第15話~ばっすぃん~(プール)

「着替え終わったー?」

「まだー」

 私達はショッピングモールの大きなショップで、水着を試着していた。

 明日皆で行くレジャープール施設の準備だ。


 順番で着替えていたんだが、私の水着は……かなり小さいサイズじゃないと、結んでもブカブカになってしまう。

「チラ」

「ひゃ!?」

 他の皆も着替えている。待ちかねた夏々ちゃんがカーテンから顔を覗かせる。

 彼女の水着は……

 色は黒く少し大人チックな、リボン型でクロスデザインの水着。


「わぁ、大人っぽい。勇気あるねー」

「痩せ過ぎ」

「うっ……」

(結構食べてるんだけどなぁ……)


 彼女はそのまま更衣室に入ってくる。

「暴食した後、お腹上部分がぷっくり膨れるでしょ?」

「そうそう、胃下垂で胸も……」

「まだ希望あるから……!」

 諦めていないみたい。


「フリフリなのいっぱいだね?」

 私の選んだ水着は、白や水色のフリフリの付いたビキニが多い。

「うん、背低いしこういう方がいいかなって」

 彼女は自分の選んだ黒い水着を気にする。でもオレンジ色の髪に黒は似合っている。


「え、背低かったらこういう方がオススメ?」

「髪色にもよるよ。夏々ちゃんは似合ってるよ」


 私はこれもダメかと水着の紐を解いた。

「ひゃ!」

 夏々ちゃんは顔を手で隠す。

(意外と純情……)

「シャールルっ!」

 着替える時に一番来てはいけないのが、着替え終わってしまったらしい。


「見たんだから時間稼ぎお願いね?」

「御意!」

 敬礼するとササッと更衣室のカーテンから出ていく。

「あれ?とりあえず戻ろ」


(次はこれ……)

「シャールル……!」

 どうせ入れ替わりで入ってくるのかと思った。でも悔しいながら、一番ファッションセンスがあるのは文乃だ。


 彼女は青と白の水玉水着に、アメリカ柄のスカーフを腰に巻いている。

(相変わらずお洒落……)


「どっちが似合う?」

 真っ裸のまま水着を二つ重ねて聞いてみる。

「うーん、こっちかな?」

 水色より白が混ざった水色らしい。


「シャルルは今、外で真っ裸だね……?恥ずかしい?興奮した?」

(興奮してるのはお前だ)

「よし、着てみよ」


 文乃は、ニヤニヤしながら座ってその光景を見ている。

 実際に着てみると……

「ちょうどいいかも……」

「ほんとだ、似合ってるしちょうど良かったじゃん」


(こいつが褒めるだけ?何か企んでるな?)

「実はぁ、着て欲しいのが二つあるんですぅ」

「却下。これに決めたから」

「まあまあ、そう言わず見るだけでもぉー」

「どうせ無理矢理にでも着せるんでしょ?」


「着せない着せない」

「じゃあ文乃が先に着てくれるなら着てもいいよ?」

 行き過ぎない程度の意地悪をしてみる。

「そ、そら勿論!」



「ふふーん」

「うぅ……」

 彼女が着たのは黒いマイクロビキニ。

 下半身はもう丸見えに等しい為、彼女は手で隠している。


「お兄ちゃんに見せてあげたいねぇ~」

「やぁ……!」

 顔を隠してしゃがんでしまう。

「約束通り着るけど……買わないから」

「よし……!」



「かわいいぃ」

 彼女の目はもうハートに染まっている。

 確かにちょっと際ど過ぎるが、彼女が着るよりはましかもしれない。

(絶対着ないけど!)


「もお我慢できない!」

 文乃はふーふー言いながら私に巻き付いて、 水着を脱がせる。

「ばっ!ちょっと待って!ここ、外!」

「あぅぅ……」


 マイクロビキニと共に崩れ落ちる。

(前よりは制御できるようになったかな……?)


