坑道の蒸気機関
第二坑が近づけば近づくほどに、ぎしぎしと木のきしむ音やシューという蛇がうなる様な不快な音が大きくなってきた。馬車が止まるやいなや、オーランドは馬車から飛び降りた。
「蒸気ポンプはどこだ?」
「この小屋の中でございます」
それは、奇妙な塔のようだった。
釜の上に大きな
「これはどうなっているんだ?」
オーランドの疑問に、坑夫の長が答えた。
「へい。蒸気でてこを上下させる
「このパイプはどこに続いているんだ?」
「貯水池につながっております。いかんせん地下水脈を掘り当てて川のように水が出た時期もございますので、雪が解けたら滝を作る予定でございます」
『これ、ニューコメン機関そっくりというか、そのものよ。やっぱり、技術水準が一緒だと発想も一緒なのかな? それとも……』
カーラが不思議そうに言った。騒音の中、オーランドはカーラにだけ聞こえる声で言った。
「これは、
『ええ。粉ひきの水車があるでしょ。この機械を麦をつく
「わかった」
オーランドは息を吸い込み、騒音に負けないどら声で告げた。
「この装置を製糸用にもう一つ作りたい。仕組みが分かっているものをしばらくの間、領主直属の職人として召し抱えたい、いいか、オリヴィエ?」
「まずはアフェク内での手続きが終わってからにしてください。その後、仕組みが分かっている者たちを同時に炭坑やオーランド様の工場に派遣します」
「分かった。派遣場所に関わらず、給金は俺から出す。建設費もだ」
「助かる」
オリヴィエは大声を張り上げた。
「皆の者、よく聞け。蒸気ポンプを開発した者たちには、アフェク伯より一律で一年分の麦を褒美として与える! さらに、この絡繰りに精通している者は、新たな絡繰りを作るための職人として、次期領主直々の職人として召し抱えられる!」
歓声がそこかしこから上がった。しかし、我関せずという風情の炭坑夫が多かった。ざわめきが落ち着いたとき、オリヴィエは言葉を重ねた。
「また、汝らを
「アフェクの聖母、ブリュンヒルド様、万歳!」
先ほどとは比べ物にならない、小屋が割れんばかりの歓呼だった。万歳三唱からよく分からない雄叫びまで、雑多な騒音がオーランドを襲った。
『女性なのに、政治家として人気があるの?』
「ああ。ブリュンヒルドさんみたいな王族の血を引いている人は別格だ。男の最底辺とされている炭坑夫を、主人が屋敷に呼ぶのは色々と
『差別がひどいのね。この国』
カーラはそれきり黙った。
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