第4話 意外な救世主!時代を先取るニュースター誕生!

『夕方の借金取り』というお店に入ると中は意外と広く、木造で出来た長テーブルがいくつか置いてあった。4名ずつ向かい合わせに座れるようになっているそのテーブルは、良く数えると8つも並べられていた。

 満席になると64名も座れるって事は、本当に繁盛するお店なんだろう……

 時間的にはまだ15時くらいなので、お客さんはほとんどいない。

 ただただ私達が浮いているだけだった……


「4名様ですか?」

「そう! みどりとまさや君とゆうき君とより子先生で4人! でも、お金がないからより子先生がいっぱい食べるんだって! 意味分かんない! はははっ!!」

「み……みどりちゃん! ちょっとこっちにいらっしゃい!」


 まだ心の準備が出来ていないのに、勝手に話を進めているみどりちゃんにちょっとだけイラっとした。


「こちらの方が大食いにチャレンジするんですか?」

「そ……そうです。私がやるんですけど、一応説明してもらっても良いですか?」


 別にまさや君を信用していない訳ではないが、確認だけはしておこうと思った。

 私達に注文を聞きに来た色気のあるお姉さんは、不思議そうな顔をしながらも丁寧に教えてくれた。


「タンドリーチキンというのはインド料理の1つで、ヨーグルト、塩、胡椒、ウコンなどの香辛料に半日ほど漬けた後、香ばしく焼き上げて作ります。食紅などで着色して仕上げる事が多く、基本的には骨付きの物の事を言います。同様の物で骨無しの物はチキンティッカと言われ……」

「ちょ……ちょっと待って!? タンドリーチキンの説明じゃなくて、大食いチャレンジの説明をしてもらいたいんですけど!」

「より子先生。このETQというゲームは天才児育成ゲームなんで、要所要所でこういった勉強になる事が散りばめられています。『学びながらクリアする!』これがこのゲームのコンセプトなので、先生も賢くなりながら冒険を楽しみましょう!」

「そ……そうなのね……わかりました……」


 もしかして、まさや君が賢い理由ってこのゲームのせいなのかしら?

 元々の素養も半端ないけど、やっぱりこういうものを作れる親を持っているっていうのは、私の想像を遥かに超えた生活を送っている気がする……


「では改めてご説明致します。このチャレンジは、激辛の骨付きタンドリーチキン3つを5秒以内に食べると、賞金1万Gが貰えるというチャレンジです」

「激辛!? それは聞いてないけど!?」

「そしてチャレンジに失敗した時には、1万Gを支払ってもらう事になります」

「逆に1万G!? は……払えなかった時はどうなるの!?」

「ここで働いて返してもらうしかないですね。ちなみに時給は900Gです」


 900Gか……頑張って1日、余裕みて2日あれば返せるのか……

 んっ!? ちょっと待ってよ!?


