修羅の塒

 新たに三人がメリッサの個人スペースに召集され、Xエリアをねぐらにしている少年少女達の中でも五本の指に数えられる子ども達が集まった。リューヴォを筆頭に隻眼せきがんのリアナ、疾風はやてのメリッサ、業火ごうかの死神メア、少女ゲリラ達だ。真っ白なおかっぱ頭に白すぎる肌の赤い目を持つ[赤眼あかめのエマ]は、普段はエリア外にも工場を持っている天才武器商人でもある。次に、クセのある金髪にヘーゼルとブルーのオッドアイを持つ男装の美少女[豪撃ごうげきのルーチェ]、彼女は中距離戦闘を得意としているが、肉弾戦も得意だ。


 彼女たちが集まったという事は、このXエリアで何事かが起こるということだ、そういう風にエリア内でも認識されている程の情報収集力と戦闘能力を兼ね備えた子ども達がわんさか育てられている、対人間同士で戦おうとするのであれば決して油断ならない殺し屋集団になる─彼等を知っているならば。新参者ゆえの、無知だった。幼いながら黒いスーツ姿のエマが、白い髪を耳に掛けつつ口端を吊り上げて言葉を発した。


「最近、地上で馬鹿デカいネズミが這い回ってるねぇ…地下全体に知られるような緊急招集出すなんて、はじめるの?ドン、やるなら私は乗るよ」


 この中では比較的まともな男装の麗人ルーチェは、手持ちの銃を掃除しながら何度か頷いてマガジンの装填まで終わると、口を開く。


「良いよ、地上を守るためなら自分もやる」


 メアは一つ頷いただけだったが、確かな参加の意思表示をした。今回は妹が殺された事が一番の理由であるが、彼女は普段からリューヴォを絶対の存在としているところがある。ここでようやくXエリアの少年少女の中から上位五人と街全体を統率するドン・リューヴォが揃い、縄張り戦争からの地上エリア─学園都市東部に属する貧民街を完全奪取することに関して同意が得られた。通常なら分野違いの彼女等が集められることも、共闘することも無いのだが、今回のような特殊な事態が起こった際には遊撃隊として機能するように出来ている。ここで産まれた子ども達は戦うすべやゲリラ戦の基礎を叩き込まれる、それがこの街の住人として生きていく最低限の条件だ。


 武器商人たちが住んでいる場所は東区で学園都市の外側へと続く位置にある、そして西区では情報屋が学園都市中央部へ面している位置で暮らしており、学園都市南部に面した位置にはスプリーキラーたちのねぐらがあるのだが人口としては少ない、この街で一番人口が多いのは学園都市北部に面した北区の位置で暮らすシリアルキラーたちだ。今、南北に長く大きい巨大な地下街で、静かに戦争の準備が始まろうとしていた。


「まずはメリッサお願いね、使えるなら大人にもスパイに入ってもらって良いよ」


「アイサーッ」


 情報は縄張り争奪戦のかなめになる、メリッサが情報屋達を本気で動かせば地上エリアで起こっていること全てを、地下住民全員に生中継で流し続けることも可能だ。この少女の頭の中では常に様々な情報と記憶が飛び交っているらしく、時おり気晴らしをする為に無心で、この年の誕生日にもらった金属バットを振り回す姿が西区の名物となりつつある。贈り主であるメアは、自らの妹にしてやれなかったことをメリッサにと思っているのだった。それを充分に理解しているメリッサは、精一杯に背伸びをして彼女の妹のように死んでしまったりはしないと、この縄張り戦争で示そうというのだ。その耳元でそっと囁いたのは今の状態を静かに見ていたルーチェだ、二人の関係がより良くなる様にと思って。


「メリッサ、無茶するなよ?」


 この言葉に、メリッサは小さく頷いた。

 





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