賽は投げられた

「次はエマね」


情報屋の次にリューヴォが声を掛けたのは、

この戦争にやる気をたぎらせている武器商人エマ、この少女は自身が開発に関わった武器を全て自分も扱えるように訓練をするというこだわりというかくせがある。どんな場面で、どの武器を、誰に渡せば良いのかも随時頭の中でシュミレーションができる人間だ。リューヴォがエマに求めるのは、戦争時に飛び道具が多くもちいられる中距離戦で仲間たちをサポートする為に、武器商人のトップとして他の商人をまとめ上げて欲しいという事だった。普段はXエリアに居ない人間達も、メリッサからの通達でエリア外から目立たないように戻ってき始めている。その人物たちも合わせてまとめろというのだから、分野違いとはいえそれぞれのトップが背負う責務としては、中々に重いものだ。


「ドン、無茶振りって言葉知ってる?戦いながらサポートし続けるなんて─まぁ、ドンの事だから、私達への報酬のあてはあるんでしょ?」


「ソコは問題ないわ、アルベルに死体回収を任せるようにするから」


この答えを聞いたエマは、にんまりとわらって何度も頷く。他の者もという言葉を耳にした途端、苦笑しつつ頷いた。アルベルとは、この世界ページとは違う場所で人間の死肉を調理販売しているレストランの名だ。食人鬼をメインターゲットとしているがゆえにいくら人間の死体を集めても追い付かないらしく、今回のように多くの死体が出来上がるだろう場合には喜んで、金貨と引き換えの取引に乗ってくれる。


「納得~、精々せいぜい頑張るよっ」


「頼むわね」


「はーいっ!」


まだ十一歳だと言うのに商人らしさを存分に発揮するエマに対しては、メリッサ以外からの笑いを誘った。このエマは客との取引の際に問題が起きた場合をいつでも想定している、自分の身を守るためのすべは充分に確保済だ。だから彼女は、この世界ページで生きる事に困らない。リューヴォに頭を撫でられて満面の笑みを浮かべたエマは、さっそく携帯端末をスーツの懐から取り出して通信の準備をしながら口を開いた。


「メリッサ~」


「なにー?」


「そっちの反応どう?」


「いい感じっ」


「じゃっ!コッチも始めよっ」


コレが何に関する遣り取りかというと、それぞれの下についている人間の中から何人が戦争に参加する意思表示をするか、その確認だった。情報屋のメリッサは独自のネットラインを使い、武器商人のエマは少し独特なやり方で参戦人数を把握する。ポチポチと短く携帯端末のボタンを押して床に置き反応を待っていると、画面上に3Dのサイコロが浮かび上がりクルクルと回転し始めた。そうして数分後サイコロの上には数字が表示され、その桁数がどんどん跳ね上がっていく。今回のような事態が起こった場合、武器商人たちが参戦の意思表示をするときには、各人が持っている自分の簡易情報が入ったサイコロを転がすのだ。持ち主の手を離れたサイコロは、一度地面に落ちれば内蔵されている情報がエマの持っている端末に取り込まれるようになっており、そのまま参戦意思ありと判断されて人数に加えられる。メリッサとエマの様子を黙って見守っていたリューヴォが、二人に問い掛けた。


「どう??」


「情報屋、参戦人数2400人超えでっす」


「武器商は1100人くらいかなー」


まるで鶴の一声である、こんな感じで近距離戦闘に長けたリアナの下にいる少年少女や、中距離戦特化のルーチェの下にいる少年少女達も続々と参戦の意思表示を示して、最終的に新参者を大きく上回るだろう7600名もの遊撃隊員がゲリラ師団として組織されることになった。それから一週間、この街の現状を知るほど今だけは入りたくない、関わりたくないと東西南北の暗黒街の人間達が距離を取る状態になっている。

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