30.Jolt(衝撃)

 僕が衝撃を受けた小説を紹介したい。


○「パワーオフ」井上夢人


 「おきのどくさまウイルス」が小学生に怪我を負わせる。そんなショッキングな冒頭から物語は展開する。主役はコンピュータウイルス。ミューテーション型のこのウイルスはワクチンの攻撃を躱しながら、作中で描かれる様々な人物の思惑とは無関係に進化を続け、ありとあらゆるコンピュータへと浸食してゆくことになる。その果ての世界の姿とは?

 僕が生まれて初めて感動した長編小説である。続きが気になって眠れないという体験を僕に与えてくれた。もう25年近く昔の古い作品だが、一向に色あせることなく僕の中の長編小説の王座に君臨し続けている。めちゃくちゃ面白いのに登場人物の名前を一人か二人ぐらいしか覚えていない。魅力的なキャラを書かなくても小説は成立するということを、謎こそが物語を牽引するのだということを教えてくれた作品。

 

○「畦と拳銃」真藤順丈


 真藤順丈はすごい。物語に力を与えられる作家だと思う。農家とハードボイルド。相容れない二つががっちりと握手する連作短編は何層ものレイヤーと幻想的な想像力をぎゅっとぎゅっと濃縮して小説として上梓された奇跡の一冊だ。きっと何を言っているか分からないと思うがもう言葉にならないぐらいすごいのだ。長らく続いてきた小説というジャンルの可能性をここにきて新たに拡張することに本作は成功していると思う。


○「1000の小説とバグベアード」佐藤友哉


 正直、佐藤友哉の評価は高くない。だがこの一冊には小説への尊敬と畏怖と羨望が詰まっていて、自分が小説を好きだと言うことを再確認させてくれる。あらすじを紹介したいがうまく説明できない。物語はずっと転がり続けとりつく島がないほどに窯変し続ける。ただラストに吹く爽やかな風が、小説の心地よさをちゃんと与えてくれる。


○「箱男」安部公房


 何度読んでも理解できないのに大好きだという不思議な作品。見る/見られるの構造についての考察は非常に興味深く、人間とは何かを掘り下げ垣間見させてくれる。そして書くという行為について。僕はこれを読んでああきっと僕は死ぬ直前まで何かを書いているのだろうなと思った。どんなに書き続けてもきっと余白はあまり続けるのだ。


 好きすぎてあまり上手く紹介できなかった。

 まあでも上記の作は四作は傑出している。素晴らしい。お勧めだ。

 もし未読なら是非。

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