第14話

「おはよう」


「いやいや待て! なんで何ごとも無かったかのように振る舞ってんだよ!」


「どうかしたか?」


「どうかしたかじゃねぇ!! なんか増えてるだろ!」


 何食わぬ顔で挨拶すれば何も聞かれないかと思ったが、流石に和毅もそこまで馬鹿ではないようだ。

 和毅も葵も由香里も全員、俺の後ろの早癒に視線を向けていた。


「そうよ、説明しなさいよ!」


 葵まで和毅に乗っかって説明を求めてくる。

 

「いや、これには色々あってだな……」


「何があったら女子と二人で登校してくる事になるんだよ!」


 正直に言うべきか?

 しかし、正直に言えば絶対に面倒な事になる。

 ここは早癒がメイドであることを隠す必要がありそうだ。

 専属のメイドなんて言ったら、和毅は変な妄想をして、変な噂を学校中に流す恐れがある。

「この子は……家のメイドさんの妹でな、今日から同じ学校に通うらしいから、一緒に来たんだ」


 嘘は言っていない。

 本当の事だから何もやましくない。

 早癒は無表情で俺の事を見ていた。


「メイドの妹? じゃあ、なんで一緒に来たんだよ」


「それは、同じ屋敷で暮らしてるからだ。屋敷の中で暮らしている使用人の人も多いからな」


「なるほど……俺の思い過ごしでなら良いんだが……」


「なんだ?」


「まさか、専属のメイドさんで学校でもお前の面倒を見るために転校してきた。なんて事は無いよな?」


 こいつはエスパーかよ……。

 変なところで妙に勘が良いのが和毅だ。

 

「そんなわけないだろ、漫画じゃないんだ」


「だよな! いやぁ~俺はてっきりそんなうらやまけしからん状況だったら、お前を殺してやろうと思ってたんだが……いやぁ~良かった!」


「全く、馬鹿な奴だ」


 すまん、お前は馬鹿じゃないが、表面上ではそう言っておかないといけなくなってしまった。


「ふーん……じゃあ、由香里は一安心ね」


「ふぇ!? な、何を言ってるの葵ちゃん!!」


 顔を真っ赤にして葵にそういう由香里。

 かなり動揺している様子していたが、なんだかどこか嬉しそうでもあった。


「で、なんて言うんだ? その子」


「あぁ、早癒って言うんだ」


「はじめまして……」


 俺が名前を呼ぶと、早癒は無表情でぺこりと頭を下げる。

 葵や由香里も俺よりは背が低いのだが、早癒はそれよりも背が低く、同学年なのか不思議になってくる。


「お前の周りには美少女が集まってくるよなぁ~」


「ホントね、お人形さん見たいに可愛いわねぇ~」


「た、拓雄君とは、なんでもないんだよね!?」


 三人は俺を放って、早癒の周りに集まる。

 葵はさっそく早癒を気に入った様子で、頭を撫でており。

 由香里はなんだか不安そうに早癒に質問をしていた。

 早癒はそんな二人にされるがままだった。


「おい、早く行かないと遅れるぞ」


「確かにそうだな」


「早癒、確か朝は職員室に行かなきゃ行けないんだろ?」


「うん……」


「じゃあ、俺は早癒を連れて職員室に連れて行ってから教室に行くから、先に行ってくれ」


「おう、じゃあ先に行ってるぜ~」


「早癒ちゃん、同じクラスだと良いわね」


「じゃあ、先に行くね」


 そう言って俺と早癒を残して、三人は教室に向かって行った。

 

「じゃあ、行くか」


「うん……」


 俺は早癒と共に職員室に向かって歩き始めた。


「……」


「……」


 お互いあまり話しをする方ではないので、会話は無い。


「……」


「……ご主人様」


「なんだ? それと、学校では拓雄で頼む」


「じゃあ、拓雄」


「どうした?」


「皆見てる……なんで?」


「そうか? ……別にいつも通りだが?」


「……そうなの?」


「あぁ、なんか気になるのか?」


「違う………拓雄は鈍感」


「は? なんでそうなる?」


「………なんでもない」


 俺が不思議に思っていると、早癒は再び口を閉ざした。

 別にいつも通りだと思うのだが、早癒は何が言いたかったのだろうか?

 確かにたまに女子と目が合うが、そんなのはいつもの事だし、偶然であろう。


「ついたぞ」


「ありがとうございます、ごしゅじ……」


「だから、拓雄だって」


「ん、拓雄。ありがとう」


「おう、じゃあ俺は教室に行くからな」


「うん……」


 職員室の前で俺は早癒と別れて教室に向かった。

 今日呼び出しの手紙もあったので、今日も放課後は大変そうだ……。

 そんな事を考えながら歩いていると、一人の女子生徒が俺の元にやってきた。


「あ、荒山君、だよね?」


「え……あぁ、はいそうですけど?」


 声を掛けてきた女子生徒は三年生の先輩だった。

 うちの学校では、制服を見ると学年がわかるようになっていた。

 女子の場合はリボンの色で、男子の場合はネクタイに付いている校章の色で見分ける事が出来る。

 先輩の女子生徒は顔を真っ赤にしながら、俺に手紙を渡してきた。


「こ、これ! お願いします!」


「あ……はい」


「じゃ、じゃあ……ま、待ってます!」


 そう言って先輩の女子生徒は俺の元を去って行った。


「……一件追加か……」


 俺はそんな事を考えながら、教室に向かって歩く。





 朝のホームルームで早癒が紹介された。

 ルックスの良さから、男子と女子の両方からかなりの好印象だった。

 そして、現在早癒は、俺の隣に座っている。

 理由は簡単で、俺の隣が空席だったからだ。


「ご……拓雄」


「言いかけたな、どうした?」


「私は拓雄の専属でここに来た。なのに、拓雄はメイドと言うことは隠せっていう」


「あぁ」


「……私は何をしたら良い?」


「普通に学校生活を満喫しろよ」


「そうはいかない、私は拓雄の……」


「頼むからそれ以上は言うな」


「むぅ……」


 不服そうな早癒。

 しかし、そんな事をされては俺と早癒の関係がバレてしまう。

 それはなんとしても避けたい。

 そんな事を俺が考えていると、早癒はクラスメイトに囲まれた。

 どうやら、早癒と話しをしている間に、ホームルームは終わったらしい。


「ねぇねぇ! 最上さんってどこに住んでるの!?」


「彼氏はいるんですか!?」


「小っちゃくて可愛い~」


 クラスメイトは早癒に対して歓迎しているようで良かった。

 とりあえず、クラスメイトと話しをして気の合う友人を見つけて欲しいものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る