第16話~てぃぷろー~(温かい)

 私達はその後、施設内のお店でご飯を食べていた。

「ふはぁ~~」

「たらふく食べましたなー」

 私と夏々ちゃんはお腹をポンポン叩きながら、椅子の背もたれに寄りかかる。


「二人とも、行儀悪いよ」

「めぐみんも結構食べてたね?」

「そ、そりゃ……」

「年頃の女の子だもんねー?」

 夏々ちゃんは、また恵美ちゃんのお腹をくすぐる。

「やめっ……やめんしゃい……!」


 反応で兄と文乃を見てしまう。

 だけど……二人は見つめあっていた。急いで目を逸らす。

「目にごみなんか入ってないぞー?」

「でも痛いんだってばぁ……」

(お兄ちゃん、それただ見つめたいだけだから……)


「お兄ちゃん……?ごみなんか入ってないけど、もっと大切なこと気付こ?」

「え?……って、なっ!」

 ようやく至近距離であることに気付く。


「文乃?あっちで遊ぼか?」

「はい……」

 エロシャチと共に、その場から彼女を連行した。



 その後は波のプールの時間まで、その開けた場所でビーチボールを使って遊んでいた。

 一方、兄はビーチチェアでのんびりしている。食後休憩だとか言っていたけど、気を利かせてくれたのだろう。


 ビーチバレーのようにボールを打ち上げて、皆でどれだけ続けられるか。

「えいっ!」

「とおっ!」

 瑠璃ちゃんから夏々ちゃんへ。そして私の頭上にボールが来る。


(よし!)

『ポーン』

 私の手は少し早いのか、頭に当たってボールは水に落ちる。

「あれ?」


「ぷぷっ、シャルル……ぷぷっ」

 運動が苦手な文乃に笑われた。

「あんただってまだやってないじゃない……!」


「ほらほら、喧嘩しない。もう一回いくわよ?」

 恵美ちゃんがもう一回パスしてくれる。

『ポーン』

「よし」

 うまくできた。そしてそれは文乃の方向一択だ。


「え!?」

『ポン』

 彼女は球を打つが、力が弱く横に逸れる。その先には璃晦ちゃんがいた。

「えいっ!」

『ポーン』


 弾んだボールはまた私のとこに飛んでくる。

「はいっ!」

『ポーン』

 私は瑠璃ちゃんの方向へ飛ばす。


「ふえぇぇ……!」

 彼女は驚いて、目を瞑ってしまう。

(ま、まずった……?)

『ズバヒュゥゥン!!』

 彼女の手に触れたボールは、物凄い速さで夏々ちゃんの方へ飛んでいく。

(どんな力量ですか!?)


「ええぇぇ!?」

『スポーン』

 軽いボールは彼女の顔に当たって上空に飛ぶ。

(ビーチボールで良かった……)


「流石ね夏々!」

「いやおかしいってぇ……」

 恵美ちゃんはもう一度私にパスする。


 私は流れでまた文乃にパスしてしまう。

「あ……」

 嫌な予感が全身を走る。

「シャルルぅぅ!そんなにも私を……!」

 彼女はボールを受け取らず、私へ抱き着く。

「はぁ……ってばか!」


 マイクロビキニの紐をほどかれる。

「なっ、何して!?」

「緩んでたぞー?」

 ほどいた紐を今度は緩く結びつける。しかも固結びで。


 お陰で私の大切な場所はチラチラと見えるようになってしまう。

(は、恥ずかしい……これじゃ痴女じゃない……!光も大変よ……!)

「んぅ……!」


 背中に手を当てても、固結びはほどけない。

「あー、こっちも」

「下は、やめなさい……!」

 足で彼女を退ける。

「なまあしっ!さいこっ……!」


「大丈夫?」

 ボールを取りに行った恵美ちゃんに心配される。

「大丈夫じゃな……」

「あー大丈夫大丈夫」

(こいつ……!)


「じゃもっかい行くね?シャルちゃん?」

「あ、ちょっと……」

「えいっ!」

(仕方ない!この一回だけは……!)

「はっ!」

 ジャンプと同時に胸が風に晒されるのが分かる。

(光!あんただけは信じてる!)


『バシャンッ!』

(恥ずかしいっ!無理!)

