第14話~るり・でぃん らあしゅ でぃーにあ~(瑠璃・お誕生日)

 その後は二人も到着して夕飯の料理を手伝ってくれた。

 兄と文乃は、瑠璃ちゃんのお世話役として召喚させた。

 三人は……ずっとじゃれあっている。主に文乃が原因なんだが……


「料理中に変なもの見せないでよ……」

「テレビでも点けたら?」


「わんこのぱいぱいさいこぉ~~」

「やぁぁだぁ~ひにゃぅ……!そこばっかりつままないでぇ……」

 パーティの準備を手伝ってとは言ったが、そういう意味じゃない。


「だからお前は目の前で堂々と……」

「何?ザック興奮した……?」

 流れが男の兄には刺激的過ぎる。


(無視してさっさと作らないと……)

 送っていかせるお父さんの事も考えて、二人が帰ってくる時間には作り終えていないといけない。


「そっちは大丈夫そう?」

 私はメインの半額黒毛和牛をステーキにして焼き、二人にはサラダの用意を手伝ってもらっている。


「うん、大丈夫……って猫の手猫の手!危ないなぁ……」

 夏々ちゃんが慌てふためきながら、没頭している恵美ちゃんを注意する。

「しょ、しょうがないじゃない……」


「これを気に、作る人を手伝いますか?」

「はぁい……っていったらつまらんっ!はっ……!」

 夏々ちゃんにそう言われると、彼女は博多弁を漏らしてしまう。


 彼女がそのことに気付いた時には、夏々ちゃんはニヤニヤしていた。

(やっぱりそうだったんだね。それも博多弁なんだ……)


 私はそんな会話を聞きながら、順調にステーキを焼いていく。

 そして隣ではコーンスープが煮立ち始めている。


「いいにおい~」

 瑠璃ちゃんがお肉の焼ける匂いに反応する。

 普通なら今日はご馳走だし、ご飯まで食べてこうってなったら誰でも気付く。


 そこで彼女の妹とも結託し、秘策をここまで取っておいた。

「あ、そうだ。せっかくなら妹ちゃんも呼んじゃいなよ」

 私が調理片手にそう提案する。


「ふぇっ!良いの?」

「私また璃晦ちゃんと遊びたーい」

 驚く瑠璃ちゃん。それに抱き着く文乃も、その提案を推進してくれる。

(単にセクハラしたいだけでしょ……)


 この前のお泊まり会も、暇さえあれば春佳姉妹といちゃついていた。

 女の子が好きなのか、ザックが好きなのかどっちか分からない。


「あ、味見してくれない?」

 私はコーンスープの味見を夏々ちゃんに頼む。

「はいはい」


 彼女はスプーンで少しよそって飲む。

「いいじゃん!甘くて美味しい~」

「えへへ、頑張ったんだ……!」

「よし、じゃあお肉代わったげる。熱いでしょ?」


 汗を拭きつつ、木べらを彼女に渡す。

「うん……お願い!」

 冷房をかけているとはいえ、この時期はもう火の近くが暑い。


「シャールルっ!」

 悪魔が来た。

「私も味見する~コーンスープ」

(あれ?案外まともだ)


「はむっ……うんうん!」

(警戒し過ぎたかな?)

 熱を冷やしながら冷蔵庫にもたれかかる。


「はむっ……ちゅっ、じゅるじゅる」

「んぐっ!?んくっ、ごくっ……」

 再び目を開けると、私は彼女に口移しされていた。

「ぷはぁっ!あんた何してっ!ひゃうっ……」

 そのまま首筋の汗を舐められる。

「れろれろ……えへ、しょっぱくておいひい」


 皆に驚愕の視線で見つめられている。

「な、夏々……!ほらお肉お肉」

「あー、はいはい……」

 遂に誰も助けてくれなくなった……



 お母さんとお父さんも帰ってきて、作った料理を皆で食べる。

「おいひぃ……!」

 瑠璃ちゃんも皆も幸せそうにしている。

(和牛自体も美味しいけど、焼き加減凄い……!とろける……私も見習わなきゃ)


「美味しい……!」

 璃晦ちゃんもあまりの美味しさに目を丸くしている。

「今日は一段と豪華ね~」

「そうだな。ご飯が進むな?ザック」


「うん、うまいよ父さん!」

 兄も凄い嬉しそうだ。良かった……

「俺じゃなくて、考えた人に感謝しなきゃな?」


 兄は私の方を見て、一旦茶碗を置く。

「あ、ありがと……」

「ど、どういたしまして……」

 急に真っ向から感謝された。凄い照れる……


「ふふ、本当の仲直りね?」

「よく考えて?懸け橋私!褒めて!」

「よしよし」

「えへへ」

 お母さんはまた文乃を甘やかしている。

(文乃ばっかりずるい……!)


