19.Scorched(焦がす)

 ここ半年ほどカレー作りに凝っている。

 カレー粉やカレールウを使わず、スパイスを組み合わせて作るスパイスカレーだ。南インドのレシピがお気に入りでよく試している。バスマティライスという長米種と合わせるサラリとしたカレーで、何層にもスパイスの香りを重ねて作る。


 カレーを作るときにタマネギを炒める。

 焦がしてはいけない。飴色になるまでじっくりと火を通してゆく。

 そうしてやることで甘さと香りを引き出し、それがカレーにコクと旨味を与えてくれる。

 ただ、時間がかかるのだ。

 中火~弱火でじっくりと火を通しながら時々加水し、時間を掛けてやらないと飴色タマネギは出来上がらない。


 このタマネギの飴色は「メイラード反応」によるものである。

 メイラード反応とは『魚や肉、パンなど食材の中に含まれるアミノ酸と糖が加熱によって結びつき、起こる反応』のことを指す。

 こんがり焼けた肉、香ばしく焼けたパンなどはメイラード反応の代表格で、この香りと味わいには抗い難いものがある。

 他にも油は香りが移りやすいとか、レモンを掛けると色が変わるとか、料理と科学は実は密接な関係にあったりする。


 じゃあ理系の人は料理が上手いのかといえば、そういうわけではなかったりする。

 肉一〇〇グラムでもタマネギ一個でも、物によって状態が違う。気温も違う。水温も違う。そういった一切合切を即興で調整しながら美味しい料理に仕上げていく。条件をきちんとそろえて行う理科実験の類いとはまた違った資質を要求される。

 目に見えない味だとか香りだとかを即興で仕上げていくところは、どうやら理系よりも音楽に近いようなのだ。

 実際、神戸大阪でいくつかカレー屋さんを回ってみたのだが、元DJとか元バンドマンとかはめちゃくちゃ多かった。音楽とカレーは関係が深いことは間違いない。


 そんなわけで、僕もギターでも始めればもっと美味しくカレーを作れるのではないかと思うのだが、この結論は誰に話しても返ってくる答えはきっと「はあ?」なのだろう。

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