WXIV‐Epilogue→Prologue「私は間違ってなんかいない。だけど世界は認めてくれなかった」
私の名前は有栖川クロエ。ヒーローネームは「ユスティシア」。
詳しい意味は知らないけど、正義という意味らしい。私にぴったりだ。
さて、私が置かれている状況は単純で。
私は今まさに殺される所だ。
正確には、国連直属のヒーローだ。名前は確か「ビッグブラザー」。
戦争で兄を亡くした元海兵隊の黒人で、パワードスーツを纏って紛争地帯で活躍している。
そんな彼が、日本ヒーローの
周りは破壊され尽くされた戦車や戦闘ヘリ、テロリスト…テロリストだと思った人間だったものが転がっている。全部私がやった。
私が破壊したのだ。彼が紛争地帯で活躍しても、紛争は終わらなかったから。
そしたら彼が来て、私と戦って、私は負けてたった今殺される所だ。
何故なのかは私が聞きたい。だが分かるのは、私は悪にされたということは確かだ。
理不尽な話だと私は思うし、今に至るまでずっと思っている。
そう、私はいつだって理不尽に苛まれていたのだ。
私が物心ついた時から。
私が産まれる前、第三次世界大戦という大きな戦争が起きた。
小中高と学んできて分かったのは、日本も巻き込まれたということと、終戦したのに今も至る所で火種がくすぶっていて、それが紛争を産み出しているということ。
それと、私の父が自衛隊の中から国連軍に向かい、戦って死んだこと。
父は正しいことをしたと思っている。しかし世間と母親はそうじゃなかったようで、私は「人を殺したくて自衛隊を辞めたサイコパスの娘」としてユスティシアとして活動するまでいわれのない中傷を受け続けることになった。
いや、ユスティシアとして活動していた時も度々言われていたような気もする。
とはいえ私はめげずに、父のように人々を守る人間になりたくて活動していた。
私はユスティシアになる前からヒーローになろうとしていたのだ。
しかし、大抵は助けようとした相手からも口撃される始末だった。
いじめられっ子を助けようとしていじめっ子と果敢に戦って、その後いじめられっ子に罵倒されるのだ。
報復されるとかではない、単純に私という人殺しの娘に助けられたことが不満だったようだ。まあ、いじめっ子が死なないでもない限りはいじめが終わるとは思わなかったけど。
だからこそ、戦う時は全治一ヵ月以上は持っていくつもりで臨んでいた。
そうして度々トラブルを起こしては母親を呼び出され、そして母親にもヒステリックに怒鳴られたのだが、私はやはりめげることなくヒーロー活動を続けていた。
何せ私はヒーロー番組が好きだったのもある。画面の中のヒーローたちに憧れていた。
高校に上がった辺りで、私は遂にヒーローになると決意した。
どうせ母親には反対されるので、私は独断でヒーローになるべく資金を稼いだ。
なんでもやったとも。少なくとも強盗や殺人以外で。
その時母親は…確か、反戦団体の一員だったような気がする。
反戦団体と言っても、近所の政治的に偏った人間が同調圧力で集めたようなものだったけど。
そんな母親を無視して、私はついにサイバネティスク施術を受けれるだけの資金を稼いで、ユスティシアへと生まれ変わったのだ。
しかし、ヒーローになっても私は満たされることはなかった。
現実のヒーローは、私が見ていたヒーローとはかけ離れていたのだから。
はっきり言ってしまうと、ヒーロー組織は芸能人やタレント、なんなら
無論悪事を阻止したり、悪党を退治すると言ったヒーローらしいことはやっていた。やっていたとも。
だけど、殆どが宣伝や台本を読んでスピーチをするだけの仕事だった。
何とも言えないまま何年か過ごしていくうちに、母親が自殺したという連絡が入った。
私がヒーローになったことで団体内で村八分に遭い、それを苦に自殺したらしい。
遺書には私と父親への恨み言が書いてあったという。
葬儀には行かなかった。
同時に、私が待ち望んだ悪が現れた。正確には悪の怪人が。
というよりも、サイボーグによる犯罪や紛争がいよいよ生身の人間では対処しきれなくなって、私たちヒーローに白羽の矢が立ったのだ。
もちろん私も意気揚々と向かった。
その果てがこれだ。
私は果敢に戦った。私だけが。他にも数人いた。たった数人。私含めて。
他は何もしていなかった。精々紛争地でヒーローショーの披露くらいか。
理由は簡単だった。彼らは戦闘用サイバネを有していないばかりか、本当にヒーローのコスプレイヤーだったからだ。
私のように本当にヒーロー活動をしようと思って身体を改造していたのは数千人いてたった数十人。そしてサイボーグ兵士と同等に戦えるのは私を入れて数人だった。
ついでに言うと、戦うたびにあれやこれやと問題の修正を求められた。
だから私は。
こうした。
見るがいい。
ヒーローが憎悪に飲まれた退役軍人を台本通りのセリフで説得している間に、私は退役軍人が現役で引退できるようにしたぞ。
私によって、紛争は終結した。サイボーグ兵士も、テロリストも全員私が倒した。
私が平和をもたらした。
ついでにヒーローの振りをする不届き者たちも粛清した。
それを守ろうとしたものも。
私が、私こそが、
「違う。お前はただのケダモノだ」
彼は冷酷が似合うくらい冷たい言葉で私の熱狂を引き裂いて、私の頭を撃ち抜いた。
そして私は死んだ。
のだが、私が次に目覚めたとき、そこは何処かの平原のど真ん中に空いたクレーターの中心。
そして私の前には、大破した青い機械の蜘蛛がいた。
「お前、たった今転生したのか。そうか、丁度良かった。本当にいいタイミングだ」
「待て、ここは何処だ。私は死んだはずだぞ」
「話をする暇はない。結論から言うと、お前は生まれ変わったんだ。そして今から俺が力を授けてやる。もっと強い力をだ」
「どういうことだ?いったいここは何処で、お前は誰なんだ」
「それはこの後分かる。いいか、生き残れ!」
「生きて、生きて、生き残って、強く進化しろ!俺が今からその助けをくれてやる!」
「お前が、十三番目になるんだ!」
その言葉の直後、蜘蛛がまばゆい光を放ってバラバラに分解されたと思ったら、まるで捕らえるようにクロエに部品の山が覆い被さってきた。
そして部品は細かく形を変えながら、クロエの身体に突き刺さるようにして合体していく。
混乱と激痛でクロエが少女らしい悲鳴を上げる。
そして合体が終わると、そこには青い装甲を身に纏った竜の少女が立っていた。
彼女の名前は有栖川クロエ。
ウェステッドの種族は竜種。
更に機械種と合体したことで、彼女は機竜種となったのだ。
その事を彼女が知ったのは、それからしばらくしてのことだった。
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