#4 なつをたのしむ

第13話 ~ぷらすとっく~(芽生え)

(あれ……?ここは?)

 見知らぬ天井が見える。緑のカーテンで仕切られた小部屋。そして点滴が……


「シャル……!?」

 マスクをした違う天敵がいる。

「おにー、ちゃん……?」


「こんな日に帰るの遅くなってごめんな……」

 頭を優しく撫でてくれる。

(私、倒れたんだ……ここは病院?)

 まだ熱の倦怠感や、節々の痛みは治まらない。


「ふみ、のは……?」

「今、検査を受けてる。優しいんだな……」

「そんなこと……にゃいよ」

 言葉がうまく出てこない。恥ずかしいけど、体が辛い……


「大丈夫だ。よくある高熱の肺炎だ」

「舞妓さん?」

「ぷぷっ……まだ覚えてたんだね?そうだよ、マイコプラズマ肺炎だ」


 私達がこっちに来てすぐの頃、兄がこれにかかった。

 そして日本語勉強中のお母さんが……

『ヤダァ……!ザックが舞妓サン!?』


 今でも笑い話にすると、お母さんは恥ずかしがる。正直高熱が出るから笑い事ではないんですが。

 だとしたら文乃も、それに皆は……


「皆は……?」

「今向かってるってさ」

(いや、大丈夫かって事なんだけど……というか、いつの間に連絡先を……?)

「浮気、ダメ」

「なっ!?はぁ……」

 兄は驚くが、文乃の事と分かったようでため息をつく。


「本当に、文乃を……愛せる?」

 苦しいながらも大切な事を聞く。天敵とは言え、私の大切な友達だ。

「いきなりだな……でも、僕が伝えたんだ。変な形ではあったけど……」


「…………」

(怪しいな……)

「その、気付いた瞬間漏れてて……」

(そんなことだろうと思った……)


「リード」

 話す事すらかなり辛いのでそれだけ伝える。あの子は恥ずかしがり屋で、こちらから一歩踏み出さないと付いてこない。


 個人的にはもっと恥じるべきところがあると思うけど……

「わかってる……」

 兄の答えにこくりと頷き、また目を閉じた。


 まさかマイコプラズマにかかるなんて……

 確かに菌だらけのとこ粘膜接触したんだし、そうなってもおかしくない。


 結局寝てる間に皆は来たらしく、今度はお見舞いようのプリンとかも買ってくれた。

 本当に三人には感謝してもしきれない……


 彼女達一人一人の思いやりや意思が、結果となって、私達の悩みの輪を打ち切ってしまった。

 色々エッチな形ではあったけど……


 私と文乃は、治療のお陰で熱も三十八度代に下がった。

 そして文乃のお父さんの車で私と兄だけ送ってもらった。

 後から来た母と父、そして文乃のお母さんも定員オーバーだ。


 気を遣わせてしまった。

 というより、兄には文乃のお父さんから大事な話があったのでしょう……


 そうして数日後、熱も落ち着いて登校許可も下りた。



「シャルちゃん!ふみちゃん!」

 教室前に着いた途端に、夏々さんから抱き締められる。

「夏々さん!」

「夏々ちゃーん!良いにおいだ~」

(流石変態。確かに天然の良い香りだけど)


「あっ!まだ、さん呼びするつもり?」

「夏々……ちゃん?」

 呼び捨ては私のキャラに合わないのでやめた。それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。


「なーちゃん!」

 文乃は元気に夏々ちゃんに抱き付く。

 彼女の甘える相手が増えたようだ。発情相手の間違いかもしれない。

(最初は胸張ってパイタッチとかしてたような……)


「シャルちゃ~ん」

「文乃ちゃんも来たのね」

 瑠璃ちゃんと恵美ちゃん……も教室から飛び出してきた。

(ちゃん呼びに慣れろ、慣れるんだ……)


「久しぶり、瑠璃ちゃん恵美ちゃん」

「ぷっ、久しぶり」

「ふふっ……久々だねシャルちゃん」

 笑われた……私は頭を抱えてその場にしゃがむ。


「かわいいぃ~」

 文乃は後ろから抱き着いてくるが、それ以上の事はしてこない。

(受け入れられたんだ……?)

『ずぷぷっ』

「んぐぅっ……!?」

 久々にやられた。


「ちょっと!不衛生!また風邪引くよ!」

「ふぇ~い」

 恵美さんに注意された文乃は、私の上へ項垂うなだれる。

(不衛生じゃなければ良いの?)