 私は体を最優先して隠す。


「えぇっ!?」

「な、なんで……?」

「かーわいいぃ」

 ボールは水に落ちる。


「ふみちゃん!また悪戯したね!?」

「ご、ごめんなさぁい……」

「めぐみん!シャチ持ってきて!」

「夏々ちゃん……!それだけは……」

「シャチに乗りながらでも、パス出来るよね?」

 また文乃に仕返しの悪戯が執行されそうになる。


「夏々……!」

「ぐぇ……」

 恵美ちゃんは冷静なまま、夏々ちゃんにチョップする。

「仕方ないことなんだから、あんたまで張り合ってどうすんの……!」


「はぁい……ごめんね?ふみちゃん」

「こっちこそごめん……シャルルもごめんね……?」

 私は全力で首を縦に振る。

(いやいやそれより!この状態のまま恥ずかしいから!)


「シャルちゃん?こっちおいで……?」

「うん……」

 私は恵美ちゃんにマイクロビキニを直してもらう事にした。


「ふーちゃんどんまい……」

瑠璃ちゃんはそれでも優しい言葉をかけている。

(天使か……)


(これで文乃も熱収まるかな……?)

「皆の浮き輪取ってくるねー!」

「私も!」

 夏々ちゃんに続いて文乃も、浮き輪で遊ぼうと提案してくれる。


「どしたどした?」

 兄がビーチチェアから立ち上がり、サングラスを外す。

 回りを歩いていた女子が目を見開いている。

(モテモテ男め……)


「いや、なんでも……ないし」

「文乃、おいで……?」

「うぐぅ……」

「よしよし、今度から気を付けような……?」

(このラブラブ度なら心配ないね……)


「よし、出来た」

「ありがと!」

 マイクロビキニはしっかりピチピチになった。ちょっときつすぎるくらい……

(わざわざ下まで……ってキツッ!前まで食い込んで……)


「違った?」

 私の硬直を見るなり、恵美ちゃんが異変に気付く。

「ちょっとだけキツいかも……」

「あぁ……ごめん」

「不器用なりにありがと」

「どういたしまして……!」



 しばらく遊んだ後、アナウンスが流れる。

『四時になりました。遊泳エリアは三十分間波のプールになります。周囲に気を付けて下さい』


「始まるって、降りないと危ないんじゃない?」

 私が文乃に声をかけると、彼女はエロシャチに乗ったまま上の空だった。

「そ、そう……?」

(もしかして今……まずかった?)


「あ、あっち向いとくから……」

「ありがと……んっ、んっんくぅぅ……!」

 彼女は小声で悶えている。ちょっとエロすぎる。

(いちたすいちはに、いちたすには……)


「おっけ……」

『ザパァン!』

 彼女はエロシャチから降りたようだ。

(た、大変そう……お兄ちゃん、頑張ってね……)


「わ、波来てる~」

 瑠璃ちゃんが私の手を掴んでくる。

「もしかして初めて?」

「うん、ちょっと怖いかも……」


「じゃ、私も繋いであげる」

 恵美ちゃんも寄ってきて、彼女のもう片手を繋ぐ。

「めぐちゃん……!ありがとう」

 彼女は私達に頬笑む。これで少しは怖さも和らいだだろう。


「お姉ちゃん、ほら」

 璃晦ちゃんは瑠璃ちゃんの前に立ち、肩を掴ませてくれる。

「ありがと……りっちゃん」


「めーぐみん、私もー!」

 夏々ちゃんも恵美ちゃんの腰につかまる。

「あんたはなんで私を掴むのよ……」

「めぐみ~ん」

「はぁ……よしよし」


(夏々ちゃんはやっぱり恵美ちゃんに甘えたいのかな?)

 私の部屋で泣いていた事を思い出し、可愛いと思ってしまう。


「ザック……お願い」

「あ、あぁ……」

 文乃は兄と腕を組んで、手まで繋いでいる。

(なるほど、お兄ちゃんとくっつくために……文乃、あんたほんと大変なのね……)


 そのうち波も段々と強くなってくる。

「わぁ、波が……!」

 夏々ちゃんも驚いている。私も震える瑠璃ちゃんに話しかける。

「ゆらゆら気持ちいいね?」


「あう、あうぅ……」

「はいはい、お姉ちゃん……」

 完全に怖がっていた……

「もうちょっとくっつきましょっか?」

「お、お願いぃ……」


 私達は身を寄せて瑠璃ちゃんを支える。

「温かい……ありがと」

「ふふ、いいのいいの。これくらい」

 恵美ちゃんも彼女の頭を撫でている。


「ザック……!私も!」

「はいはい、よしよし……」

「えへへ……」

 向こうも幸せそうだ。何だか温かい気持ちで波のプールを終えた。



 そして皆で水着のまま、プール内の温泉エリアへ向かう。

「あったかーい……」

 温泉エリアはジャグジーが溢れていて、適温で体の芯が温まる。


「あ、あっちの中に本物の温泉があるって……!水着のままオッケーだってさ!」

 夏々ちゃんの教えてくれた通り、皆でそこへ向かう。


「わぁ……ちゃんとした温泉だぁ~」

「すごいね……!サウナと露天風呂まである!」

 春佳姉妹も嬉しそうにしている。

(皆で来れて良かった……)