「まさや君。ちょっと良いかしら?」


 私は疑問を持ち、まさや君を呼び止めた。


「まさや君。もしかして、初めからここで働く事も出来たりするのかしら?」

「より子先生、これはゲームの世界ですよ? その質問は大人としてしてはいけない質問です」


 それって出来るって事にかしら……


「じゃ、お姉さん! より子先生にタンドリーチキンをお願いします!」

「ちょっとまさや君! 私まだ、心の準備が!」


 私の声を無視したウェイトレスのお姉さんは、厨房の方へと向かって行った。

 骨なし、激辛なしだったら何とか無理矢理行けそうな気がしていたけど、さすがにこれは根性だけではどうにもならない……

 まさや君の横暴ぶりに負けてはいけないと思いながらも、私の頭の中は何か良い策が無いかとフル回転していた。


「お待たせしました!」

「何故こういう時だけ準備が早い!!」


 私を見るまさや君の目は、どう見ても悪巧みをしているような目だった。

 そして目の前しているタンドリーチキンは思っている以上に大きく、どう見ても食べられる気がしない……


「一応、分かった上で聞くけど、もうキャンセルは出来ないわよね?」

「出来ません」


 何という冷たい視線だ……

 お前の瞳はハーゲンダッツか! と言わんばかりのウェイトレスの視線は、一気に私のやる気を削いだ。

 ダラダラしていてもしょうがない……

 そう思いながらも、やっと腹を決めて大食いチャレンジに向かおうとした瞬間、ゆうき君が声を上げた。


「より子先生。ボク食べたい」

「ゆ……ゆうき君。これは大食い……というか早食いのチャレンジなの。ただ普通に食べるだけじゃないのよ」

「ボク食べたい!」

「だからゆうき君、これは凄く辛いし、子供が食べられるような物じゃないのよ」

「ボク食べるー!!」

「みどり、いらない。辛いの嫌いだもん」

「すみませんが、そろそろ始めさせていただきますね」

「は……はい」


 何とかゆうき君を落ち着かせて再度気合いを入れ直し、私は目の前に置かれたタンドリーチキンに集中した。


「では始めます! よーい、スタート!!」


 その瞬間ゆうき君は私を両手で突き飛ばして、私が座っていた椅子に飛び乗り、5秒でタンドリーチキン3つを平らげた!!


「えっ!? ち……ちょっと何!? 何が起こったの!?」


 尻もちをつきながらキョロキョロしていた私を、まさや君とみどりちゃんが支えてくれた。


「ゆ……ゆうき君!? もしかして全部食べたの!?」

「うん」

「どういう口~!!? っていうか、どういう仕組みなの!!? 普通の幼児は5秒でタンドリーチキン3つは口に入らないわよ!!? 辛さ大丈夫だったの!!?」

「うん。おいしかった」


 正直、一瞬の事で何が起こったのかさっぱり分からなかった。ただ目の前に置かれている3本の骨だけは、全部食べたという事実としてしっかり残っていた。

 ウェイトレスさんもギャラリーも、周りに居た皆が驚いた表情だったが、私自信も「スーパースローで見てみたいわ!!」とつっこみたくなるくらい、衝撃的なスピードだった。


「ゆうき君すごい!! みどり尊敬しちゃう!! まさや君の次に尊敬しちゃう!! 」


 みどりちゃんの発言に微妙な表情をしたゆうき君だったが、お腹を満たされた事に対してはどこか満足そうだった。

 まさや君はウェイトレスさんのスカートを軽く引っ張り、目線だけで賞金をよこせと言っている。

 小走りで厨房の方に向かって行ったウェイトレスさんは、封筒を片手に持ち、慌てながら戻って来た。


「賞金の1万Gです」


 まさや君は、当たり前のように賞金を受け取ろうとしていたが、子供にお金を持たせるのは危険だと思い、私が横から無理矢理奪った。

 かなり不満そうな顔をしていたまさや君だったが、そこは大人として毅然に振る舞った。


 これ以上、ここに居ると何をされるか分からないのでとりあえず私達はお店を出た。

 この1万Gの使い道を考えて、今後の準備をしっかりしなくはいけない。

 運良く時計だけは身に付けていた私は、16時を過ぎた事を確認すると、まずは今日の宿を探さなくてはいけないと思った。

 勿論、子供達の服やパンツも買わなくてはいけないが、泊まる所を確保しないと安心して身動きがとれない。

 私はまさや君から情報を聞き出して、安い宿や衣服が整えられる場所を探しながら街を歩く事にした。


「ねぇまさや君。一番安い宿は何処だか分かる?」

「より子先生。実は思い出した事があります。確か最初の街であるこのマタタビオーデコロンでは、タダで泊まれるエピソードが存在していました」

「タダで泊まれるエピソード!?」

「確かこの辺に……」


 みどりちゃんとゆうき君の手を繋ぎながら歩いていた私は、見晴らしの良い十字路を右に曲がると、突然道の奥の方から馬サイズの猫が走って来た!!


「誰か! 誰かその子猫を捕まえてください!!」

「子猫なの!? このサイズで!?」


 私達の方に向かって来る馬並みの子猫の後ろから、高校生くらいの年頃の女の子が追い掛けて走って来た!

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ハイスペック園児 まさや君~人気作なんでムリヤリ異世界転生してみました編~ あきらさん @akiraojichan

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