6.体力づくり!

 放課後、三人を集めた場所は校門前。三人はそろってジャージを着てもらった。

 アイドルに必要なものその①、基礎体力! 一曲を歌って踊るのに、並みの体力じゃ息が切れると思うので、毎日学校周りを走ってもらう。

「えーっオレ体力に自信あるよ!?」

「俺とお前はそうだろうが、星夜はどうなんだ」

「えっ……と、たぶん、ムリそう……」

「だと思ったから、練習前にランニングしよう! レッツゴー!」

 わたしは走り出す三人を横から自転車で追う。学校周りを一周して、やっぱり沙月くんはひぃひぃと息を切らして後ろに置いてかれ始めた。ふわふわの髪が、華奢な体が大きく揺れてる。

 わたしまで沙月くんを置いていくわけにはいかないので、彼の真横についていく。すると、車5台分前を走っている夢園くんが体を後ろに向けたまま走り、わたしにこう聞いた。

「これ何周するのー?」

 しまった、言うの忘れてた!

「あと1周ー!」

 ってことにしとこっ!

「オッケー!

 なあ光輝、どっちが早く着くか競争な!」

「……まあ、星夜には桜がいるか……

 先に行ってるぞ、二人とも」

 えっ、ちょっとまってよー! と叫ぶ前に、二人はさっさと走ってしまった。おのれ、運動部め!

 沙月くんは自分を置いていく二人をちらりと見つめたけど、何も言わずに息を切らしながらうつむいて走り続けた。

 ホントひどいな、二人とも……沙月くんがかわいそうに思えてきた。本当ならムリだもん、沙月くんが二人についていくこと……

「はぁ、はぁ、ごめんね、気、つかわせて……」

「なんで謝るの、わたしは大丈夫よ」

「それに、男の子なのに、足遅くて……」

 べつに、情けないなんて思ってないよ。むしろそれがアイドルにとって魅力になるかもしれないもん。アイドルだって運動神経のない人もいるしっ!

「あと……」

「まだなにかあるの?」

 沙月くんの足がだんだん遅くなって、わたしの自転車のスピードもこぐのでは彼を置いてってしまうほどになった。

 これ以上走らせていいのかな……後ろに乗せようかな。

「走る必要あるのかな、って、思っちゃって……」

 あるよ、って、言いたいけど、なんだか声に出せない。本当にそうじゃないかも、って思っちゃってるから。

 いけない、プロデュースのやり方わからないなんて、思われたくない。さっきまであんなに計画立てたんだし……

 三人をプロ並みのアイドルにするんだって、わたしが一番気合を入れなきゃなんだから!

「必要あるよ! プロのアイドルになるつもりなんだから、踊っても息切れしないくらい持久力つけないとなの!」

「そ……そう、だよね」

「むしろ沙月くんはなんでアイドルになろうって思ったの?」

 スタート地点の校門前に着くまで、彼の気が散らないように質問をしてみる。強くなりたい、って言ってたような気がするけど、何があったんだろう。また二人とはちがう理由で、アイドルを目指したいようなことがあったのかな。

「たいしたこと、ないんだけど……」

「モテたいから?」

「ううん、そんなのじゃないよ」

 夢園くんの理由を「そんなの」で片付けちゃうことになるけど……

 それに気付いたのか、沙月くんははっと片手で口をふさいだ。もう片方は、もうお腹が痛くなったのかそこをおさえてる。そうじゃなくて、と首を横に振るので、分かってる、とうなずいた。

「ボク、ホントに弱いから、太陽くんのお兄さんみたいに、いつでも前向きな人が、すごいなって思って……」

 だよねー! って賛成したいけど、そうか、内気な沙月くんにとって、アイドルってそういう存在に見えるんだ。

「ていうか、見たことあるの、お兄さん?」

「うん、太陽くんたちと同じ小学校だったから、何回か遊んだことが……」

「うそっ!? まずそのお兄さんって……」

 名前を聞こうと思った、のに、沙月くんはそこで止まりだした。

 というのも、もう校門前に着いてしまったから。走り終えて手をひざにつき、息を整え始めた沙月くんに質問をすることができなかった。

 校門のわきであぐらをかいて待ってた夢園くんは待ってたと言わんばかりにニコニコと手を振ってきた。もう、勝手に二人で先に行っちゃって! 沙月くんかわいそうじゃない!

「おつかれーっ星夜!」

「はぁ、はぁ……ごめんね、遅くなっちゃって……」

「いや、星夜らしいから気にしねーよ!」

 って言っても、体力がなきゃ踊りきることができない。二人ばかり責めるのもちがう。二人が沙月くんのペースに合わせたら、体力がつかないかもしれないし。

 うーん、なんとかして沙月くんの体力をあげなきゃ。わたしはノートにそのことを記した。

「そうだ、レモンのはちみつ漬け、持ってきたんだ……」

 沙月くんがカバンから取り出したのは、タッパーに詰められた輪切りのレモンだった。わあ、美味しそう! お母さんが沙月くんたちのために作ったのかな。

 嬉しそうにパクパクと食べる夢園くん。わたし? わたしは走ってないから食べるわけにはいかないよ。

「桜さんもよかったら食べて……? 隠し味、入れたんだ」

 え、いいの? じゃあいただきまーす!

 んー、美味しい! なんかスーッとする! けど、「入れた」って言い方、なんか気になるなあ。

「ミントか。まさか家で育てたものか?」

「そうなんだ、口当たりがスッキリすると思って……」

「コレ沙月くんが作ったの!?」

 わーっ、すごい! 沙月くん女子力たかい……! もしかして女の子にモテる理由って、これもあるのかなあ……

「うんめー! オレ星夜の作る料理大好き!」

「えへへ、ありがとう、太陽くん……」

 ……いや、その愛らしい笑顔が、一番の理由だね。それに、小柄で守りたくなるようなか弱さだし、声もキレイなほうだし。

 沙月くんも、アイドルの資質あるなあ。体力とかなくても、きっとその魅力でやっていけると思う。これもノートに書いておこっと。

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