第16話



「じいちゃん?」


「おぉ、おかえり」


 屋敷に帰って直ぐ、俺は着替えを済ませて祖父の部屋に向かった。

 考えて見れば祖父の部屋に入るのは初めてだった。

 祖父の部屋は多くの本に囲まれていた。

 ソファーと椅子もなんだか高そうな感じがして、なんだか学校の校長室みたいだった。


「すまんのぉ、疲れているのに呼び出して」


「いや、別に大丈夫です。それよりも何か俺に用ですか?」


「あぁ、この前泊めた池崎の娘のことなのじゃが………」


「あぁ、姫華がどうかしたんですか?」


「うむ、近々婚約パーティーをするらしくての、わしのところにも先日の詫びを兼ねての招待状が来た、それで次の日曜なんじゃが一緒に来てはくれぬか?」


「俺もですか?」


「うむ、池崎の娘がわしに孫がいる事を話したようでの、三島が拓雄君にもお詫びをしたいと言っているらしい」


「なるほど……分かりました。でも俺、パーティーなんて出たことないんで、どうしたら良いかわからないですよ?」


「そこら辺は大丈夫じゃ、わしも最上の姉妹も一緒だからの」


「なら安心ですね」


「うむ、着ていく服は当日用意するからの、それを着てくれ」


「わかりました」


 一通り話しが終わり、俺は祖父の部屋を後にした。

 パーティーなんてテレビの中だけの話しだと思っていたが……まさか自分が行く事になるとは……。


「はぁ……」


「ため息……どうしたの?」


「ん? あぁ、早癒か。洗濯してきてくれたのか?」


「うん……」


 振り向くと、そこには洗濯篭を持ったメイド服姿の早癒がいた。

 

「ありがとう。実はな……」


 俺は早癒にパーティーの事を話した。

 

「ん……大丈夫、私もいる」


 グッと親指を縦にして自信満々に言ってくる早癒。

 本当か?

 昨日はあんな感じだったが……。


「まぁ、メイドをするくらいだし、パーティーとか行ったことあるのか?」


「ない……」


「じゃあ、なんで自信満々なんだ……」


「いけそうな気がする」


「……そうか」


 なんだか不安になってきた。

 その後、俺は早癒と別れて部屋に戻った。

 そう言えば、最近忙しくてバイトに全く入っていない。

 そろそろ連絡しなければ、マスターが困ってしまう。

 俺はそう思い、ポケットからスマホを取りだし、マスターに連絡を入れる。


「……はい、そうなんです。なのでシフトにはまだ……はい、それじゃあまた連絡します」


 マスターに連絡を入れ終え、俺は通話を切る。

 そこで、俺は由香里の誤解も解いておかなければいけない事を思い出した。

 あの様子だと、完全に何か誤解をしていたしな……。

 俺はスマホを操作して由香里に電話を掛ける。


「あ、もしもし?」


『も! もしゅもしゅ!』


 噛んだな……。


「あぁ。えっと由香里か? 俺だ荒山だ」


『う、うん……ど、どうしたの?』


「いや、今日の帰りに由香里に何か誤解をされていたようだったからな、事情を説明をしようと思ってな」


『あ、だ…大丈夫だよ! だ、誰にも言わないから……そ、そういうのが好きなんだよね?』


 一体この子は何を想像しているのだろうか?

 俺は仕方なく、由香里に真実を伝える。


「……と言う訳でだな、早癒は俺の専属メイドなんだ。だが、それがクラスにバレると色々ややこしくなるから、隠してるんだ」


『そ、そうだったんだ………で、でも…専属のメイドって事は………その………下のお世話も………』


「絶対に無い」


『そ、そうだよね! だよね! ご、ごめんね! 私何言ってるんだろうねぇ! あは。あははは!』


「まぁ、そういうことでな………内緒にしておいてくれ」


『う、うんもちろん! 誰にも言わないから安心して!』


「悪いな、じゃあお休み」


『うん、お休み!』


 俺は由香里からの返事を聞いた後、通話を切りベッドに横になる。

 最近は環境の変化のせいか、かなり疲れが溜まっている気がする。

 




「はぁ~よかったぁ~……」


 私、美川由香里は心の底から安心していた。

 理由は簡単、私が昇降口で聞いた拓雄君と最上さんの会話が誤解だった事がわかったからだ。

 私はてっきり、二人は一緒に洗濯をするような仲なのかと思ったが、思い過ごしで本当に良かった。


「でも……最上さん見たいなのが専属メイドって!? てか専属メイドって何よ! ずるい! 私も専属になる!!」


 通話が切れた後、私は一人でそんな事を考えながら、拓雄君の写真を見て癒やされる。


「はぁ~やっぱ好きぃ~大好きぃ~」


 私はそんな事を呟きながら、今日も写真に頬ずりする。





 早いものでもう週末、金曜日の今日は一週間で一番疲れがやってくる曜日だと俺は思う。

 早癒が転校して来てもう二日、早癒はクラスのマスコット的な立ち位置に落ち着き、女子からは可愛がられ、男子からはその容姿から別な意味で好かれていた。


「はぁ……」


「どうしたんだ?」


「いや、今週は本当に色々あったなと思ってな……」


「まぁ、いきなり身内がやってきて、しかもその人が財閥の総帥で、しかも告白の嵐だったもんなぁ~。羨ましいわボケ」


「当人は結構大変なんだぞ」


 俺は放課後、和毅と葵、そして早癒と由香里と教室で話しをしていた。

 迎えの時間までまだ少し時間があるので、その間の暇つぶしだ。

 葵は早癒をえらく気に入っており、いまも後ろから抱きしめている。


「和毅と違って、拓雄は元々モテてたしね……しかも財力まで手にしたって聞いたら、女子は動くわよ」


「そんな金目的は嫌だな……」


「わ、私は違うからね!」


「あぁ、わかってる」


 必死に訴えてくる由香里にそう言い、俺は時計を確認する。

 そろそろ最上さんが迎えにくる時間だ。


「悪い、俺と早癒はそろそろ行くわ。行くぞ早癒」


「うん」


「あぁ……早癒ちゃんまたね」


「うん、葵」


「じゃあな、拓雄」


「ま、また来週ね、拓雄君」


「おう」


 俺と早癒は三人の元を後にし、校門前に向かって足を進める。


「学校は慣れたか?」


「うん……いい人ばっかり」


「そうか、それは良かったな」


「うん……でも、全然拓雄をサポート出来てる気がしない」


「俺は良いんだよ。学校生活で誰かのサポートなんて受ける必要は一切無い」


「む……でも……」


「良いからお前は学校生活を楽しめ、これは命令だ」


「む………」


 またしても早癒は不服そうな表情をし、頬を膨らませていた。

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