鉄格子と懇親会

 たったの14歳で自作の高威力爆弾を使いこなし、普段は傭兵としてエリア外で活動することも多いメア。彼女には、まだ7歳の可愛らしい妹がいた、戦闘訓練も始めようとしていた頃だった。戦闘行為が当たり前の日常にいても、心の中の何処ドコかで[妹のことは自分が必ず守ってみせる]という想いを持っていたのだ。まさか、いつものように「お友達と遊んでくるっ」と言って笑顔で出ていった愛しい妹が瀕死の状態で帰ってきて、そのまま自らの前で何も出来ずに息を引き取るとは思いもしない。メアは、自分が持っている縄張りと、仲間を大切にするタイプの人間だ。普段どんなに情け容赦なく敵を殺していたとしても、たった1人の肉親を失った衝撃と哀しみは、敵数百人を葬っても有り余るほどだと思えるだろう。


 鉄格子周辺は任せて欲しいとリューヴォに申し出たメアは、仲間たちと共に黒いツナギ姿に着替え、それぞれリュックサックを背負って匍匐前進ほふくぜんしんで鉄格子までって行くと、格子の強度や太さを丁寧に調べた。この鉄格子がなんの為に設置されているのかを知っている者は、Xエリア内でも各分野の筆頭6人だけだ。普段はただの鉄格子だが、外敵に襲われたときのみに作動する仕掛けがある、それがきちんと働く状態かを確かめに来たのだ。通信機をONにしたメアが、四方八方に広がって鉄格子に向かった仲間たちへ言葉をかける。


「─こちらメア、各方面、確認はできた?」


[こちら1番隊、問題なし]


[こちら15番隊、問題なし]


[こちら27番隊、問題なし]


 その後も続々と入ってくる[問題なし]との報告にニヤリと嗤ったメアは、次の作戦に移ることにした。リュックサックに詰め込めるだけ詰め込んで持ってきたC-4…高威力のプラスチック爆薬を取り出し、扉以外の場所にペタペタと貼り付けて起爆装置を埋め込む、これで最初の仕込みは完了だ、他の隊にもC-4の取り付けを指示した。こうして、たったの数時間でメアがやりたかった事は大体終わった。これは日が沈んだあとの作業だ、だから目立たないように黒いツナギ姿だったワケだが、フェルディナン達スパイからの情報で彼等は今日この夜は動かないということだったから、この時間帯を選んだ。余った分の爆薬は、来たときと同じく匍匐前進で引き返しながら鉄格子からさほど遠くない場所に埋め込んだ。それから、あらかじめしるしを書き込んでいた場所に全員の手作業で爆薬と起爆装置を大量に仕掛けていく。時間は既に深夜帯に突入していた、全ての準備が終わったことを確認したメアは、仲間たちにねぎらいと感謝の言葉を送ってこの日は解散とした。


 その頃、エマ率いる武器商人たちとルーチェ率いる飛び道具部隊は豪快に酒を飲み交わし、てんこ盛りの料理を囲んでワイワイガヤガヤと賑やかな懇親会を地下エリアの中央空間で行っていた。懇親会の始めのほうは遠慮気味な者もいたが、開始から数時間も経てば態度も砕けてきて会話も軽快になり、その中でそれぞれ似た者同士が集まり縄張り戦争時に組む相手も決まってきた。エマとルーチェは、既に2人で組むと決めていた為、本番での打ち合わせをしながら酒を飲みつつ仕事の愚痴やらリューヴォの凄さやらを語り合っている。


「ルーチェ姉、上手くいくかなぁ」


「当然っ!だぁれが指揮すると思ってんのさ、あのリューヴォさんだよ?それに自分はエマと組むんだ、失敗の[し]の字が見えようと撃ち抜いて見せるさ」


 エマの口からポロッと零れ落ちたほんの少しの不安な気持ちを、ルーチェの頼もしい言葉が薙ぎ払ってくれた。日々危険な道を歩んで生きているという認識は、この街で生きている人間たちの大半も認識している。だが、今回のように大々的に戦争をする、そして勝つ、と目の前に掲げられることは滅多にあることではないし、自分の腕に覚えがあるとしても、誰もが不安をぬぐいきれるものではない、だからこうしてルーチェの様に士気を高める存在が必要なのだ。

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