いずれ農業は自然負けていくと思う。

田んぼを耕していると、カラスやトンビ、青サギが飛んできて耕した跡に止まる。彼らの狙いは耕された土からでてくるカエルやミミズ、時にはネズミの場合もあるが、山近くで農業をしている人にはさほど珍しい光景でもない。


トラクターの低いシャフトの回転する音が響き、緑色の大地を土色へと変えていく。


青いにおいがする。


緑を刈り取るとする匂い。


歪な生態系、土色になった田んぼを眺めていると農業とは自然との闘いであるとつくづく思う。


などと感傷的なことを一日中トラクターに乗っている間に思ったり思わなかったりする。トラクターの操作はトラブルがなければ暇と眠気との戦いなんだと思う。



ところでここ10年ほどで農業従事者が70万人ほど減ったらしい。60年前には1000万人ほどいたが気づけば137万人近くまで減少した。この数字だけで話すなら農業への関心と3Kのような印象のある仕事をしたいとは思わないという人たちが増えたと考える人もいるかもしれない。


普通に仕事をしている人の3%が農業を仕事として働いているということからも農業で働いている人の少なさは簡単にわかるのだから、1960年代の人口の20%が農業の仕事をしていた時代とはまるで違う60年という歳月で人々の生活がどれだけ農業と関係が無くなっていたかがわかる。


農業に関係する人たちが2020年で137万人しかいないのだから、10分の1になるのもそう遠くないことは農業従事者の平均年齢が年金世代であることあることからも簡単に理解ができる。10年でも平均年齢は下がった気もするが、ただ農業をやめていったお年寄りが多かったというだけなのだろう。


そんなに農業をする人が減って60年前の10分の1になったら田畑は荒れ果ててということには今のところなってはいない。多分そう遠くないうちになるだろうけど、それでも60年と歳月はトラクターなどの機械化や効率化によって人ではかなり必要ではなくなったということは大きい。


そして利便性のある農地は人口の増加とバブルの時代などを経て都会などからは消えていき、都会近辺で農地はかなり限られる。早い話が農地は田舎に残り、都会からは着々と消えていった。


人が集まる地域での農地の減少はそのまま農業従事者の減少に直接影響している。多くの人が今住んでいる土地から離れて仕事をしようとは思わない。たまにそういった移住とかを考えている都会の人がいないこともないが、近場の仕事で農業の仕事がなければ選択肢に入ることはない。


そうなると田舎に住んでいる人たちから農業従事者がでてくるのが必然ではあるのだが、兄弟がいてもいなくても農業は3Kと考える人が多い仕事ではあるし、筒井康隆の「農協月に行く」のように土地転がしで金持ちになれるほど田舎の土地に価値が出ることもなくなった。


先祖代々の農地は若者にとって負債であり、そんなものは見ないことにして都会に出て仕事を探したほうがまだましと考えて兄弟がいようが一人っ子であろうが、片田舎から地方都市、できれば東京か大阪あたりで働きたいと考えて家を飛び出していく。


こんな話は1970年代のNHKで放送されていた新日本紀行などで農村や漁村がでてきると口々に言っている問題なのである。50年経っても何の解決もされていない問題だ。


1983年、中島みゆきのファイト!という曲の歌詞の中で田舎の町から東京へと出て行こうとする少女が東京に出て行けば残った身内に嫌がらせをするという旨の歌詞がある。


1975年まで集団就職列車が走り田舎から都会へと男も女も就職者送り出していた時代がたった8年前の前まであったのだから田舎から都会へと出て行くことが極端に珍しい話だったわけではない。


ただ1970年ごろになると、がむしゃらに働いて日本を前進させる時代から、文化を楽しむ時代へと変化していったという気がする。それを感じさせられるのが1970年の国鉄のCMからも見えてくる。若い2人の女性が日本の見知らぬ田舎を旅行するというCM、若者が立身出世という夢ではなく、娯楽を楽しむ余裕が生まれ、大人たちも段々とその空気になじんでいったのかもしれない。


1980年代になるとたった20年で農業従事者は500万人前後と気づけば半分の以下になり、がむしゃらに生活を良くしてきた世代ではなく、戦後世代たちは周りを見渡すと家を継ぐ人がいない家がちらほらと見えるようになって後継者の問題を意識したのかもしれない。


まだこの時代は、長男が家を継ぐという考えも根強いので男は残るが女性が家を継ぐという考えはないことから、家から離れて行ってしまうと帰ってこない。お見合い結婚も1970年には間違いなく恋愛結婚が上回ってしまっているので、遠くから結婚するまであったこともない家に嫁ぐということを考える女性もかなり減っていたのではないか。


中島みゆきのファイト!の歌詞では燃やせなかった東京行の切符を送って持っていてもらうという歌詞があることから、女性と一緒に出て行く男性がいた。しかし男性は引き止められず、女性のみ脅されて東京へ行けない。


そんな強引なことをしてでも田舎を維持しようとした時代を歌詞から感じてしまう。曲の実際の意図とは違う解釈をしている気がもするしうろ覚えの記憶から書いているので間違ていたらすいません。


そんな中島みゆきのファイト!が作曲されてから40年という歳月も経ち、気づけば多くの集落が消えていっている。調べればわかるがテレビでは取り上げるようなこともなく、毎年確実に減少している。



少子化問題すると言われて40年経っても解決しない日本では、そんなの農業従事者の問題も解決することはないんだろうなと投げっぱなしでとりとめもない話は終わろう。


1時間も書いてたから終了。

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