 他の動物浮き輪とかも買いたくて、時間もあまり無かった。

 だからそれぞれの買いたい水着を、レジでちらりと見る程度だった。

(他二人の気になるなぁ……)



 そして次の日……

 璃晦ちゃんや、お守りの兄を含めた七人でレジャープール施設に向かった。


「久々来たかも~」

 瑠璃ちゃんは水着姿で伸びている。

 彼女は黄色とオレンジの、かわいいフリフリ水着を着ている。

 そして紙には花の髪飾りを付けている。


「それ、外れないように気を付けないとね」

「そうそう。だから激しいとこは外しておくの~」

 それに答える恵美ちゃんはシンプルな黒ビキニ。その大人っぽい雰囲気は彼女に似合っている。

(シンプルにかわいい……)


「なんかめぐみんの方が大人っぽいのずるいぃ……!」

 夏々ちゃんが後ろから彼女のお腹に抱き着く。

「あ、あんたも充分すごいわよ?」

「すべすべ」

「ちょ……!お腹っ、くすぐったかぁ……」


 兄が目を逸らした。それを文乃は見逃さなかったようだ。

「ザックぅ?」

「こら、いきなり抱き着くなぁ……」

「どうしてかなぁ……?」


 彼女は兄の頬を掴み、太ももで股間をつっついている。

「見ちゃダメよ!」

 私は凝視する璃晦ちゃんの目を隠す。


「どしてですか!?」

「どしてもよ!」

(やっぱり身長数センチ負けてる……?)

 百四十センチ代なのが極めて恥ずかしい。


「でさ……」

 一つだけおかしいことがあった。

「どしたんです?シャルさん」


「何で私はマイクロビキニなのかな……?」

「水着忘れちゃってごめんなさい……」

「こ、今度は頼むね……?」

 璃晦ちゃんは代わりに私の水着を着ている。


(文乃め……!持ってこなきゃ買えば済んだのに……!)

 私余りの水着あるよー、なんて文乃の言葉に引っかかった私も悪い。



「はいろはいろ~!」

 瑠璃ちゃんに続いて、くねくねした道のプールに入る。

 一般的には流れるプールとも言う。休日なだけあって人はそこそこいた。


 皆はそれぞれの浮き輪や、ビーチボートやボールを浮き輪代りにしている。


 そして私は文乃が膨らませたシャチ浮き輪に乗る。

「あ、それ私の……」

(ん?何か暑いなぁ……)

 そりゃ夏だし暑いのは当たり前だし、まあいっか。


「ねね?先乗らせて?」

「えー、順番でしょ?」

 文乃が困ったような顔で私の足を掴む。

「そ、その……物足りないから」

(物足りない……?そういや乗る場所少しぬるって……)


 乗る場所を触ってみると、じわじわとシャチの背中から液が出ている。

「なんか妙にスースー……あんた!プールに何てもの持ってきてんのよ!」

 シャチから急いで降りて、彼女に小声で怒る。


 いわゆるこのシャチは、そういう人の為にそういう昂りを与えるために作られた物だろう。つまりエロシャチだ。

「だ、だってぇ……我慢する為にママに用意してもらったんだもん……」

 開いた口が塞がらない。


「ほ、程々にしなさいよ……?あと、水はこまめに取りなさい?」

「うん、ありがと……」

 スイカのビーチボールを抱える璃晦ちゃんに、そのやり取りをバッチリ見られていた。


「…………」

(絶対引かれたぁ……)

「私にも……!」

「ダメだよ?あれはアメリカンな物だから、私達が使うと具合悪くなっちゃうのよ……」

「そ、そうなんですか……」

(まだ純情で良かった……)


「ん?りっちゃんどしたの?」

 ビーチボートを掴んだ瑠璃ちゃんが、不思議そうに近付いてきた。

「な、なんでもないない……!」


「えいっ!」

『パシャッ!』

 夏々ちゃんに水をかけられる。

(ナイスタイミング!)


「ひぃえっ!?夏々ちゃーん?」

「へへへ」

「えいっ!」

 私も負けじと水をかける。それが恵美ちゃんにもかかり……


「つめたかっ!シャルちゃんやったわねぇ!うりゃっ!」

「何で私にかけるの~!」

 一周回って瑠璃ちゃんにそれをかける。

 結局皆ではしゃいでいた。


 横目で文乃を見ると、少し震えて降りられなくなっていた。

「お兄ちゃん……!」

「ん、あぁ」

 兄に追いかけるように指示を仰ぐ。


「おい、文乃。流れてっちゃうぞ」

「だ、だめ!まだしっぽ掴んじゃ!」

「ふぇ?」

 兄は止めようとしてエロシャチの尻尾を掴んでしまう。


『ギュッ、ヴーヴヴヴヴーー』

 エロシャチは細かに全身を震わせる。

 彼女の顔は真っ赤に染まり、一瞬背を逸らせた。

(多機能過ぎません!?)


