第15話

「………」


 あぁ、いろいろ聞かれすぎて何から答えたら良いかわからなくなってるな。

 しかもメイドの仕事の事もあって、俺の方もチラチラ見て気にしてるな。

 仕方ない、早癒がボロを出さないためにも少しフォローしてやるか。


「おい、あんまり質問攻めにしてやらないでくれ」


「なんだよ、荒山知り合いなのか?」


「あぁ、まぁな」


「あ! そう言えば今朝は一緒に来るまで来てたよな!」


「なにぃ!?」


「どういうことだ荒山!」


「新しく住むことになった家で早癒の家族が働いてて、一緒の家に住んでるからだよ」


「そ、そんな!! 同棲だとぉ!?」


「あほか」


 俺は「はぁー」っと一つため息を吐くと、事の経緯を皆に説明した。

 ただし、早癒が専属メイドであることを隠して。


「わかったか?」


「なるほど、つまりお前が羨ましい事になってるんだな! よし、殺そう!」


「わかったないみたいだな」


 男子生徒は俺に殺意を向けてくる。

 一方で女子は……。


「えぇ~良いなぁ~荒山君と一緒の家なんて!」


「羨ましぃ~」


「私、毎晩潜り込んじゃう~」


 なんだか約一名から悪寒を感じた。

 そんな女子の反応もあってか、男子達の殺気は更に強くなる。

 潜り込むってどこにだよ……。


「てか、早癒ちゃんはさー荒山とどういう関係なの?」


「え……」


 頼むぞ早癒、誤解を招くような事を言わないでくれよ。


「………えっと……一緒に掃除をする関係?」


 えっと……これはアウトなのか?

 それともセーフなのか?

 いや、そもそも一緒に掃除をする関係って何だ!


「それって一体どんな関係?」


 そりゃあ気になるよな……。

 俺だって気になるもん。


「えっと………身の周りの……」


 あ、これヤバイやつだ……。

 俺はそう思い、咄嗟に早癒の口を手で塞ぐ。


「むぐ……」


「友人だ。それ以上でもそれ以下でも無い」


「そ、そうなのか?」


「あぁ、そうだ」


 急な俺の動きに、クラスメイトは不信感を抱いているようだ。

 そんなことをしていると、早くも休み時間が終わり先生がやってきた。





「すまない、君とは付き合えない」


「そ、そうですか……」


 放課後、俺は昨日に引き続き呼び出しを受けていた。

 全員にお断りの返事をし終え、俺は昇降口に待たせていた早癒の元に向かった。


「すまんな待たせて」


「いえ、ご主人様」


「だから、やめろって」


 周囲に誰もいないから良いものの……。


「学校はどうだった?」


「ん……やって行けそう……」


「そうか……それは良かったな」


 昇降口を出て俺と早癒は校門前で迎えの車を待つ。

 少し早めに終わり、最上さんはまだ来ていない。


「拓雄……帰ったら、部屋の掃除する」


「いや、昨日片付けたから大丈夫だぞ?」


「じゃあ、洗濯するから、ワイシャツ出してね」


「良いのか? 洗濯ぐらい自分で出来るぞ?」


「私の仕事……取らないで」


「じゃあ、頼む」


「ん、了解」


 俺はスマホを弄りながら、早癒とそんな話しをする。

 すると、近くで何かが落ちる音がした。


「ん? ……あ」


「た、拓雄……君? い、今の……話しって……」


 音のした方には、涙目で鞄を落とす由香里の姿があった。

 どうやら話しを聞かれてしまったらしい。

 これはまずい……。


「由香里、ちょっと話しを……」


「あ、いや……その……だ、誰にも言わないよ! そ、そっか……二人はそういう関係なんだ……」


「由香里、お前の考えが間違っている可能性があるから説明させて欲しい」


「い、良いの! わ、私は誰にも言わないから!!」


「待て、じゃあなんで涙目なんだ」


「そ、それじゃあ……さ、さようならぁぁぁ!!」


 由香里はそう言ってその場を後にしていった。

 これはまずい、なんだか由香里に大きな誤解を受けた気がする。

 俺がそんな事を考えていると、迎えの車が来てしまった。







 私、美川由香里は涙を流しながらダッシュで家に向かっていた。

 今日の転校生、私は何となく怪しいと感じていた。

 拓雄君と一緒に登校してくるし、なんか拓雄君気にしてたし………。


「う…うっう……」


 終わった………。

 私恋は終わってしまった。

 だって……洗濯って!

 部屋の掃除って!!

 絶対にただの友達なわけないじゃない!!

 一緒に出かける約束をして、浮かれていた自分が馬鹿らしく思えてくる。

 

「はぁ……やっぱり私じゃダメなのかな……」


 肩を落としながら立ち止まり、私は呟く。

 イケメンで勉強も出来て運動も出来る。

 そんな拓雄君がモテるのはわかるし、私見たいな普通の女子が相手にされていないこともわかっていた。

 しかし、少しでも希望が見えたところだっただけに、ショックも大きい。


「折角友達になれたと思ったのに……」


 もう今日は飲もう!

 オレンジジュースをやけ飲みしよう!!

 美川由香里、16歳。

 本日失恋しました……。





「拓雄様、妹は上手くやれていましたでしょうか?」


「はい、大丈夫だと思いますよ」


 帰りの車の中で俺は最上さんにそう聞かれて答える。

 早癒は俺の言うことを守り、自分が俺の専属メイドであることは隠してくれた。

 問題は最後に気を抜いてしまった事だ……。

 あれは俺が悪かった。

 後で電話でもしてみよう。


「あ、あと旦那様から伝言で、家に帰ったら直ぐに部屋に来て欲しいとの事です」


「わかりました」


「じゃあ……ワイシャツは部屋に置いてて……取りに行く」


「おう、頼む」


 俺が早癒にそう言うと、最上さんはクスリと笑った。


「ウフフ、良かったわ。拓雄様が良いご主人様で」


「え? そうですか?」


「はい、無理を言ったり、理不尽を言わない。祖霊お優しいですから」


「そんな人もいるんですか?」


「ありがたいことに私達は旦那様に大変良くしていただいていますから、そういうことは無いのですが、世間一般では結構あるんです」


「そうなんですか」


「はい、だから姉としては安心なんです。見ての通り、少し難しい子ですから」


「そうですか? あまりそうは感じませんでしたよ?」


「ウフフ、本当に……良かったわね、早癒」


「うん……」


 そんな話しをしている間に、車は屋敷に到着した。

 そんな酷い主人もいるのか……金持ちの世界はまだまだ良くわからないな……。

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