21.Drain(排水する)
また飲食店時代の話をする。
勤めていたのは一〇〇席程度の郊外型ファミレスチェーン店で、キッチンの奥に大きな冷蔵庫があった。
倉庫のようになっていて、冷蔵庫の中に歩いて入るウォークイン冷蔵庫と呼ばれるタイプの物だ。
ある時、この冷蔵庫の温度が下がらなくなった。
夏の暑い日で、大量の食材が駄目になってしまう前に修理しなければと慌てて業者に連絡し、すぐに店舗まで来て貰った。
業者の人はエラーコードを確認し、工具を取り出すでもなく、庫内に垂れていたビニールのチューブを持ち上げた。
そこに軽く口を付け、吹いた。
それを何度か繰り返すと、パイプから大量の水が流れ出てきた。
「これで大丈夫です」
思わず僕は「え?」と、間の抜けた声を出した。
「排水が詰まっていて冷却出来なくなっていただけですね。排水さえ出来れば問題なく冷えると思います」
しばらくすると、モーター音がして庫内を冷気が満たし始めた。
元に戻ったのだ。
それ以来、何かが壊れたり動かなくなったりして業者を呼んだとき、僕はその修理工程を見学するようにしている。
一つ一つの作業は簡単で、誰にでも出来る物だと知ったからだ。
先ほどの排水つまりはよくあるエラーで、僕は何度か同じ手法で業者を呼ばずに冷蔵庫を直したことがある。
冷蔵庫で言えば、ほかにもフィルター詰まりを割り箸と歯ブラシで解消したりもした。最近では施設のチェアー浴のモーター式の弁をマイナスドライバーで手動で動かして貯水タンクから強引に湯船に湯を引き込んだりもした。
おそらくあまり褒められた方法ではないと思う。
素人が手を出して状況を悪くしてしまったら余計にコストがかかる可能性もある。誰かに勧めるつもりは毛頭ない。
でも、そうやって業者の人のやることを眺め、再発時に実際にやってみてうまくいったときは、先生のいないワークショップみたいでとても楽しい。
自分の性格的に、きっと大きな怪我でもしない限り今後もこんなことを続けていくのだろうなあと思っている。
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