13.Guarded(用心深い)

 人生で用心深かったことが一度もない。

 基本的に用心浅い。めちゃくちゃ浅い。

 だいたいのことを直感とノリとフィーリングで決めてしまう。

 口癖はじゃあそれで。

 困ったときに困ればいと思っている。


 この軽率さは就職活動にそのまま表れている。


 最初はファミレスチェーン店の社員になった。

 大学の先輩のいる会社だったし、バイトで喫茶店やステーキ屋なんかにいたのでその延長線上でなんとかなるんじゃないかなあという、ただそれだけの理由で入社した。勤めて一年足らずで椎間板ヘルニアを発症し、なんだかんだで二年半ほどで退職した。

 晴れて無職になり神戸に戻り、雇用保険を貰いながら遊んでいたのだが、ハローワークで職能訓練を受けると雇用保険を延長できることを知り、介護の勉強を始める。授業中はだいたい寝ていたのだがとりあえず資格は貰え、僕はその介護講習を運営していたNPO法人に声をかけられ、さしたる志も無く介護の世界に入った。介護の中でも訪問介護という、なかなか特殊であまり金回りの良くない環境ではあったが、どういうわけか水があったようで一〇年近く訪問介護員を続けることになる。いつの間にかサービス提供責任者になり、所長になり、法人理事になっていた。

 当初は安い給料を補うため、ホストクラブでバイトをしていた。源氏名は紅に輝くとかいて紅輝こうき。まったく人気が出ないまま、店が大阪に移転するのを切っ掛けに半年で辞めてしまった。

 まあそんな訪問介護員生活も、理事長の交代やら何やらで色々面倒臭くなって辞めてしまった。

 再び無職。そして再び職能訓練。選んだのは溶接。ちょうど『竜斬の理』を執筆する直前で、金属について知りたかったので、渡りに船だと思い応募した。人生で初めて作業着に袖を通し、毎日毎日金属を溶かしてくっつけて火傷をして過ごした。

 溶接は楽しかったしアーク溶接とティグ溶接の資格も取ったが、溶接工は完全に技術職で、これで飯を食うのは難しいと思った僕は、もう一回だけ飲食をやってみようと神戸の大きな会社の門を叩く。金属が堅かったのでパンを捏ねてみたいと面接で言うと、素人にパンは無理だと言われ、三宮で一二を争うほど忙しいおしゃれなビストロの厨房に放り込まれることになる。

 ファミレスのつもりで入ったその世界は完全に料理人の社会で、何の技術もない僕は地べたを這い回るように雑用をこなして過ごした。最初の料理長にはかわいがって貰えたのだが、一年ほどで移動になり、次の料理長には完全に嫌われてしまって辞めるより他に道はなかった。

 三度目の無職はすぐに終わった。介護で勉強していた頃の仲間がうちに来ないかと誘ってくれたからだ。高齢者施設勤務で、訪問介護しかやったことのない身としては不安もあったが、まあ今のところ何とかなっている。それどころか来月からフロアリーダーを任されることになってしまった。


 ファミレス店員、介護士、ホスト、溶接工、料理人、そして小説家志望。

「お前の履歴書、面白すぎるやろ」と友人に言われたことがある。

 まあ結果的に面白くなっただけで、面白くしようとしたつもりは一切ない。

 ただただ直感とノリとフィーリングで生きてきた結果である。

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