25.Prickly(棘の多い)
昔に比べて丸くなったと思う。
昔の自分はもっと頑固だったし、自分のことしか考えてなかったし、面倒臭い人間だったと思う。棘が多かったと思う。
二十一歳で出来ちゃった結婚をした。
二十二歳で離婚をした。
同時期に椎間板ヘルニアで健康を損なった。
岸和田に移動になって、住み慣れた神戸を離れた。
あの時期が一番棘が多かったように思う。
自分以外の人が皆幸せで、自分が世界で一番不幸な人間だと思って日々過ごしていた。薄暗い海の底に押し込められたような気分だった。
そこから連れ戻してくれた三人の人物がいる。
一人は今の彼女だ。
本当に迷惑を掛けたと思う。
あの頃の僕の、本当にくだらない棘の最大の被害者だったと思う。
当時のことを詳しく話すのはまだ気恥ずかしいので割愛させてもらうが、彼女はそんな僕に大丈夫だと言ってくれた。齊籐君を応援する会の最初の会員になると言ってくれた。そのことに僕はとても救われた。
十五年以上経った今でも一緒にいてくれることに本当に感謝しかない。こないだはガス付けっぱなしにしてごめん。
もう一人は友人Aだ
結婚して離婚して、僕は地元のサークルのメンバーとの繋がりを断っていた。連絡もしなかったし、したいとも思わなかった。別れた嫁がサークルのメンバーだったこともあり、僕の肩には勝手な罪悪感が重くのしかかっていた。
そのサークルの一人であり同級生でもある友人Aが、僕が神戸に帰ってきたことを知って、久しぶりに連絡をくれた。
約三年ぶりのことだった。
会おうということになり、三宮駅で待ち合わせをしてたものの、僕はとても緊張していた。
どんな顔で彼と会えばいいのかよくわからなかった。会うことが恐怖でさえあった。
そんな僕に対し、彼の第一声はこうだった。
「よお」
そのあと彼と沢山話をした。野球のこと、仕事のこと、ゲームのこと、当時のサークルの面白かったこと。
彼は決して僕を責めなかった。
普通だった。
いつもどおりの普通の会話をした。
彼が普通に接してくれることが、僕にはとても嬉しかった。
今でもたまにあって野球の話をする。
今年は引退する選手もレジェンドばかりだし、ドラフトも豊作だし、日本シリーズも初戦から両者一歩も譲らぬ熱戦だった。そろそろ連絡を取ってサイゼリアでしゃべらなければならない。
三人目は岸和田で勤めていたファミレスチェーン店のアルバイトの高校生の女の子だ。
彼女は補聴器を付けていた。
聴覚に障害があったのだろうが、経緯も理由も正面から聞いたことはない。三ヶ月に一度ぐらい状態が悪くなってバイトを休む日があったので、ちょっと聞こえにくいというだけではなかったのだろうと思う。
でも、彼女は明るかった。
声もやたら大きかったし、ちょっと毒舌なところもあった。
「齊籐さんは悪い人じゃないけど、なんか惜しいって感じ」
彼女にそうディスられたのを今でも根に持っている。←
当時、彼女には彼氏がいた。遊び人だったのか、どうやら他の女の子と遊びに行くことが多かったようなのだ。
その度に、彼女は電話越しにちゃんと怒るのだ。
ひどい、許さない、私のこと好きなんやろ。
僕はそれを聞いてすごいと思った。
僕が仮に彼女のような障害があって、彼氏に浮気されたとしたら、自分を責めると思うのだ。自分に障害があるから彼は他の女に行くのだろうと。
彼女はそうじゃなかった。自分と向き合い、現実と向き合うことが出来ていた。
その頃の僕は、ヘルニアで足がちょっと上がらなくなっただけで世を拗ね人を拗ねていた。
それを違うと気付かせてくれたのが彼女だった。
彼女の立ち振る舞いや言動は、僕がいかに小さな人間かを教えてくれた。
ファミレスを辞めてから会っていないので、もう十五年以上前の話だ。
連絡先も知らないし、きっと二度と会うこともないだろうが、今でもデカい声で毒舌を吐いたり旦那に怒ったりしているに違いない。
長々と昔話をしてしまった。
今回はこの辺で。
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