第6話 匂い立つ不穏
「いや、結構だ」
何か、おかしい。ヴィクトルが先ほどから感じ続けていた疑念というものが、いまのこのやり取りでさらに強くなった。
主人を会場に送り届けた使用人たちを、パーティが終わるまで収容する待機場でのこと。
さすがは王家の別邸か。そうはいってもその待機場とて広く、そして雅なもの。
食事が、酒が振舞われた。来賓に対してではない、その使用人たちにまでここまで応対するというのは破格。確かにヴィクトルも驚いた。
だが、どことなく気持ちの悪さに襲われたのは、待機場に入った既にそのとき。
過剰とも言える、サービスの押し売りだった。
気にせずそのサービスを享受することを選びさえすればこんなこと思わない。現にいたるところで酒に手を伸ばし、喉を潤し、腹を満たす者たちは沢山居た。
「ですが、本パーティの主催、公爵家の料理人が腕を振るった品。これをお断りになられては、公爵家にとって立つ瀬もなく、厚意を無碍にされるとあっては貴殿がお仕えなさる御家とて悶着がありましょう」
だが、主人をパーティに送るような使用人や御者は、なかなか会が終わるまで食事が取れないもの。
だから既に、この会場に来る前、一徹を連れて家を出る時には既に食事を終えていたヴィクトルは、そうならなかった。
他、ヴィクトルは使用人としての人生が長い。紆余曲折があって一徹の元で今は生きているものの、かつては、既にほろんだ別の公爵家に生きたこともあった。
その時の目線で見ても、やはり使用人に対してここまでもてなしが尽くされるのは、気持ちが悪かった。
パーティとは、招かれた者たちが交流する場であるはず。しかしその目的から外れた、使用人に対するもてなし。
やったとして、本来は意味ない行いだ。
「失礼いたしますヴィクトル殿」
そのときだった。サービスの享受を拒否したことで、顔を歪める接待の者とは別の者から声をかけられた。
「貴殿のご主人から、いらっしゃるようにとのご伝言でございます」
「……私の、主が?」
ひょんなタイミングで呼びかけられた内容に、一瞬言葉を詰まらせたヴィクトルは……
「ハイ……
思い出すことが出来ないからなのか、手元の資料を確認しながらそう口ずさむ男に向かって目を細めた。
「……ホウ……?」
そして立ち上がり……
「では、どうぞこちらに」
踵を返した男の背中について行くように、歩を進め始め……腰に、手をやった。
この待機所に案内されたとき、
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