第14話『眠りを妨げる者は何者か』二

 各々が眠っていた者を叩き起こし、ギルド職員が皆の誘導を開始した。

 ギルド長であるアドルフとリュポフが盗賊風の男に対し、声を大にして問いただしている。


「数は!」


「種族もだ!!」


「先頭にゴブリンの集団が三百! それ続いてオークが二百! その後ろにも何か居るみてぇだが分からねぇ!! これ以上の情報は、俺が帰ってこれねぇ可能性があった……」


 アドルフはその強面顔を更に引き締め、一度目を擦り……眠気を覚ますように自分の顔を殴った。そして各々に指示を飛ばす。


「非戦闘員はギルド職員の指示に従って移動を開始! ゴブリンは此処で迎え撃つ、陣形はさっきと同じだ!! オークとその後続は森の中で! 戦闘経験の浅い村人は集団の護衛!! 冒険者、戦闘に自信のある村の衛兵は森の中で各々オークを叩いてくれ! ある程度数が減ったと思えば撤退の合図を出す! ……これだ! 聞き逃すなよ!!」


 そう言ってアドルフは懐から丸い玉を取り出し、一つを空高くに投げた。


 バーン! と言う音と共に、それが森境の平地を明るく照らす。照明弾のようなものだろう。


「持続時間は三十分! それまでにゴブリンを片付けるぞ!」


 村人中心で構成された三連の隊列が出来上がり、冒険者は各々の配置に付く。ニコラと俺は他の腕自慢冒険者と肩を並べ、隊列の前に陣取った。


「おっ、坊主……とやばい譲ちゃん。今度はお隣さんだな。……何、ゴブリン程度程度なら俺様一人で余裕だぜ。そこにあんたらだ、千や二千居たって敵じゃない」


「頼もしいよ。俺はそんなに強くないからな、余裕があれば守ってくれ」


 おどけたようにそう言った俺の言葉に、大斧を持った腕自慢は一度きょとんとした顔を見せたが……盛大に笑い出した。ゴブリンの集団はもう目と鼻の先。


「ガハハハハハッ! さっきドレイクンの魂力を吸ってたよな? てめぇが村人だったとしても相当力が上がってるぜ! いざとなったら隣の譲ちゃんに守って貰えや! 俺様は――――報酬貰わなきゃ仕事はしねぇ――ッ!!」


 腕自慢の薙ぎ払いによって数匹のゴブリンが千切れ飛ぶ。それを皮切りに他の冒険者も動き出した。ニコラが突出し、一薙ぎでそれ以上のゴブリンを刈り取っている。


 先程と同じ様に両翼に陣取っていた冒険者が挟み込み攻撃を開始。その直後、リュポフの指示がそこかしこに飛んだ。


「隊列は無理をするな! 流れてきたゴブリンだけを倒せば良い! 敵の戦力は専門家に任せておけば十分対処出来る数だ! 我々は集団にゴブリンを行かせなないよう、それだけに注意していればいい!!」


 ニコラの追随を許さぬ程の活躍によって物の十分程度でゴブリンは敗走、一部が逃げて行った。それを見たギルド長は、即座に隊列を形成していた者らの誘導を開始。


「森の中に急げ、オークが来るぞ!! 奴らは体が重く、体積がでかい! 基本的に夜の闇は我々にとって不利に働くが、それ以上にオーク戦による森の恩恵はでかい!! 冒険者は各々で遊撃! 隊列を形成していた者は俺とリュポフ……様の、二手に分かれてゲリラ戦だ!」


 そうこうしている間に戻ってきていたニコラは息一つ上がっておらず、かなり余裕があるように見えた。右を見るとそこには成り行きで共に戦っていた腕自慢のパーティー、戦士風の男、剣士風の男、術師風の男、術詩風の女が居る。


