次の日

 深夜帯に地下住民と地上住民の入れ替わりを開始するように取り決めてあった日の朝、フェルディナンの部下のような役目を引き受けている長身の男…焦げ茶色の長髪に、同色のタレ目の美丈夫マルティーノに通信が入った。より入れ替わりが楽になるように、新参者達の行動をさり気なく制限しなければならない。つまり、フェルディナン一行と自然な形で合流しなければならないのだ。


「OK─んじゃ、リベル、俺らも準備するぞ」


 彼は通信先のフェルディナンからの報告で、今回エリア外の中でも遠い場所で待機している他の仲間2人に通信を繋げた。栗色のマッシュルームヘアに同色のアーモンド型の眼を持つリベラトーレ、愛称リベルは【解体屋・マルティーノ】の相棒であり武器商人と暗殺業にいそしむオールマイティな男だ。


「はいよ。あれ、そういやアーベルは?」


「…………ここに居るけど」


「うぉっ!」


「俺が入る場所なかったから1人殺しといた、いつでも行けるよ」


 そして、微妙に物騒な登場をした薄茶の髪に同色の切れ長い眼の美少年の名前は、アーベル。毒薬に精通しており通称【毒殺魔】の名の通り自分で毒薬を製造して、よく暗殺や拷問の仕事を請けている。たまに、物資をせがんで来る4歳下の妹【赤眼のエマ】に物を送ってやったりする良い兄だ。さて、フェルディナン含む4人が潜入しているこの組織、他の都市で頭角を現した新興勢力ではあるが、まだ寄せ集めの傭兵集団と解釈した方が良いだろう。それゆえに致命的な欠点があるという事が、潜入初日から弱点としてメリッサに報告されていた。それは例えば味方同士であるか否かをスーツの襟部分につけるブローチで見分けていたり、どの階級なのかをブローチの宝石で見分けていたり兎にも角にも末端まで名前も顔も管理確認ができていない。だから格下過ぎず格上過ぎず目立たない人間を選んで殺せば、ブローチも身分も獲得できる。そういう訳で、身分と格を手に入れたフェルディナンとマルティーノ一行は作戦を開始した。


 まず長年蓄積してきた勘で、他人の言動に操られそうな者が多い印象を受けた集団の中へ、1人、また1人と10数分ごとに見回りの一団へ混ざっていき、30分した頃には全員が揃いXエリアを囲う鉄格子まで後少しというところまで来ていた。このまま進むとメリッサ&ゴーチェから上がってきた情報では、深夜に音が立ちそうな地下エリアへの通路を無駄にせず確保するために半分ほど開けているのだ、鉄格子まで行ってしまうと1番外側にあるような扉が見えてしまう危険がある。フェルディナンは既に、扉が見えたりしない繁華街のXエリア北区のほうへと一団を誘導して見られても問題のない場所を鉄格子の外から探索させていた。通信機でそれを知った3人は……


「あー、ねぇあっちのほう行ってみようよ。なんか動いたっ!」


「ホントだー、ほらマルティーノ見てよ」


「おぉ、そうだなー、行ってみるかー。ほら行こうぜ」


 この上なくわざとらしい演技でも騙される人間達一行を北区側へと連れて行くと、予定通りフェルディナン一行と鉢合わせることが出来た。ここでリベルとアーベルが鉄格子に興味津々の様子を見せてのぞいてみると伝えると、こうも易々やすやすと乗ってくれる新参者たちへの同情の念が若干湧いてくる4人だった。しかし、それと縄張り戦争は別だ、何としても勝たねばならない、そんな気持ちで見慣れた鉄格子にしがみつきながら、どうでもいい話を2人でし始めた。


「ねぇオッサン、俺こいつらが可哀想に見えてきたんだけど」


「おい、オレまだ28だぞオッサンじゃねえし」


「俺から見たらオッサンだし」


「こんのクソガキー…」


「おーい、そっちはどうだーっ?」


 不毛な会話をしていたところへ、背後の少し離れた場所から新参者たちが声を掛けてきた。一瞬その存在を忘れていたリベルとアーベルは、勢いよく振り向いてそれぞれに言葉を返す。


「人はいないっぽい」


「特に邪魔そうな物は見当たらなかったぞーっ」


 そうして、タイミング良くフェルディナンとマルティーノが頷いたのを確認して、リベルとアーベルは鉄格子に背を向けて束の間の仲間たちが待つほうへと歩き始めた。

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