、それもまるでプリントされたように(メアはまだ印刷技術を知らなかったが)怪物の表面を彩っているだけだった。

そのあまりにも異様な光景にメアが本日数回目の悲鳴を上げる。

悲鳴に反応したのは椎奈ではなく怪物だ。椎奈と対峙していたが突然踵を返して岩陰に隠れていたメアに向かう。

メアがそれに気づいた時には、既にその歪んだ転生者の顔にうっすらと自分の顔が映るまでに近づかれていた。彼女が悲鳴を上げたり顔を覆うなどの行動を取るよりも速く怪物が左腕の爪を繰り出し、彼女を引き裂こうとした。

だが怪物がメアを引き裂くよりも早く、椎奈が投擲した大剣が怪物の胴を貫いて動きを止める。「!??」と金属質の悲鳴を上げて怪物が悶えた。

「何をするために追ってきたか知らないけど…!」怪物の背後から椎奈の声が聞こえる。今度は怪物が後ろを振り向くよりも速く大剣が引き抜かれ、代わりに彼女の両手が突き入れられる。

「私に復讐でもしに来たなら、私だけを襲えぇっ!!」怒号の後、尋常じゃない力で怪物を真っ二つに引き裂いた。

銀色の肉体が真っ二つに引き裂かれ、左右に散らばりながら急速に風化していく。

これだから意志の弱い復讐者は…っ大丈夫!?怪我はない?!」

「シーナさん変なもの食べました!?っあ、怪我はないです、すみません…!」

「まだ一体ともう一人いる!隠れてなさい!」「はいぃ!」

再び岩陰に隠れるメアを尻目に見てから、正面を向いた椎奈がもう一体の怪物がボロボロになりながら今度は女、クロエの飛び蹴りを食らって吹き飛んできたのを見た。

「ははっ!こいつはすごい、すごいぞ!前の私よりも自由だ!未完成みたいな見た目なのに、数千万かかったスポンサーのロゴだらけのアーマーより硬くて、重たい燃料がタンクがないのにいくらでも動けるなんて!」

嬉しそうな声を上げながら黄色よりも金色に近い色の光を機体各部から放ちながらクロエが飛んでいる。憑き物が落ちたようにというより、やっと自分の思い通りになったのを心から喜んでいるように。

「この力だ!この身体なら今度こそ、今度こそなれるんだ!私の目指したスーパーヒーローに!」よろよろと立ち上がった怪物を前にクロエの後方が一際輝いたと思ったら、彼女がエネルギーを纏って飛び蹴りを放ち、怪物を貫通しながら着地。

不思議な事に怪物の胴体に空いた穴はクロエが通るには小さく、また光を放っていた。ガクガクと怪物が痙攣した後、大爆発した。

椎奈の目には、恐らくだが背中のブースターか何かが最大出力で駆動して強力な飛び蹴りめいた突撃を行い、怪物を爆砕したように見えた。

「やった!初めて上手くいったぞ!」見事な必殺技を放って敵を粉砕したクロエは少女のように飛び跳ねて喜んでいる。今まで何回か試みたが、彼女が放った飛び蹴りは上手くいかなかったか、命中すらしなかったためである。

因みにこの場合の上手くいかない、は、相手を貫通したように見せかけようとしたらそのまま相手にぶつかってしまったり。

「今の初めて成功したの!?」「正義の行いというのは一日にしてならずだ!次はお前だ!…えーと、シジミ?」

「私は貝になりたいなんて願ってないわよ。復讐者証人を粉砕しておいてまだ私を人殺し扱いするとはね」

「もしかしたら心優しい金属生命体だったのがお前の手によって悪性に堕ちたかもしれないのでな!」

「その悪性に落とされた生命体にぶっ飛ばされてたでしょうが」

「問答無用!」

そう叫んだあと、クロエが先程と同じ光を放ちながら椎奈の目では認識できない速度で突っ込んできた。本能か反射なのか彼女が防御という考えを過ぎらせるよりも速く触手が前方を覆った。

直後、椎奈が吹き飛んだ。巨人に叩かれたように吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転がっていった。前方を覆っていた触手は無惨にもバラバラに四散していた。

不思議と痛みはなかった。痛いが、悲鳴を上げるほどではなく。

ただ、バラバラになった触手を見て次は自分がこうなるのだろうと言う予想が夢を見ているかのようなぼんやりと思い浮かんでいた。

一方のクロエはクロエで、全能感と言うような高揚感で頭がいっぱいになっていたが、一瞬だけ、サイバネ強化された彼女の目が捉えた情報がなんなのかを少しだけ惑った。

椎奈の首、そして目元がぶつかり合った一瞬だけ、妖しいピンク色の光が見えた。

眼光というよりは、光る霧のようだった。

まるで怪獣みたいだと思ったところで、続けて追撃行動に移った。

同じように体当たりめいて突っ込んでくるクロエ。彼女自身、この身体を得たばかりで何ができるのかさっぱり分かっておらず、生前最も得意とした急加速での突進を繰り返してばかりである。他は格闘とは言うだけの本当に殴る蹴るだけの暴力か、ヒロイックな塗装と形状にカスタムされたサイボーグ用大口径拳銃。

他にもいろいろ武装はあったのだが、その全てがヒーローらしさを感じなくて、彼女にとっては嫌悪でしかなかった。

自分のヒーロースーツの悉くに描かれた、企業のロゴも。

二度目の衝突が炸裂する。クロエ由来の強烈な閃光が迸り、椎奈が咄嗟に繰り出した巨蟲の脚と彼女の拳がぶつかり合い、反動でクロエは吹き飛ばされ、椎奈の方は触手と同じように、虫と象と蟹の脚をいい感じに混ぜたような脚なのか腕なのか分からない器官が粉々に砕けた。