「重い……」

「誰のお尻が、重いって?」

 スカートの中からお尻を揉まれる。

(そもそも手がスカートの中って……)

「ひぅっ……!そこまでは言ってない!」


「…………」

 三人は黙って私達に苦笑いを浮かべる。

(いやいやみなさん?そんな変態カップル見るような目で見ないで?)


 私に全身でのしかかる文乃は前後に揺れている。

「やぁーめぇーでぇー」


「うふふ、私も~」

 瑠璃ちゃんもその上から覆い被さる。

「なっ!巨乳わんこめ!押し付けても誘惑されんぞ~」


「夏々、教室戻ろっか?」

「写真撮ったらね~」

 夏々さんはスマホのカメラを私に向ける。今にも押し潰されそうだ。


「じゃ私もおぶってもらう~」

(ま、まじ!?これ以上は……)

『グニュウ』

「ぐぇっ」

「うぐっ」

「めぐちゃん柔らか~い」

 夏々さんはある程度連写すると、教室に入っていった。


『ドサッ』

 私は力尽きて地面に倒れる。

(これが床……私はこんな汚い床に伏せて……)

「あ、じめっとした」

(いい加減その手を離せ!)


「え、なになに~?」

「文乃ちゃん?スカートの中はダメでしょ?」

恵美ちゃんが焦った様子で彼女を注意する。


「あ~~ぺろぺろしたいよぉ~~」

「はむっ、ぺろぺろ」

(瑠璃ちゃん!?)

あの瑠璃ちゃんが大胆な行動に……

「やぁっ……!わんこめぇ!耳舐めたなぁー?」


 やっと文乃がどいて重荷が全て消える。

「ひゃぁ……!」

「揉みしだいてやるぅ~」

 立ち上がった二人はじゃれあっている。


「ほら、シャルちゃん?」

 恵美ちゃんが私に手を貸してくれる。それを掴んで立ち上がる。

「うんしょ」


 ドアの影から夏々ちゃんがジト目で見つめてくる。

(戻ってしまったから混ざりにくいんだね……)


「夏々ちゃーん、助けてぇ~」

 半泣きの瑠璃ちゃんがそんな恥じらいもぶち壊していく。

「ぐへへ、まてぇーわんこ~」

(せめて名前を付けなさい……)


「やぁ~、おてての動きやだぁ~」

 夏々ちゃんを盾にして追いかけっこしている。

「こうなったら……」

 文乃が夏々ちゃんの目の前でしゃがむ。


「へっ?何して……?」

「ちょっと失礼するね……」

 彼女は夏々ちゃんの足の間をしゃがんで通り抜けようとするが……

 通る人の体格と、通られる人の身長の低さと足の幅で不可能に近い。


「ちょ……やめ、くすぐったい……」

 更に太ももを手で押し広げて通ろうとする。

 だが文乃が彼女の股下で止まった。


 標的が変わった……

 瑠璃ちゃんもまじまじとその行為を見つめている。


「ん?意外とぷにぷに」

 彼女はその太ももを揉んで上を眺めている。

「だ、だめ、んっ!やぁ……ひゃんっ……!」

 何ともエロい嬌声が聞こえる。


 彼女はただマッサージをしているだけでしょう。きっとそうだ間違いない。

「うわぁ……――――広がってる~」

 言ってはいけないことを言いやがった……


「やぁ……!やめぇっ!見ないでぇ……!」

 夏々ちゃんは恥ずかしいのか顔を手で隠す。瑠璃ちゃんも同じように顔を隠している。


「こ、公衆の面前!」

 私が注意を促す。聞こえていないようだ……


「どーしてやろーかなぁ……?」

 手をピアノを弾くかのようにそわそわさせる。

「ひゃっ……くすぐったいぃ」


「恵美ちゃん!」

(そろそろ助けに行かないとまずい!)

「ええ!」

 彼女は何故かスマートフォンを構える。

「へっ?」


『カシャ!カシャ!カシャカシャ!』

 物凄い早さで移動して様々な角度から撮り始めた。

「こ、これで……!これで、もう公開処刑の恥ずかしい思いなんて……!せんけん……!」

(私怨しえんが込められている……!)


「ぐっへへ……」

 文乃が変態丸出しの笑みを浮かべる。それでも顔面偏差値は高い。

『ポタ、ポタ……』

 瑠璃ちゃんが耐えきれなくなって鼻血を垂らす。


「んぅ?見てもないのに何を考えていたのかな~?」

「ふぇぇ……」

「はぁ……」

 私が彼女の鼻血をポケットティッシュで拭いてあげる。


「ありがと……」

『キーンコーンカーンコーン』

「あ、授業始まるのに用意してない……!」

(ナイスタイミング!鼻血も役に立つ!)