「はううぅぅ……降りようとしてたのにぃ、んくっ!はぁはぁ、ザックのばかぁ……!ひゃうっ……!」

「ん?どした?ほら、怖いなら手貸すぞ?」


『バシャッ!』

 文乃は間髪入れずに兄に飛び付く。

「こらこら、いきなりは危ないだろー……ってそんなしがみついてどした……?」

「怖かったぁ……」

「よしよし」

(エロシャチ爆破しろ!)


「熱々ですねぇ~」

 夏々ちゃんがニヤニヤしながら二人に話しかける。

「そ、そんなこと……」

「あるでしょ……?」

(あぁー身内だと思うと恥ずかしい)



 ある程度泳ぐと、私達はチュロスの甘い香りに誘われてプールを上がった。

「おいひぃ~」

 チュロスのサクサクした食感と、シナモンの甘い風味が口に広がる。


「暑い時には甘い食べ物だね~」

 瑠璃ちゃんがそう答えてくれる。

(流石スイーツマニア)


「瑠璃ちゃんもそう思う?」

「うん!夏って良いよね~」

「暑い分、汗は気になるけど……」

「そだね……」

 瑠璃ちゃんも同意見だったらしい……


「ん~~!りっちゃんも美味しい?」

「うん!ふーさん、おいひいね!」

「かわいい~」

 文乃が璃晦ちゃんのほっぺたをツンツンして可愛がっている。

(良いなぁ……私も可愛がりたい)


「あ!よく考えるとあたし達、会う度に何か食べてるね」

「確かに……!」


 夏々ちゃんに言われて気付く。

 最初のファミレスからクレープ。遊びに来た時はお菓子食べてお泊まりでも夕御飯。瑠璃ちゃんの誕生日の時も沢山食べた。

(あれ?私ってサブカル生活から抜け出して立派なリア充に……?)


「そうね。昨日も帰りにジェラート食べちゃったし」

「めぐみーん?体重大丈夫ー?」

 恵美ちゃんはお腹をぷにぷにとつつかれる。

「忘れてたんだからやめてほしかぁ……」



 食べた後は少し移動してウォータースライダーの場所へ移動する。

「すごっ……!」

 そのスライダーはそこそこの高さがあり、かなりの迫力がありそうだ。


「文乃は克服できたー?」

「ふぇっ!?わ、私は別に……!」

「僕が一緒に行こうか?」


「ほんとに……?」

「あぁ」

「ほんとにほんと?」

「勿論」

(お兄ちゃんやるじゃん)


「めぐみーん」

「なによ」

「あたしは覚えてるぞー」

 恵美ちゃんと夏々ちゃんが面白そうな話をしていたので、首を突っ込んでみる。


「何かあったの……?」

「実はね……」

 夏々ちゃんが私にこそこそ話をしようとした時……

「言わんとぉーー!」

 恵美ちゃんは恥ずかしそうに手を振ってごまかす。


(可愛い。でもスライダーで恥ずかしがるってことは……ポロリか泣いたかどっちかかな?)

「ふふーん」

「な、なによ!?シャルちゃん!」


「いや、何もー私は脱げたことはな……」

 そう言おうとした時、恵美ちゃんに脇をくすぐられる。

「んひゃっ……!くすぐったいってぇ……!ひぃ、やめてぇ……」


「あ……」

 恵美ちゃんが声を漏らす。私のマイクロビキニは多少ズレていた……急いで戻す。

「ごめんね?」

「次からはもうだめだから……」

 物凄く恥ずかしくなる。きっと顔は真っ赤かもしれない。


 その時私がスライダーに乗るということはどういう意味なのか……やっと理解した。

「んっ!」

 文乃と兄はこちらをガン見していたが、私が睨むと目を逸らす。



 ウォータースライダーへ並び、順番に滑る。私は二人ペアからあぶれて一人で滑る事に。

(こっちの方がよっぽど恥ずかしいよ……!というか絶対……)


