成長はときに悲しみがつきまとう。

 主人公チェントが過去をふりかえる形で物語が進みます。冒頭はチェントの幼少時代から始まり、チェントという人物像、そして兄との関係性や環境がわかります。ここで物語を引き立てる重要な人物たちも登場しますがそれは後の話です。序盤の兄妹の様子は読者によって読み方が変わるかもしれません。
 そして序盤の流れが途切れぬまま、物語は一つの区切りを迎え、新たな環境のなかでチェントの変化・成長が描かれており、ここから風向きが変わり始めます。序盤で兄妹の関係性を見せておき、中盤からは様々な出会いを経てストーリーに厚みが加わります。
 ファンタジーにおいて、主人公の成長がこんなに悲しくなる物語は他に無いと思います。彼女の本性は私には断言できませんが、強くなるしかなかったのだと考えています。能動的に剣を振っていますが、何かが違えばこうはならなかったと思いました。彼女の心境の変化と人間関係にも注目してください。
 兄妹に焦点を当てた妹視点の話ですが、彼女の耳を通して兄や周囲の人物たちの気持ちを読むことが大事だと思います。また、小説として上手いと思った理由の一つに独白形式であることがあげられます。節目に自然と「その後」を匂わせることで読者は惹き付けられます。
 タイトルを読むと「復讐」という単語が出ていますが、実態は二文字でまとめることの出来ない感情で満たされています。実際に読み終わったとき、幸福感と悲壮感……他色とりどりの感情が胸を満たします。

その他のおすすめレビュー

白川迷子さんの他のおすすめレビュー118