第7話 食いしん坊

 酷い。エメロードがそう思ってならないのは、一徹の遠慮の無さを目の当たりにして。


「んまいっ! さっすがは公爵家の料理人! 手はこんでて見た目も華やか。なーるほど。これがいわゆる『お貴族様の食べる物』ってところか!」


 パーティは立食スタイル。

 背の高い席に、テーブルに張り付き、テンションが高いまま次々と料理を頬張る一徹がいた。

 その味わいにするため、その見た目にするため、料理人たちは時間を掛けた筈なのに。

 ことごとく料理を口に放り込んでいき、咀嚼物を、酒を含むことで喉に流し込む一徹のさま。

 同じテーブルを挟んだ反対側で頬杖をつき、あきれ顔で一徹の様子を眺めるエメロードにはとても、その言葉とは裏腹に感銘を受けているとは思えなかった。


「どーしたんです? あ、もしかして召し上がりたいんですか? ま、主催者の一人、会の運営に多忙ならそれも頷けるか。では少々お待ちを、適当に見繕って持ってきます」


「ちょ、ちょっと止めてよ!」


 その視線を受け、エメロードが腹をすかしているのだと勘違いした一徹。

 そう言ってテーブルから離れたとき、大慌てで呼び止められた。


「……なにか、また失敗しました?」


 質問こそしたが、自分が失敗したことだけはシッカリと確信した一徹。

 スーツの裾を思いっきり握ったエメロードが、顔を真っ赤にしていたからそれが伺えた。


「そのお皿の持ち方!?」


 苦しげに悲鳴を漏らす、俯いたエメロードに指摘され、たったいま完食したことで空となった平皿ソーサーを持つ己の手に注目した。

 左手二枚、そして右手に一枚。

 左手の、親指と小指を持ち上げ、人差し指と薬指を下げた。その間に深く、指の付け根に届くくらい平皿ソーサーを差し込む。そうすると。空いた親指と小指の腹と手首の3点で、もう一枚平皿ソーサーを載せられるのだ。

 そしてもう一方の手でさらに一枚。優雅な立ち振る舞いを見せ、料理を運ぶ配膳人にとっての必須技術とも言っていい。

 そう、配膳人としてなら、その持ち方は問題なかった。

 だがその技術を本来料理を頂く側が見せたらどうだろう。

 あまつさえそうして持つ平皿ソーサーの上に、料理をてんこ盛りにするならもうそれは……ただの食いしん坊だ。

 オジさん一徹には、そういう事で一緒にいることを恥ずかしがっているエメロードの葛藤が、いまいち掴み切れていなかったから、首をかしげて苦笑いをするしかなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る