「シャルルー行ってくるねー」

「シャル、頑張れよ」

 何で文乃と兄はこんなに笑顔で先を滑るのだろうか。

(はめられた……!覚えてろぉ)


 そして兄と文乃は二人で滑っていく。

「わぁー!」

「早い早いー!」

 叫びも棒読み。どれだけ私の恥ずかしがる姿を見たいのだろうか。


 だが下では予想外の事態が起きた。

 文乃が兄の後ろでしゃがんでいる。

(まさか……!ざまぁ!)

 でも兄と職員の手助けで、すぐにスカーフだけでも見つけてその場を離れる。

(おっきいヒップが悪さしたな……?)


 だからと言って、私の布面積は変わらない。

「ど、どうぞー」

 ゴーサインを出す職員も少し苦笑いだ。


(覚悟を決めるしか!)

 そして私はスライダーに座り、胸を押さえて足をぎゅっと閉じて滑る。

「ひゃぁ~~!」

 物凄い速さは確かに楽しい。けど、冷たい水と共に紐に違和感を感じる。


(私、終わった……)

『バッシャァァン!!』

 マイクロビキニはもう手元にはない。

(あぁぁぁぁ!!)

「だ、大丈夫?」

 職員が近くに走り寄り、私にマイクロビキニを渡してくれる。


(か、かか神……!)

「あ、ありがとうございます……!」

「も、もしかしてあの……文乃ちゃんの仕業?」

 顔を上げると、綺麗な銀髪ロングヘアーのお姉さんだった。

(どうして文乃を……?一瞬頭がこんがらがる)


「ほらほら、今止めてもらってるから。体貸して?」

「は、はい……」

 そしてビキニを着せてくれると、その場から手を繋いで連れていってくれる。


「あの……もしかして?」

「ええ、あの子の家の遠い家柄でね?この春からここに来て、やっと会えたの」

「そうなんですか……」

 目の前に立つ、スタイルの良い水着姿からは……何というか、優しい感じがした。


「あの子本当に気が弱いから……助けてくれてたのね?ありがとう」

「良いんですよ。文乃が頑張ったんです」

「あぁ、褒めてあけないとね……?」


「結衣ちゃん……!?」

 文乃はやっと気付いたのか口元を押さえる。驚いて涙を流しているようだ。

「久しぶりね?元気してた?」

「元気してた?じゃないよ!連絡取れなくて心配したんだから!」


 二人の久しぶりの再会を、私と兄は呆けながら見つめている。

「しかと目に焼き付けたぞ。シャ……いたいっ!」

 兄の足をギューっと踏む。

「これだけじゃ済まないから。覚悟してね?」


「おー、怖い怖い……」

「ふふふ」

 急に結衣さん?が微笑みを溢す。

「どしたの?」

「いや、なんでもないわ。よくあなたにも怖がられてたわね?文乃?」

「そ、そんなことないよ……!」


『バッシャァァン!』

「あ、戻らなきゃ……!」

「結衣ちゃん!」

 文乃が彼女を呼び止める。


「ええ、後でまた話しましょ?五時には上がるから」

「ここの温泉で!」

「わかったわー!」

(昔は私に怖い怖いって泣きついて、あれしてこれしてばっかりだったのに……)


『バッシャァァン!』

 皆を待っていると、次の水しぶきが聞こえる。

「楽しいね!お姉ちゃん!」

「そ、そうかな~?」

「もっかい!」

「あと一回だけね~?」

(姉妹も楽しそうね。連れて来れて良かった)


『バッシャァァン!』

「はわっ!恵美!?」

「あぅぅぅ……恥ずかしかぁ……」

 恵美ちゃんは黒ビキニの上を無くし、おっぱいを手で隠している……真っ赤な顔で。

(博多弁今日漏れすぎぃ……最高ばい)


「大丈夫?ってあんな遠くに……」

 それを結衣さんが助けているが、彼女の胸の大きさに少し慌てながら探している。

(やったね恵美ちゃん……!てか私ってやっぱり子供……)

「ザック!」

「いたっ!文乃まで踏むなってぇ……」

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