破壊性を指向された生命エネルギーによるものだ。もっとも、この時はクロエも椎奈も知る由もなかったのだが。

触手と器官の片方を失うも、先ほどと違って転げなかった椎奈は大剣を振り上げて躍り出す。

振り下ろされた大剣を払おうとしてかクロエが腕を振るう。その時、眩い光が両者の目に飛び込んで、次の瞬間には椎奈の大剣が真っ二つに切断された。

クロエの左手、竜を模したようなガントレットの掌からサーベル状のエネルギーが伸びていた。

椎奈もクロエも、本人の思考とは関係なく身体が身体に適応しているかのようだった。

溶断された大剣の刃が解放されたように何処かへ飛んでいく。少女が獣の叫び声を真似るような絶叫を上げて椎奈が折れたというより切断された大剣の柄をクロエに投げつける。彼女の頭を覆うヘルメットに当たり、金属音を鳴らして柄も何処かへ転がった。

「ケダモノか貴様は!」「反則よそんなモノ振り回して!」「ヒーローだから仕方ないだろう!」「答えになってないわ!」

まるで子供の口喧嘩のような会話の後、椎奈が拳を振るって、クロエもそれに続いた。ただし拳の椎奈に対し、クロエは掌。そして受け止めるのではなく、手のひらから先程から度々放っている光を吐き出して、その先の椎奈の拳、右腕を服の袖諸共焼き払った。

「熱い」系統の絶叫を上げようとして激痛と熱量で言葉にならない悲鳴を上げる。

クロエは何度も嗅いできた人が焼ける臭いを感じるが、同時に人じゃない何かが焼けたような臭いも感じ取った。例えるなら、虫。もとい植物。枯れ草ではなく、瑞々しい緑のままの草を焼いた時の青臭いような臭い。

しかし、トドメを刺すチャンスと見てその違和感を無視してクロエは大きく飛翔する。

「トドメだッ!」そう叫んで必殺技を言うこともなく先程と同じ神々しい光を纏ってキックのポーズを取って急降下する。


が。


椎奈の目には、突然光を失ったと思ったらそのまま顔から滑るように落下してくるクロエの姿が見えた。

それは彼女も予想外らしく「あ、あれ…!?どうしたんだ、なんで…?」と先ほどまでの自信にあふれたような表情から一転して困惑の一色に変わっていた。

「う、動けない、なんでだ!何が起きてるんだ!?」加えて何故か身体が動かなくなったようでジタバタともがくも、軽快に動いていた身体は糸が切れたようにピクリとも動いていない。

代わりに、右腕を支えながら椎奈が明らかに助走をつけるようにクロエに向かって走ってくる。

彼女は、椎奈が何をするつもりなのかをすぐに察した。

「ま、待って!今私それどころじゃ――――」制止を求むが、椎奈の顔の表情で通じないことを理解したのと、続きを言うよりも速く椎奈のブーツが視界一杯に広がって、次の瞬間には自分が宙を舞っているのを感じた。

椎奈の渾身の蹴りは、クロエの装甲増しの体重をものともせず彼女を数メートル打ち上げていった。続いて、先ほど粉々にされた巨蟲の脚のもう片方が焼き焦げた右腕の代わりに握りこぶしを作り構えるように動く。

そしてそのまま自由落下してくるクロエ目掛けて器官が渾身の右ストレートを放つように飛び出して、彼女の胴に当たる寸前に動いたクロエの両腕を仮止めされていたようなプレートごと拉げさせ、そのまま彼女を吹き飛ばしていった。

今度はクロエの方から竜が出しそうな悲鳴を、女性が真似ているような叫び声を上げながら宙を舞い、また落下すると思いきや明らかにロケットエンジンが突然火を噴くように背中の機械化された翼から火と煙を噴き出して空中で留まった。

椎奈渾身の蹴りを受けたとは思えないほど綺麗な、しかし多少腫れた顔を向ける。

「…き、今日は調子が悪かっただけだ!次は、次はこうはいかんぞ!この身体だってまだ本調子じゃないんだ!そうに違いない!次こそお前を断罪…裁く…ええと…」

「ヒーローなのに敵をどうするとかは決めてないのね…」

「と、とにかく次はやっつけてやる!震えて待つがいい!」

そう言って、クロエが轟音を響かせて空の向こうに消えていくのを見届けてから、岩の陰に隠れ続けていたメアを呼ぶ。

「あの人どうしたんですか…?」「蹴っ飛ばしてぶん殴ったら捨て台詞を吐いて飛んでっちゃった」「えぇ…。でも、また会うことになるんでしょうか…」

「震えて待てと言うから、バイブレーションで知らせてくれるのかも」

「バイブレーション?」「知らないか、まあ震えて待つみたいなものだよ」

そう言って、椎奈は何事もなかったように歩き始めてそれを追おうとしたメアがボロボロになった右腕を見て本日数回目の悲鳴を上げることになった。


そして。


「なんでトドメ刺さずにそのまま逃がしたんだこのナメクジ!」

「いちいちナメクジって呼びながら人の乳を叩かないでよ!女の子は殴っちゃいけない場所がいくつあるか知ってる!?」

後日その出来事を話した椎奈にカーネイジがしたのは彼女の巨乳にビンタを食らわせることだった。

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