幕間。わたしのめ

「ではどうしたらいいというのかしら?」

それは分からないとしか言いようがない、質問。

わたし。わたしは。

どうしたらいいのだろうか。


わたし。

は。

足りないのだ。

欠けているのだ。

満たさなければならない。

でも、どうやって?


それは…

ああ、また。

またわたしが私になるにつれて、わたしがなくなってしまう。

僅かな胸騒ぎだけとなって、わたしが消える。


ぎょろり。と私は目を開く。

私はずっと、目隠しをしているので、目が空気に触れるなんてことは、ここ最近はあり得ないのに。

私は目を開いている。鏡を見る。顔を、見なければ。

そこに写っているのは当然私だ。

問題としては、わたしの、目だ。

三つの目が、歪に目隠しを裂くように見開いている。

えっとドキッとして目を閉じてもう一度開くと、そこには目を隠した私が写っている。

問題ない。しかし、私のその目玉というのはまたヘンテコで。

ちゃんとものが見えているのか不思議になるレイアウトで目隠しから飛び出している。まるで目隠し自体が、一つの大きな、一体化した瞼のように。無秩序に作られた瞼のように開いている。

その三つ目が変な位置で開いているのだ。普通、三つ目の目は額に生えたりするはずだ。

私の場合は、幻覚の私の三つ目は、私の顔についた爪痕のように瞳を開いている。

その内、鏡を見ているのは一つだけで、残りはあらぬところを見ている。

私の視界は、どういうことになっているのだろうか。


一度、目隠しを取ってみる。ある種のアクセサリーとして販売されているこれは、エルフが作った目を保護するためのものらしい。砂塵や毒から目を守るそうだ。

買ったその日から外した覚えがないなと私は思いながら、私の本当の目を見る。

そこには、ちゃんと人間らしいレイアウトに収まった、私の二つの目玉があった。

転生した、ここに来た当初は、吸血鬼なのか獣なのかはっきりしない瞳だったと思ったのだけど、そこに収まっている目玉は普通の人間のようで、違う。

瞳孔がどこにいったのか、開きっぱなしになっているのか、それがない。黒目と白目があるのは分かるのだけど、白目はあるけど黒目にあたるものがない。

いやある、あるのだけど、人間いや生物として機能しているのか怪しい。

ただ、可愛く言えば猫か吸血鬼のようでそうでなく、ならトカゲのような爬虫類かと言われればそれでもないような、独特の細長さを持った瞳孔が、そこにある。

色は、赤い。そんなところはなんだか可愛らしいなと思い、私は目隠しを巻き直す。

鏡に写っている私は、もう三つ目ではない。


ただ、私は適当にグルグル巻きにしたつもりなんだけど。

鏡の向こうの私の目隠しは、しっかりと巻かれていた。髪の上に乗らないように、丁寧に。


私は鏡から去って、もう一度布団をかぶって、目隠しの向こうで目を閉じる。


そして、わたしが目を開く。

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