31.Slice(薄切り)

 飲食店時代、メニューの中に「肉盛りプレート」というのがあった。


 鶏ハムやローストビーフ、サラミなどを盛り付け、オリーブやベビーリーフ、粒マスタードなどを板皿の上にあしらって提供する一品である。

 肉をふんだんに使うことで見栄えがするため単価も上げられ、盛り合わせにすることで鶏や豚を使えて原価を抑えられるので店としてはありがたいものだった。

 

 だが、サラミを薄く切るのは結構難しい。

 そもそもがまっすぐに切りおろすことが難しいのだ。もし可能ならパンを一斤買ってきて自分でスライスしてみて欲しい。貴方が右利きなら断面はどんどん左へ傾いていくと思うから。


 薄く切るために必要なものはもちろん技術なのだが、その前提条件として必要なのが「よく切れる包丁」である。

 店では筋引(包丁)を使わせてもらっていた。

 薄く丈夫なステンレス製で、よく研いである。

 これを使えば腕のない僕でもある程度の薄さにスライスすることができた。


 準備は大事だ。

 道具をそろえ、環境を整えることは良い仕事をする上でやはり必要な物なのだろう。


 小説ならば、僕はこれは資料とプロットではないかと考えている。

 中にはプロットを立てずに書き始める人もいるようだが、短編ならともかく長編を書くのはなかなか難しいだろう。

 プロットは小説の設計図だ。

 設計図なしで高いビルを建てようとすると、きっと崩壊するだろう。


 資料も大切だ。

 基本的には書籍で情報を集めることになる。

 必要な分野について、最低でも2冊はそろえたい。1冊だと間違ったことが書かれていた場合にそれを否定できないからだ。

 僕は読むのは苦手でいつも斜め読みしか出来ないのだが、それでも資料無しに想像だけで書くのは難しい。

 神は細部に宿るという。

 ちょっとした専門用語や仕草でリアリティが全然違ってくる。


 僕はいま、次作の長編を書くためにプロット作成と資料集めをしている最中である。

 書く前の地道な作業が、良い作品にしてくれるのだと信じて、コツコツ積み上げている。作品のできにつながって欲しいと切に願いながら。

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