 足から入って肩まで浸かる。

「はふぅ……」

 無言のまま浸かって、遊んだ疲れを癒す。


 そして私は、人の少ない露天風呂へと向かった。

「はぁ……気持ちいい~」


「ねぇねぇ?君?」

 しばらくして目を開けると、大学生位の男三人が近くに寄ってきていた。

「なんですか……?」

(めんどくさそうだな……)

 男三人はどうやら私を見ている。


「銀髪綺麗だねぇ……ねぇ、こんな水着着て、俺達の事誘ってるの?」

(皆が少し離れたら絡まれたし……しかもロリの類い?)


「ねぇねぇ、無視は良くないよ……?」

 私が壁際にいることを良いことに、男は私の髪や肩を触る。


「やめてっ……!」

「あんたら、こんなとこで通報されるかもとか考えないのか?」

 兄が男達の後ろから声をかける。

「ん?通報?だって俺達、一応バイトだもんなー?」


「あー、そうそう。お兄さんこそ、妹さんにこういう格好させてぇ……危ないんじゃない?」

 男達は兄をからかうように笑っている。


「あんたら馬鹿?」

 文乃も割り入ってくる。

「あ?なんだこの金髪ハーフ」

「生意気だな」


「はぁ……」

 文乃は私の近くに来て、私の体をベタベタ触る。

 男は文乃の挑発的な様子に目を見開いている。


「私が好きでこういう格好させたのよー?文句ある?」

 文乃は妖艶に私の首元にキスをして、舐め始める。


「んなっ!」

 一人の男がその雰囲気に驚いている。

「あれ?ビビっちゃった?私はんじゃなくて、ここで何度ものよ?」


「くっ……」

「帰るぞ……!」

 男は自分を制御できなくなることに恐れたのか、温泉から帰っていった。

「文乃、お兄ちゃん……ありがと」


 感謝の言葉を二人にかける。

「兄として当たり前だ!」

「元々私のせいだし……ああいうのはもう許せないから……!」

(流石文乃……強くなったね)


「だ、大丈夫!?」

「職員さんには伝えたからね……!」

 夏々ちゃんと恵美ちゃんが私を心配して近付いてくれる。

「そこまで……ありがとう」


「助けられなくて、ごめんね……?」

「いいのいいの……!あんなの普通怖いし……」

 ああいう連中はいつも通りなら、ガチオタクのキモい雰囲気を作って追い払っていた。

(しなくてよかった……)


「お見事、ね……」

 後ろから結衣さんが近付き、圧巻の表情で拍手する。

「み、みられた……!」

 文乃は兄の背中に顔を隠す。


「あんな泣き虫だったのに……成長したわね」

「ぐぅぅ……恥ずかしいぃ」

「ふふ、そこは変わってないわね……」


 私達は笑顔を浮かべるが、文乃は凄く恥ずかしそうだ。

(マイクロビキニの代わりにいいもの見れたかな……?)



 私達はゆっくり温まった後、着替えて帰る事にした。

 外に出ると、空は綺麗な赤に染まっている。

「夕焼けきれい~」

「凄いね……!」

 恵美ちゃんが隣に立つ。


「ねぇ、恵美ちゃん」

「ん?どしたの?」

「今日はありがと!これからもよろしくね……!」

 ちょっと恥ずかしいけど、真面目な彼女にならこんな話も出来ると切り出した。


「うん、夏々共々よろしくね」

「私も~!」

 後ろから瑠璃ちゃんが飛び付いてくる。

「ふふ、勿論瑠璃ちゃんも!」


「シャールルっ!」

「シャルちゃーん!おまたせー!何話してたのー?」

 文乃と夏々ちゃんも後からやってくる。


「な、なんでも……」

(もっかい言うの恥ずかしい……)

「これからも仲良くしてねーって」

「ふむふむ」

 夏々ちゃんは顎に手を当ててニヤニヤしている。

(ば、バラされた!?)


「言っちゃだめぇー!」

 私は恵美ちゃんの体をゆする。

「言わなきゃ、伝わらないよ?」


 この四ヶ月間……考えてみればそうだった。

 でも最初とは違って、真正面からありがとうなんて……やっぱ恥ずかしい……!

「わ、わかってるよぉ……!」

 私が恥ずかしそうにすると、皆は嬉しそうに微笑んでいる。


 私達は幸せだから、笑みを溢す。頑張ってよかったと思える。

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