 それに対し、ニコラが走りながらペコリと頭を下げた。腕自慢の戦士はニィ……と笑い、口を開く。


「そんな可愛い顔と体して、とんでもねぇ力してんな。これだから、冒険者の女にゃ怖くて手を出せねェ。俺ァ娼婦で十分だぜ」


 そんな事を言った腕自慢の戦士に対し、術詩風の女が怒気を感じさせる笑みを浮かべた。


「へぇ? 私が居るのに娼婦? ふぅん……知ってる? 私の治癒魔法って爪くらいなら生やせるのよ?」


「……な?」


「何が『……な?』だ何が!! 相手を一人に絞れこの脳筋!」


 そんな俺の返しに、青い顔をした戦士風の男は「ああ、味方がいねぇ」とぼやき、他の二人が笑い声を上げた。


「あー、坊主はまだ若そうだかんな。それに……」


 腕自慢の戦士はチラリとニコラの方を見た後……何を想像したのかブルリと体を震わせ、それを誤魔化すかのように口を開く。


「さて、こんだけ逃げりゃ十分だろ。あんまり逃げ過ぎると、他の弱えェ奴が死んじまうからな」


「口は悪いけどこの人、根は良い人なんですよ?」


「ああ、分かりやすいから大丈夫だ」


 森の木々に身を隠しながら移動を開始し、敵の位置を探る一行。離れた位置からは既に金属のぶつかり合う音が聞こえてきていた。


 その直後に俺の一行もオークの集団を見つけ、その数を数えてみればその数は二十体。腕自慢風の男が、手信号で自分のパーティーに指示を飛ばしている。


「チッ、本体ノ指示、従ッテタラ、ムラビトニ、逃ゲラレル」


 先頭のオークは最も装備の良く、最も筋骨隆々としていた。オークがそう言葉を発した直後、腕自慢の戦士は仲間に〝待て〟の指示を出している。


 腕自慢の冒険者は俺の方にも口パクと身振り手振りで〝待て〟と伝えてきた為、俺はそれに頷いた。チラリとニコラを見れば、ニコラもそれに頷く。


「オデタチダケデ、ジュウブン。ゴブリン、ヨワイ」


「ホンタイ、オソイ、オクビョウ」


「コッチ、オンナガニゲタ、オデタチノ」


「クウ」


「後ダ、マズハ、苗床。オーク賊ノ誇リヲ忘レルナ」


 もう十分だ、と言わんばかりに腕自慢の戦士が仲間に手信号を送ったかと思えば……二人の術師が小声でブツブツと呟き――「【ファイアーボーール!!】」「【マジックロー!!】」


 術詩風の男が火の玉を放ち、それが先頭のオークを焼き、追撃として光の矢が先頭のオークに突き刺さる。同時に腕自慢、剣士が駆け出し……それに合わせて、俺とニコラも駆け出す。


 真っ先に先頭のオークへと向かっていった腕自慢と剣士がそのオークに接敵し――剣士が足を切った。驚愕の表情と共にガクリ、と崩れたオークに腕自慢が大斧を振り下ろし、止めを刺さんとしたが――。


「舐メルナァ!!」


 ガキィン! と剣と剣のぶつかり合う音が響き受け止められた。そこに俺が追撃だ、と言わんばかりに切りかかる。


 ――が、オークは腕自慢を弾き飛ばし、俺の剣も受け止めた。


 その背後から風を切る様に現れたニコラ。クレイモアで筋骨隆々のオークに、ガードの難しい突きてはなく――薙ぎ払いを放つ。


 筋骨隆々のオークは近くで何が起こったのか分からない……という顔をしていたオークを掴み盾とし、自身とニコラの間に動かした……が――盾にしたオーク共々切り裂かれた。


 それが信じられなかったのか、きょとんとした顔で崩れ落ちていくオーク。その隙に俺と腕自慢はそれぞれ混乱の真っ只中にあるオーク達の首を刎ね、ニコラは何時の間に移動していたのか……オークの最後方に居たオークを、纏めて三体も屠っている。


「リィーダァー! シジ!!」


「シンダ! コッチタス――」


「ムリダ! タス――」


 容赦無く一方的にオークを狩っていく一行に、オークにしても抵抗として棍、剣などを振るう。それには……ある程度以下の冒険者であれば、一撃で行動不能となる程の威力があった。


 しかし、それが仲間のオークを傷付ける事はあっても俺と腕自慢の一行に傷を付ける事は出来ない。その数を確実に減らし――全滅した。


 ……ふぅ、と一息吐いた腕自慢の戦士が口を開く。


「こりゃあれだ。欲望に狩られた連中の独断先行だな。先遣隊は最初のオーガだけだぜ、多分」


「魔王〝軍〟じゃないのか?」


「何、人間の軍だってこういう奴らは出る。ましてや悪の魔王軍だ、もしかしたら統率が完全に取れてる訳じゃねぇのかもな」


 そういうものなのか……と相槌を打ちながらオークの集団を見つけては倒し、見つけては倒しを繰り返していった。

 そうして暫くの間ひたすらにオークの数を減らしていると――バーン! という音と共に、木々の生い茂る森の中が僅かに明るくなった様な気がした。


「合図だな、時間外労働は極力避けたい。逃げるぞ」


「時間外労働? ニュアンス的に意味は分かるが、よく分からねぇ言葉だな。……でもまっ、撤退には賛成だぜ」


 そう言って、光が上がった場所を目指して進む。上空に光が上がった場所に立っていたのは、ギルド長のアドルフだった。


 その指示に従い森を突き進む。暫くその通りに進めば街道に突き当たり、その街道沿いに進めば集団に追いつく事が出来た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る