17.会長の実力

 ふたたび体育館に入れば、やっぱりピアノの音が響いていた。おまけに、カシャカシャと、シャッター音が連続で続いてる。

 1人で弾いてるとは思えないほどに激しいメロディ。でも、一つ一つの音に狂いはなくて、聴いてるだけでも引きこまれるようなメロディ。本能のままに歌っているような、露骨にアピールしてるような……

 まるで、ピアノでダンスしてるみたい……!

  会長が、あんななのにプロになれた理由がわかった。きっと彼は元々才能を持っていることをわかってた。けど、それを持ちつつも、努力を欠かさなかったんだ。

 ……花城くんに、自慢したくなるくらい……

 やっぱり、会長は、花城くんに、見てもらいたかったんじゃ……?


 急に転調して、優しいメロディになった。好きな人への愛の言葉のような、語りかけるようなテンポ。

 いつものあの傲慢な態度がウソみたい……ピアノなら、なんでも伝えられるの!?


 ジャン、ジャン! と、締めるように強く鍵盤を叩き、少し間が置かれると、拍手の雨が降り出した。

 ……悔しい。そりゃ、あんなに大勢の記者が集まるよ。空気が、完全に会長のものだよ。

 最初のわたしなら、この曲を聴いて、ムリだって諦めてた……

 でも、3人を信じたい。3人なら、この空気を自分たちのものにできるって。

 この2ヶ月、3人がアイドルになっていく姿を見てきたんだ。だから、信じなきゃ……!


 幕が閉じられ、舞台装飾の準備をする。これもやっぱり、花城くんファンクラブがわたしたちに秘密で作ってたらしい。映画部の竹内さんは女優として出演しているだけでなく、裏方の知識も心得てるとか。意外とものすごい!

 竹内さんのような過激派もいるけど、基本的にファンクラブは花城くんと、その周りの人たちの応援をモットーとしているらしい。サッカー部の応援は、ちゃんと全員を応援してたって。

 わあ、初めて見たけどすっごいアイドルっぽい! こんなステキなステージで歌わせてくれるなんて!


「もう、なんで秘密にしたの!?」

 生徒会の十和子ちゃんなら事前に聞いてたはずだもん。

「うふふ、あなたたちからサプライズをいただくんだもの、自分たちもサプライズして返さなきゃ見合わないって、ファンクラブのみんなが言ってたの。内緒にしてごめんね」

 見合わないなんて……こんなに気合いの入った装飾を用意してくれたんだから、こっちはもっとがんばらなきゃいけないよ。

 装飾はファンクラブが総出で準備してるけど、わたしも手伝うことにした。3人も手伝おうとしたけど、衣装が汚れるから、とみんなに止められた。

「俺たちのために、ここまでしてくれたのか」

「アタシらは花城くんのためならなんでもやるよ! だって、ファンだから☆」

「……すまなかった、今まで、何も返せていなくて」

「なに言ってんの、花城くんがいつもがんばってることが、アタシらの励みなんだよ!

 だから、これからのパフォーマンスも含めて、いつもどおりでいてくれれば、それがアタシらの元気の源!」

 竹内さん……まるで、わたしみたい。好きなアイドルが元気なら、わたしも元気になれるもんね。

「でも、いつか……アタシと、デートしてほしいなあ?」

 ……同担拒否って、つまり好きなアイドルを独占したいって気持ちが強いんだよね……

 花城くんはやっぱり頭を悩ませたが、しばらくして、「考えておく」とつぶやいた。わーっ、ホントに!? そんなに軽々しく言っちゃダメだと思うけど!? いや、しばらく悩んでたし、考えての発言なの!?

「ねーっ、ピアノ片付けるアレない?」

「アレって……あの、ピアノの下に置いて、ハンドル回して楽に移動できるキャリー?」

「どこにも見つからないんだけど!」

「そんなことないわ、だっていつもあそこに置いてあるはず……本当にないわ」

「どうしよう、ピアノ片付けられないよお!」

「押せばいいんじゃないの?」

「そんなことしたら床にキズがついて怒られるわ!」

「て言ったって……!」

 え、何かあったの? ただ事じゃないみたいだけど……

 他のファンクラブの子が、ピアノを舞台袖に運ぼうとしたいのに、運ぶための大きなキャリーがなくて困ってるらしい。

 そんな、ステージのド真ん中にピアノなんて置かれたら……

 3人が、踊れるワケないじゃん!!


「超イチ大事じゃない!?」


 なんでこんなことになったの~!?

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