第3話 より子親方の出稽古

 ギルドを出た私達は、道の真ん中にある噴水の前に来た。

 小さい噴水の周りには座る所がたくさんあり、街の人達もあちらこちらで会話を楽しんでいた。

 現実世界では夏も終わりかけ、こっちの世界でも秋に入ろうかというような同じ季節感を感じさせてくれる。

 みどりちゃんとゆうき君は、噴水の下に溜まっている水の中に入り、水遊びを始めた。

 私とまさや君はベンチに座り、みどりちゃん達を見ながらギルドでの話を続ける事にした。


「まさや君。さっき話していた3つの分かった事っていうのを聞かせてもらって良いかしら?」


 まさや君はギルドを出た辺りから、恥ずかしそうに股間を手で隠している。


「より子先生。ボクが知り得た情報ですと、まず1つ目はボクが以前にクリアしたゲームとは若干違うという事です」

「というと?」

「このゲームは、パパがボクの為に試験的に作ったゲームなんですが、その時は全て日本語が通じなかったんです」

「そ……そうなの!?」

「ボクは当時、まだ日本語しか出来なかったから、パパの目を盗んで日本語を英語とかに変換する機能を使ってクリアしたんです」


 それはそれで凄い事だけど……


「この世界の通貨はGゴールドで、物価などは円と同じような感じで設定されています。外にいるモンスターを倒すと、そのモンスターが小型化されて持ち運び出来るようになるんですが、それを交換所に引き渡す事でお金に変えてもらう事が出来るんです」

「小型化出来るだけの?」

「確か、最初から持っている所持品で『カンガルーのお腹』という物があって、物は全てその中に入れて持ち運ぶ事が出来るようになっているはずです。装備品以外で1人20個の所持品が持ち運び可能です。どういう仕組みか分かりませんが、ドラえもんの四次元ポケットみたいな物だと思います」


 私は自分の身に付けている物やまさや君たちの所持品を確認してみたが、明らかに『カンガルーのお腹』は見当たらなかった。


「ありませんね。もしかしたら、道具屋さんとかに置いてあるかも知れません。後でホテルと一緒に探しに行きましょう」

「ホテルじゃなくて、ここでは宿で良いと思うわまさや君」

「ラブ宿ですか?」

「ラブはいらない! ラブは!」


 ここまでの会話を聞いていても、まさや君は既に園児の域を超えてる事が分かるが、この歳だと性教育に関してはどうして良いのか分からない所がある……

 まさや君はどこまで知っているのだろうか……


「それと2つ目ですが、いろいろな人と話した結果、言葉こそ違いますが、やっぱりボクがクリアした時のゲームと得られる情報は殆ど同じでした」

「っていう事は……」

「基本的には、ボクが知っている通りにミッションをクリアしていけば、自ずとエンディングまで行けるって事です」

「良かった!」

「ただ、さっきも言った通り、全く同じではない事も分かっているので、どこが違うのか見極める事がポイントになってくるでしょう」


 さ……さすがまさや君ね……洞察眼と分析力までハイスペックだわ……


「そして3つ目なんですが……」

「うん。3つ目は何なの?」

「これはまだ確信できていないので、はっきりした事が分かったら後でお話します」


 何かしら……?

 何か意味深な感じがしたけど、どういう意味だろう……?


「あ~面白かった! みどり、ビチャビチャになっちゃった!」

「ボクも」


 しまった! 少し目を離した隙に、みどりちゃんとゆうき君の服が水浸しになってしまった!


「より子先生。ここはやっぱり、早々にお金を稼がないといけないかも知れません」

「そ……そうね。宿に泊まるにしても、服を買うにしてもお金がないとどうにもならないものね。あまり気が乗らないけど、やっぱりモンスターと戦わなくっちゃいけないのかしら……」

「いや、より子先生。確かこの街では、別の方法でもいくつかお金を稼ぐ手段があります!」


 まさや君は目が一瞬キラッと光り、若干嫌な予感がした。


「この街では、至る所にミニゲームが用意されていて、その賞金を元手にして旅の装備を整えるように設定されているんです」

「ミニゲーム?」

「そうです。そんなに難易度は高くないので、より子先生でも大丈夫ですよ!」


 やっぱり私がやるのね……あまり自信ないけど……


「より子先生。こういうものは得意分野から攻めた方が利口です。まずは相撲大会に参加しますか?」

「得意じゃないけど!!」

「より子先生は今、休場中でしたっけ?」

「ごめんね、関取じゃないの!! まさや君にはそう見えるかも知れないけど、先生相撲経験ないから!!」

「頭のそれは、ちょんまげじゃないんですか?」

「オシャレ!! 頭のお団子は一応オシャレなの!! ごめんね、オシャレ下手で!! 見えるよね関取に! 何かごめんね!」


 私は幼児に泣きながらつっこんだ。


「ボクこそ失礼な事を言ってすみません。いつもふんどしみたいなパンツを履いていたから……」

「あれ、ティーバックだから!! っていうか、何でティーバック履いてるの知ってるの!? いつ見たの!?」

「先日のお茶会で」

「お茶会とかしてないから! ただのおやつの時間でしょ!? それにこういう公然の場でティーバックとか言わせないで! 先生恥ずかしいでしょ!」

「羞恥心がある内は成長出来るって事ですよ、より子先生」

「…………ありがとうございます」


 納得はしていなかったが、とりあえず私はエプロンを脱ぎ、水浸しになったみどりちゃんとゆうき君をエプロンで拭った後、先導するまさや君の後をついて行った……


 少し歩くと、まさや君は食べ物屋さんの前で立ち止まり、お店の看板を指差した。


「ここです!」

「ここなの? 食べ物屋さんに入っても、先生お金持ってないわよ?」

「このお店『夕方の借金取り』はタンドリーチキンが絶品で、夕方になるとそのタンドリーチキンを目的に一気にお客さんが入ってきます。でも今回の目的はそれではなく、このお店では大食いが達成出来ると賞金が出るので、それに挑戦するんです!」

「お……大食い!?」

「はい! 一応ミニゲームのミッションとしては、星1つという難易度最低ランクの簡単なミッションです。あそこの立て札にも書いてあるように、成功したら1万G手に入りますよ!」

「い……1万G……」


 確かに1万Gあったら、簡単な衣食住は確保出来るかも知れない……


「でも先生、大食いってそんなに得意じゃないんだけど……」

「大丈夫ですより子先生。食べる量はタンドリーチキン3つですから」


 タンドリーチキン3つ……だったら頑張れば何とかなるかも……


「ただ、制限時間が5秒なんです」

「それ無理!! それって、口の中にただぶち込むだけじゃない!!」

「大丈夫です。お肉軟らかいし」

「軟らかさの問題じゃない!!」

「大丈夫です。ちゃんと骨付きなんで」

「だから、もっと大丈夫じゃない!! それって、大食いじゃなくて、絶対早食いだし!!」

「より子先生ならやれますよ!」


 まさや君は何を根拠に言っているんだろう……

 私を関取キャラにしようとしているみたいだけど、こう見えて私、体重50kg台だし身長も170㎝ありますから! 比較的標準ですから!

 でもどっちにしろ、これが難易度最低ランクのミッションなんだったら、これがクリア出来なかったら何も出来ない可能性すらある……

 尻込みばかりしてる場合じゃないのかも知れない……

 何とかやり遂げられるように、策を考えるしかないのかしら……


「より子先生。とりあえず外で喋っててもしょうがないので、中に入りましょうか」


 あまり乗り気ではなかったが、まさや君にハメられたと感じながら、足取りを重くしながら私はお店の中へ入って行った……

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