「これは遅刻になったとしても……!ふぇあぁーー」

 私は無理矢理文乃を引きずって、授業の用意をさせた……



 あれから数週間経って、梅雨も終わりを迎えようとしていた。

「あづいぃ……」

「じゃあひっづくなぁ……」

 マンションに帰ってくるなり、私と文乃は暑さに項垂れていた。

 瑠璃ちゃんは用苗に水を上げている。


 実は私も同時期にヒマワリの種を植えて育てていた。

 コスモスはやっと芽を出して、ヒマワリは茎と葉がしっかり出来てきている。


「シャルちゃんのも水上げておいたよ~」

「ありがとー」

「にしても急に暑くなったね~」

 瑠璃ちゃんも汗が滲んでいる。ちょっとギャップが良い。


「あ、そうだ」

「シャ~ルルぅ~」

 立ち上がっても文乃は引っ付いてくる。


「今エアコンつけるから……」

 私は壁に付いたリモコンを取り出し、冷房をつける。


 帰りは五人で途中まで帰り、夏々ちゃんと恵美ちゃんは後から遊びに来る。

 兄は彼女を放置して、アイスを人数分買いに行ってくれている。


「あんたも一緒に行けば良かったのに」

「こ、今度からそうする……」

 実は今日……六月二十九日は瑠璃ちゃんの誕生日なのだ。


 だから二人はご馳走の材料を買ってきてくれている。

 本当は私と夏々ちゃんが行くのがベストだったけど、怪しまれては意味がない。


 そして兄はアイスだけでなく、ケーキも買いに行っている。


「ねーねー、わんこ。だっこさせて?」

「ふぇ……?」

 文乃が瑠璃ちゃんに抱き着き、変な事を言う。

 そうだ。これもケーキや料理を見られそうな時の対処法だ。


(なるほど。今のうちから慣らしておけば……)

「私も手伝ってあげるー」

 その時、文乃の目がキラリと光る。とてつもなく嫌な予感がした。


「シャルルは私がだっこ!」

 命懸けの追いかけっこが始まる。

 まずは瑠璃ちゃんを盾にして、様子をうかがう。

 左右どちらから出るかしっかり見極めるのがポイン……


(ん!?)

「はーい、だっこ」

 後ろを向いた瑠璃ちゃんに背中を支えられて、軽々とお姫様抱っこされてしまう。


「なして……!」

(胸柔らかっ……!劣等感……)

「シャルちゃ~ん?私売ろうとしたでしょ?」

(少し怒ってらっしゃる……?)


「ふふっ、それが目的だったんだよ」

 文乃が彼女の後ろに回り込む。

『サッ』

「ひゃっ!?」

 彼女が瑠璃ちゃんの何かをずり下ろす音が聞こえた。


『ガチャン』

「せっかくならザックに見てもらう?今日の下着」

「いやっ……!やだやだ!お願いだから穿かせて!」

 瑠璃ちゃんはあわあわと恥ずかしそうにしている。


「じゃあその子をこっちに……!」

「え?」

(いやいやそれはおかしくないですか?)

「はい」

 意図も簡単に彼女から仕返しされたのでした。

「よしよし」


「えい~」

「ひゃっ!?」

 今度は彼女が文乃のパンツ?を下ろしている。


「何してるの……?」

 冷蔵庫にアイスとケーキをしまった兄が、怪訝そうにこちらを見つめていた。


『スーッ』

 恐らくパンツを上げる音が聞こえる。

「ばぶちゃんでしゅね~」

 文乃が私を抱えながら揺らす。だけど手がプルプル震えている。

「これがバブみなんだね……!」

(瑠璃ちゃんも変な事知ってるね……)


「全然バブみないわ」

 彼女の胸を指でつつく。

「言ったわね~!」

 ソファーに押し倒されてまたベロチューされる。

「ちゅ、はむぅ……じゅる」

「んーー!んむぅ!」


「みゃう……!?」

 もがいていると口が止まって彼女が変な声を漏らす。

 彼女の後ろから兄が何かしている……?

「浮気だよ」

「ごめんなさいぃ……はぅっ!許してぇ、お尻直で揉むなぁ……!」


『ポタ、ポタ……』

 瑠璃ちゃんはまた鼻血を出している。

「はぁ……」

(なんだこの流れ……)

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