こころのもちよう

 自販機の飲み物が出る所の蓋に蛙がへばりついている。

 雨が上がって間もなくで、まだ湿気が濃く漂ってアスファルトから立ち上る匂いに思わずむせそうになった。

 

 僕はお金を入れてペプシゼロを買った。


 蓋を開けると、蛙はわずかに身じろぎした後にじわじわと移動する。

 それでも足早に飛び跳ねて逃げようとはしない。

 前から思っていたけれど、蛙というのは図太いものだ。

 大きい生き物が目の前に居てもたじろぐことなく泰然としている。

 もっともこちらのことを見ているのか、見ていないのかよくわからないのだが。


 ペプシの蓋を開けると、炭酸の音が飛び出した。

 

 喉に流し込み、炭酸のしゅわしゅわとした感触を食道と胃で愉しむ。

 気だるい時にはコーラが一番体がしゃっきりする気がする。

 本当ならもっとカフェインが含まれているエナジードリンクとかの方が良いのかもしれないけど。

 どちらにせよ体には良くない。

 


 

 心が右往左往して落ち着かない。

 大人になればきっと落ち着いて何事にも冷静でいられると無条件に思っていたけど、全然そんな事はなくて僕はずっと未だに中学生の心のままから成長していない。

 感情に左右され、どうでもいいことに心乱され、一体いつになったらちゃんとした大人になれるのだろうと思ったところで、そもそも子供の頃からちゃんとしてはいなかったなと振り返り、この物思いも徒労に過ぎなかったんだと分かった瞬間に僕はちょっとだけ笑ってしまった。


 何事も泰然とした蛙のような心持ちでいたい。


 何も考えていないようで深遠な瞳で遠くを見つめている蛙のように。


 雨蛙が道路の上を跳ねている。


 アスファルトから上って来る匂いがもっときつくなってきた。

 

 もう一雨来そうだと空気が告げている。

 水を張った田んぼの中から歌声が聞こえてきた。

 雨の到来を歓迎する歌。

 すくすくと育った稲の苗の隙間から、ちいさな雨蛙たちが飛び出していた。


 

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