#5 夏を楽しむ2

第17話~ちゅーすとー ちぃびぃらい じぃのきん~(寂しい)

 七月の四週目に入り、終業式を終えた帰り道。

「あづぅいよぉぉ」

 文乃は私に引っ付いてくる。

「だから引っ付くなぁぁ……!あんたは真っ直ぐ帰んなさい!」

「むりぃ~ぎゅ~~」

 何度引っぺがしても引っ付いてくる。


「シャルこそ覗き見なんてしてないで、真っ直ぐ帰れば良かったじゃないか……」

「うっ……」

 隣を歩く兄に痛い所を突かれる。


 私の不注意だった。

 二人の尾行の移動中、後ろで布団を叩く音さえしなければ……


「わるいこには帰ったらおしおきだもんね~」

「あ、そうだ。何で私には引っ付く癖に、お兄ちゃんには引っ付かなかったの?」

 めんどくさいので話を逸らしてみる。


「だ、だだって……汗だってかいてるし」

 彼女は恥ずかしそうに口ごもる。

「じゃあ私が匂いチェックしてあげようかー?勿論お兄ちゃんの前で」

 私はニヤニヤしながら彼女に提案してみた。


「やーだーやーだーやぁーだぁー!」

 顔を真っ赤にして駄々をこねている。

「はぁ……僕は汗ぐらい気にしないよ……」

「私が気にするの!一応ハーフだし!」

 文乃はそれでもかという位押し切る。

 私も時々気にする時はあるけど、そもそも成長しきってないので……


「だからってシャルを間に挟まなくても……」

 兄は文乃を見ながら少し寂しそうにしている。


「お風呂貸してくれたら……嗅いでも、良いけど……?」

 彼女は照れながら兄を覗いている。

「ほ、ほんと……?」

(あ、また二人の世界入ったよこいつら……)



 私はそそくさと先を歩いて家に帰り、風呂掃除をすることにした。

「はぁ……」

 私が勧めた癖に、そろそろ二人のテンションに飽きていた。


(もしかして私……)

「寂しがってる?」

(いやいやないない!だって天敵だよ?)

 その通り、二人は今まで私の平穏を脅かしてきた天敵だ。


 お風呂を洗い終わって洗面所へ行くと、一糸纏わぬ姿の文乃とすれ違う。

(抱き着かない……だと!?)

「シャワーだけ貰うね~」

「はーい……」


 私は夕飯の用意を済ませて、部屋に戻ろうとした時……

「ちゅっ、あむ、れろ……はぁはぁ……」

 洗面所からキスの音が聞こえる。

「ば、ばか!素っ裸のまんま飛び付くな!」

 恥ずかしがる兄は慌てているようだ。


「だって、覗いてた……よね?」

 私は急いで部屋に戻ってイヤフォンを付ける。

 そしてスマートフォンで音楽を聞きながら、ゲームアプリを起動する。


「はぁ……」

 大きな溜め息をついてベッドに横になる。

(振り回される私って馬鹿かも……)


 そのままクーラーのスイッチを入れる。

 スマホゲームを遊び、繰り返されるローディングの中、眠りについてしまった。



「つんつーん」

「んぅーんー」

 頬をつつかれるが、鬱陶しくて手で払った。

 そして手で押し退けようとした。

『むにゅっ』

 物凄く柔らかい、ぷにぷに球体のお肉に手が触れた。

「ん?」

(この柔らかさは……)


 ゆっくりと目を開ける。

 顔を真っ赤にして、鼻血をつるりと流す瑠璃ちゃんがいた。

「はわっ!?ご、ごめんなさい……」

 どうやら私は彼女のおっぱいを揉んでしまったらしい。


「わ、私も、鼻血出しちゃったの、ごめん……シャルちゃんにされるとは思ってなくて……」

(ひ、引かれた……?)

