情報屋

 二人が情報屋のもとへ足を運んでいるのと時を同じくして、Xエリアの外では学園都市外からやって来た新参者達がだんだんと各地域に進出してきていた。そして、圧倒的な人海戦術で暗黒街を手中にしようと考えていたのだ。が、どの地域も一筋縄では行かないということを新参者とはいえ、直ぐに分かるほどに実力差を痛感し始めていた。子どもから大人まで、まるで此処ここで生きるべくして戦闘面での能力を進化させたかのようだと、誰ともなしに口にする事も多くなり新参者達は焦りを感じ始めていたのだが、数日も経てば大人の争いに巻き込まれて大怪我を負った幼い子供たちが、一つの区画へ逃げ込んでいくことに気づいてしまった。


 そして遂に、夜行型の犯罪者たちが出払い朝型の犯罪者たちが眠りに落ちている頃、ほんの数名の新参者がXエリア全体を囲む鉄格子越しに中の様子をしばらくのぞいてから、その場を去っていく。そんな彼等を見逃さなかったのは、深紅の詰襟シャツに黒いデニムパンツを身にまとい、焦げ茶のショートブーツを履いた、薄茶色のショートヘアの少女だった。ちょうど仕事を終えて帰路に着こうとしていたXエリアの超危険人物、爆弾魔[通称・業火の死神]メアだった。新参者たちは、一見して他の地区より平和に見えるこの区域なら落とせるかもしれないと、そう思い上がってしまった。動きの一部始終を見ていたメアの殺意に火が着く、数日前に新参者のせいで妹を亡くしているのだ、直ぐにでも殺しにかかりたい所を歯を食いしばって耐えた。今回Xエリア外の自社工場で爆弾のテストをしていたのだが、タイミングというのは何をするにしても存外大事なものである。彼等はXエリアの地下にある巨大なスペースに全く気づいていない、メアは気配を消して音もなく改良型の発信機と盗聴器を、新参者を率いていた男に付けることに成功した。それは前日の夜に情報屋の以来で武器商人たちが作ったもので、今ならXエリアに暮らす犯罪者全員が持っている。


 この情報は、Xエリア西区のトップ[通称・疾風のメリッサ]に直接送られる様に設定してあるものだった。すぐさま、続々と集まってくる情報の解析に取り掛かる沢山のコンピュータと、その様子を胡座あぐらをかいてジッと見詰めるメリッサは、長い栗色の天然パーマに栗色の大きな眼の、まだ七歳の幼い少女だった。普段から地下にある自分専用のスペースに篭って作業をしており、滅多に地上へ出ることがない為その肌はとても白い。そこへいくつもの扉を開いて、ようやくこの場に辿り着いたリアナとリューヴォが姿を現した。リューヴォの顔を確認した途端、メリッサは満面の笑みで片手を差し出す、これはいつの間にか二人の間でだけ形式化した遣り取りで、どんな無茶な頼みでも飴玉一つで喜んで仕事をしてくれるようになっている。どれほど前の事だったかエリア外で殺されそうになったメリッサを、リューヴォが助け出して保護したのだ、それ以来外に出るのが怖くて堪らない少女に、リューヴォは人に頼んでお菓子やヌイグルミを送るようになった。


 それが今回は初めての地下で本人ご登場だ、メリッサのテンションはデータそっちのけでうなぎ登りしている。その事に気づいたリアナが、軽く溜息を吐いて咳払いをした。二人同時にそちらへ振り向くと、情報を教えて欲しいという動作をしていた。


「あ!そうだったそうだった!ゴメンねリアナお姉ちゃん。ここ二時間以内の新参の動きなんだけど、すっごい数なのに…どこからどう見て考えても動きが鈍すぎるなってメリッサ思ってて。Xエリアは鉄格子の外から見てっただけだし、地上だけサーッと見てったよ?皆ほとんど地下暮らしなのにね、監視カメラもお構いなしなんだもん、ビックリしちゃった」


「情報の集めかたも本腰入れてる訳じゃないのね……数だけで勝負ってこと?だとしたら、今が様子見なだけで…他の街の人間が新参者に容赦するはずないし。ってなると、そのうち間違いなくこの街が標的にされる…メアとルーチェ、エマもここに呼ぶよ」


「アイサーッ!」


「はいよ」


 可愛らしいメリッサが、今日一番の元気な挨拶を西区の地下に響かせた。

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