 最初の原因をよく考えてほしいものだ……

 でもどちらにしろ、いつかはこうなったのかもしれない。

 だから瑠璃ちゃん、夏々ちゃん、恵美ちゃんが心の支えになってくれた事は凄く感謝している。



 皆食べ終わり、お父さんとお母さんは察してくれたのか食器を片付けてくれる。

 兄が冷蔵庫からケーキの箱を持ってくる。

「わぁ……!すご~い」

「お姉ちゃん!」


『お誕生日おめでとー!』

 夏々ちゃんと璃晦ちゃんが側からクラッカーを鳴らす。

「ふぇ!?」

 瑠璃ちゃんはいきなりの出来事に驚いている。


「きょ、今日って……そっかぁ」

 彼女はぼーっとしながら納得している。更に感慨深くなったのか目元がうるうるしている。

「りっちゃんまで……えぐっ……」


「うぅっ……びっくり、するよぉ……!」

(泣いちゃった……!?)

「良かったね、お姉ちゃん。シャルさんが全部考えてくれたんだよ?」

「しゃ、シャルちゃんが……?」


「うん!出会ってまだ数ヶ月かもだけど、私は瑠璃ちゃんの笑顔に救われたよ」

「ほんど……?」

「うん!」

「だってわだし……どんくさいし、全然力になれてないし……」

 彼女の口から弱音が出る事なんて意外だった。


「そんなことなかばい……!」

 恵美ちゃんも博多弁を漏らしながら、泣きそうになっている。

(結構涙もろいんだね……)

 その間、兄は黙々とケーキのろうそくの準備をしてくれる。


(誰かさんもこれ位気を利かせてくれたらなぁ……?)

「実はさ、私嫉妬してたんだ」

(ここでそのカミングアウト!?もっと気を遣って!?)


「ふぇ?」

 でも彼女の雰囲気は、そういうギスギスしたものとは全く違った。

「ゲーセンの時、シャルルと一緒にいたじゃん?だからこの子が一番最初の友達なのかーって」

 兄もその時は手を止めていた。


「私が変なことしても、優しく受け入れてくれたし……シャルルに凄い怒られても、そんな時もあるよって、仲直りがんばろーねって……」


 恥ずかしがり屋の彼女が、こんな本音を言うなんて……

 しかも涙をぽろぽろと流している。

(そんなことが……)


「ううん。大きなお世話かもって……」

「いや、そんなことない。私が二人と向き合えたのも……シャルルから、皆から離れなきゃって馬鹿な考えが、るりるりの言葉で覚めたよ」

「ありがとう。文乃ちゃん」

「こちらこそ!」

(ワタシカラハ、テヲヒイテモイインダヨ?)


「ほら、馬鹿って言われてるわよ?」

「そ、そりゃ僕も悪かったけど……」

 兄は恵美ちゃんに肘でつつかれていた。


「むぅ、大切な話してるのにぃ……」

 文乃が頬を膨らませて怒っている。

(不覚にもかわいい)

「ご、ごめんなさい」

「ごめん……」


「恵美ちゃんはいいよ」

 兄には浮気注意報の容疑もかかっている。

「え……」

「ザックは私だけに、なんかして……?」

(かまちょキター!かーわいぃ~攻めますねぇ)


「ひゅーひゅー」

 台所からお母さんが二人を冷やかす。

「こらソフィア」

 続いてお父さんが、お母さんの名前を呼んで注意をする。


「えー、だって良いじゃなーい」

「あまりそういうのは……」

 確かにお父さんは、私と兄の前でそういう話をしない。


「でも、この前だって!帰りたくない、一緒にいたいんだ、二人きりがいいって言ったのはどこの誰ー?」

「母さん!」

(言ったんかい)


「ごほっけほっ」

「ふぇ?うぇほっ、こほん」

 私と兄は、突然のカミングアウトに驚いてむせてしまう。

「風邪かなぁ?私が二人の熱もらって……」


『もらわんでいい』

 文乃が絡むとあっちの家族を心配させる事になる……

 家だってかなり豪邸チックな一軒家だ。


「お兄ちゃん、勉強頑張ってね?」

「あぁ……シャルにえぶっ!?」

「ザック?そういうことは私が沢山してあげるからね?」

 兄と文乃は、互いに互いの歯止めを担っているようだ。

(その笑顔、エロくて怖い)


「ケーキおいひぃ……」

「お姉ちゃん、ほっへについへるほぉ……」

 春佳姉妹はケーキを美味しそうに頬張っている。

(目の前修羅場なのに図太いなぁ……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る