「あ、あとそれ……」

 彼女が指差す先は私のスマホ。

 液晶に映るのは大きなおっぱいの女の子。それはスマホゲームのホーム画面で、露出の高い衣装を……


「ふひゃっ!?」

 急いで両手で隠す。

「シャ、シャルちゃんって……文乃ちゃんに影響されて……」

「ち、ちち違うのこれは……!」

「ち、乳!?」

 彼女の止まっていた鼻血は再度垂れ始める。


 心を悪に染めるしかない。

「えっとね!文乃が勧めてきたの!こ、このキャラにしないとまた変なことされるかなーって……」

(ちょっと無茶苦茶だったかも……)


「そ、そっかぁ。そ、それなら仕方無いね~シャルちゃんも大変だね……?」

 あなたの血の量の方が大変なことになってます。

(純粋過ぎじゃない……?ごめんね、私の嫁……)

 悲しくなってきたので、スマホの画面を消す。


「と、とりあえず大丈夫だから……ほ、ほら!血拭かなきゃ……!」

「ごべぇんね……」



 どうやらあの後すぐのこと、彼女は鉢植えへ水をやりに来たそうだ。

 そしてリビングで放置された彼女は、私のことが気になって部屋に来たらしい。


「二人はー?」

「アイス買いに行ってくれるって~」

「そっかぁ……」

 私は余程寂しそうな顔をしていたのかもしれない。


 彼女に真正面から抱き締められ、頭を撫でられる。

「よしよし、大丈夫。シャルちゃんは私が見てるよ……!寂しいの寂しいの辛いの辛いの飛んでけ~~」


(あれれ……私ってばこの子を――この人を凄い軽く見てたのかな……)

「私はお姉ちゃんだもん。こういうの得意なんだよ~?」

 先月の彼女の誕生会を思い出す。あれはきっと、お返しの愛に泣いてたんだろう……


「もー、泣かないの~よしよし~~」

「な、ないでないじ……」

 私はついつい強がってしまう。

 絶対的に彼女の方が愛を与える事が得意なはずなのに……


 私はぎゅっと彼女を抱き着く。

「よしよし、疲れちゃったんだよね。おつかれさま……シャルちゃん」

「ぞーゆーど、ずるい……」


『ゴドッ』

 リビングの入り口から物を落とす音が聞こえた。

「ふぇっ……?」

 文乃も私に抱き着いて頭を撫で回してくれる。


「そうかそうか……私はてっきりもううざったいのかなって思ってたよ……」

「うざったいです。汗くさいです」

 文乃の話を聞くと、本音とは反対の言葉が口から出る。

(恥ずかしい……けどやっぱり友達だったんだ)


 彼女は私のワンピースの袖をめくり、脇を顔を埋める。

「甘酸っぱくて良いぃぃ……」

 文乃は匂いを嗅ぐと嬉しそうにする。

「やめい……」


「れろ……んぅ、おいひい」

 舐めてきた。くすぐったい……

 でもいつもみたいには突き放せない……突き放したくない。


「舐めて良いとは言っとらん……」

「でも嫌がらないのはどしてー?」

(こ、こいつ!私の気持ちに気付いて……!)


「もーー!うっさいうっさい……!私は今瑠璃ちゃんのものなんだからあんたはノータッチ!」

「るりるり!舐めちゃえ……!」

 今度は文乃が瑠璃ちゃんに囁く。


「ふぇっ!?」

 彼女は顔を赤くして驚いている。

(ま、満更でもない……?まさか……)

「大丈夫大丈夫。やり過ぎない程度ならね……!」

「うん……」

 文乃に言われるがままに……

 彼女は座ったまま、私の背後に回る。


(ほ、本気なの!?)

「ふゃ……」

 首元に吐息がかかり、変な声が漏れる。

「ちゅっ、れろっ……」

 彼女に首筋にキスをされ、ぺろりと舐められる。


(も、もう我慢できない!)

『ドテン』

 私は彼女を押し倒して、おっぱいに顔を埋める。

(あーーおっぱいって最高……やっぱり私は大きいのが一番……)


「こ、これは……?」

 不思議そうな瑠璃ちゃんは、文乃に答えを求める。

「恥ずかしがってますねぇ……!」

(実況すんな……!)



「シャルルはねー、ほんとはおっぱいがだいす――」

 私は文乃に襲いかかり、口を塞ぐ。

「ふぇ?おっぱいが……?」

「え?おっきくなりたいなぁ……って」

 文乃はむんぐむんぐ言ってるけど……


「ってアレ……?」

 彼女の内ももから、私の膝に細かな振動を感じる……

 人為的なモノじゃなくて機械的な物だ。

(まさか……)


『おあいこで……』

 文乃は目を逸らすと、恥ずかしそうに小さな声で呟く。

 何を使っているのか……?

 考えたら私の頭はボッと熱くなり、顔が真っ赤になった。


「あ、あんたねぇ……!」

「シャルルはおっぱ――」

 もう一度口を塞ぐ。

「えぇ~どうしたの?二人だけの秘密とかずるいよ~」

 瑠璃ちゃんは、頬を膨らませながら私達の肩を揺らす。


『ピンポーン』

 インターフォンが鳴り、ハッとする。

「あ、やば……」

 丁度この時間、ネットで買い物をしたのは私だ。


 コミケの為に去年買いそびれたパーカー……

(まずいまずい……!なんで私はこの時間に!?瑠璃ちゃんが来ること知ってたのにぃ……)


「なにがやばいのかなぁー?」

 文乃がニヤニヤしながら顔を覗いてくる。

「や、べ、別に?お兄ちゃんの荷物だし?」

「ザックのグッズなら私がチェックしないとねぇ……?」

(やば、こいつには効かないんだ……!)


「出ないのー?シャルちゃん?」

 瑠璃ちゃんは不思議そうにしている。

 私はしぶしぶ応対し、荷物を玄関で受け取った。


「さー、どんなものが……」

「ダメです!」

 パーカーとそれ以外のアレやコレが入った段ボール箱を、抱え込んで隠す。

「気になるな~」

 瑠璃ちゃんは手を出すことも無く、指を咥えて餌を貰う犬のような表情で箱を見つめる。


「だ、だめです……」

(も、もっとだめです!)

「るりるり!行くよ……!」

「う、うん……!」

(あれれ?なんかさっきから凄い仲良くなってません……?)


 二人は私の足にしがみつく。

「限度が過ぎなければ良いのさ……!」

「そ、そうなんだね……?」

 自信に頬笑む文乃と戸惑う瑠璃ちゃんは、夏制服を着た私の生太ももをさすり始める。


「な、何してるの……?」

 くすぐったいのを耐えて二人に話しかける。

「いやいやー、そんな重そうなの持ってお疲れでしょー?マッサージしなきゃねぇ?」

 文乃はニヤニヤと笑いながら、私のスカートの中に手を潜り込ませる……


(あれ?してこない……?)

 あくまで彼女は私の足の付け根を触るだけ。

「くすぐったい……はうっ!?」

 彼女は足の付け根の太もも側。そこのある場所をぐいっと押す。

(な、なにこれ!?下半身がビクビクして……)


「ね?マッサージって言ったでしょ?」

 私は立つことに耐えられず、段ボールを抱えたまま前方へうつ伏せになる。

「ひゃ、ひゃうぅ……」

 勝手に嬌声が口から漏れる。


「ふ、ふみちゃん!?いたずらは……」

「大丈夫大丈夫。マッサージが気持ちよくて痺れてるだけだから」

(痺れるマッサージなんかあるかぁ……!)


「はぁはぁ……」

 気付いたら息も上がっていて、リビングから流れるクーラーで涼しいはずなのに……

 何故か体が熱くて汗をかく。


「ほらほら、るりるりも手貸して?ツボのマッサージ教えてあげるから」

 文乃は瑠璃ちゃんの手を取り、伏せた私の太ももを触りだす。


「へぇ~ツボなんだぁ……りっちゃん運動部ですぐ疲れちゃうから興味あったんだよ~~!」

 瑠璃ちゃんは嬉しそうな声で、文乃を疑いもせず信じきっている。


(あれ?この流れ不味くね?)

「そうそう、太ももの付け根?ここのとこだよ」

「ここ?」

 さっきとは反対側の足の付け根を、瑠璃ちゃんにぐいっと押される。


「ひにゃうぅ……」

 我慢していたのに勝手に声が漏れる。

「ほら?気持ち良さそうでしょ?」

「ほんとだぁ~~これってりっちゃんにも効く?」

 瑠璃ちゃんは嬉しそうに文乃へ聞く。

「多分効くね……!」

(こいつ……!)


「じゃあ……しばらくここを押してあげて?私は反対側やるから」

「は~~い」


「あぁっ……!はぁはぁ……らめっ!んくぅぅ……!」

 私は数秒程そのマッサージをされ、何とか耐えると……


「よしよし、そしたら次は腰の辺り。これは絶対効くよ!」

 文乃に右腰のくぼみをくいっと押される。

(あ、それテレビで見たことある発情スイッチぃぃぃ)

「ひゃうっ!ら、ら、だめ……!それ以上は!はぅぅ~~ん……」


「ほら?気持ち良さそうでしょ?」

「ほんとだ~~!私も私も~~」

 また逆側をくいっと押される。

「あっ、あめ……はぁはぁ……」

 もう呂律も回らない。


「じゃあ今度はこれを同時に……」

 文乃が二ヶ所同時に押そうとした瞬間、目の前の玄関が開く。

『ガチャン』

「ただいまー」

「おじゃまする!」

「お邪魔しまーす」


 兄と夏々ちゃんと恵美ちゃんが入ってきた。

「な、何してるの……?」

 倒れた私に気付いた恵美ちゃんが、早々に質問する。

「ツボのマッサージ教えてもらってるんだよ~~」

 瑠璃ちゃんは朗らかな声で答える。


「果ててますけど……」

 しゃがんだ夏々ちゃんに頬を指でツンツンされる。

『ぬふふ、遂に平和的方法で寝首をかかれたね?』

 彼女に耳元で呟かれる。


「ひゃうっ……!」

「ゴホン……」

 兄は咳払いをした後、リビングへと歩いていく。


 最近兄のスキンシップは普通の兄弟のものへと戻った。

 限度を例えるなら膝枕で耳掻きとかだろう。

 戻った……というのも兄と仲良くなりたての数年間はそんな感じだった。


「やっぱり皆がいると恥ずかしいんだ……ぐふふ」

 文乃が悪戯そうな笑みを浮かべる。

「そーだ!ふみちゃんにもマッサージしてあげるね~~」

 何も知らない瑠璃ちゃんは、優しい気持ちで彼女の太ももと腰の付け根をマッサージする。


「なにゃっ……!?両方一緒は!だめぇぇ……」

 彼女は力を失うように壁にもたれかかる。


「あれ?なんかブルブルしてる?」

「だ!だめ……!それは……」

 何かに気付いた瑠璃ちゃんは、慌てる文乃のスカートの中から何かを取り出す。

「なにこれ……?」


 それはピンク色の……

『バッ!』

 恵美ちゃんが急いでそれを奪い取る。

「瑠璃ちゃんにはまだ早かみたい。そうばいね?文乃ちゃん?」

 彼女はとても暗い顔で文乃を見つめている。

「は、はいぃ……」

(こ、怖かぁ……)


「で、でもそれママの……」

「じゃあザック先輩に渡してもらうようお願いしておくね?」

「は、はい……」

 まるで主人に怒られる犬のようだ。盗み食いでもしたのかな……?


「ふ、文乃……?お前はなんて物を……」

 リビングへ行っていなかった兄はこちらをまじまじと見ている。

「ザックぅぅ……」

 文乃は兄のお腹に、わめきながらすがり付く。


「だってぇ……ザックが何もしてくれないんだもん……」

(まーたはじまったよ……)

「へ?僕のせい?」

 兄は相変わらず惚けている。


「ほーら、言ったじゃない……ローペース過ぎるんです」

 恵美ちゃんは腕を組みながら呆れた様子を見せる。

(ちゃんと見れてない方は私だった……?)


「よーし、こことここね?」

「そうそう~~」

 夏々ちゃんと瑠璃ちゃんは彼女へ後ろから近付き、二つのツボを押す。


「はぐぅぅっ……!」

 彼女は膝から崩れ落ちてお尻を突き出している。


「なっ!?」

 兄は急いで逆側を向く。

「なんか私の時と反応違うんだけど……」

 文乃はそれに不満を漏らす。


(ここまでがテンプレ)

 テンプレとは……テンプレート。

 ここまでがテンプレ。を大まかに説明すると、主な流れというネット用語である……

 段ボールはしっかり死守して、部屋に持って帰った……

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