第45話 親の気持ち

 一方、カリーナの屋敷では……


 庭はレースやリボンで飾り付けをされ、テーブルやイスが並びパーティーの準備がされていた。その中央に置かれているテーブルにいろんなフルーツで飾り付けをされた五段重ねの生クリームケーキがある。


 それを見上げてジンが感心しながら言った。


「張り切って作ったねぇ」


 リアが飲み物の入ったビンを抱えて持ってきた。


「カリーナの誕生日と結婚祝いなんだから当然よ」


「でも、カリーナは捕まってくれるかな?」


 ジンの疑問にリアが微笑む。


「あの子はずっとレンツォしか見ていなかったのよ。今までは照れて逃げ回っていたけど、今日が期日って覚えているから最後はちゃんと捕まるわよ」


「そうだね。それにしても君たちはいいのかい?可愛い一人娘がこんなに早くお嫁に行っても」


 ジンがリアとその後ろに立っているアントネッロ卿を見る。


「あら、私は良いと思うわ。ねぇ?」


 リアに振られてアントネッロ卿が微笑んだまま頷く。


「レンツォほどカリーナのことを解ってくれている人はいませんから。私も賛成です」


 清んだテノールの美声が響く。滅多に話すことがないアントネッロ卿だが、その声は特徴的で一度聞くと忘れられないほど印象強い。


 リアが軽くアントネッロ卿にもたれ掛かる。


「話しすぎ」


「別にジンが相手だから良いでしょう?他に女性がいるわけではないのですから」


「私以外にその声を聞かせるなんて勿体無いわ」


 独占欲発言にアントネッロ卿が嬉しそうにリアの耳元で囁いた。


「じゃあ、黙っていますよ」


「ええ」


 リアが満足そうに微笑む。その光景をジンは笑顔で黙って見守っていた。

 この二人はいつもこの調子で万年新婚夫婦なのだ。ちなみにアントネッロ卿があまり話をしないのはリアから必要最低限の会話しかしないように言われているためである。アントネッロ卿の声は女性だけでなく男性さえも惹きつけてしまうことがあるのだ。


 リアはジンに視線を戻して言った。


「レンツォなら血筋も申し分ないし、何も問題ないと思うわ」


 その言葉にジンが首を傾げる。


「おや、リアが血筋を気にするなんて珍しいね。確かにレンツォは王族だから血筋については血統証付きだけど」


「確かにレンツォは王家の直系である王妃の血を受け継いでいるから王位継承権もある王族だけど、それには興味ないわ」


「じゃあ、なんの血筋が申し分ないんだい?」


「ジンの血よ。魔人と呼ばれるほどの魔力と血を引き継いでいるんだから申し分ないわ」


 リアの言葉にジンは苦笑いをするだけで何も言わない。


「いい加減に父親は自分だって名乗ればいいのに。まあ、レンツォのことだから気づいているでしょうけど」


 ジンは軽く笑って空を見上げた。


「あの子は聡明だからね。それで十分だよ」


「相変わらず欲がないのね」


「欲ならあるよ」


「自分の世界に還りたい?」


 先に言われてジンが苦笑いをしながらリアを見る。


「そうだね。でもレンツォが命懸けでこの世界につなぎとめてくれたからね。生きているうちに還るのは諦めたよ」


 その言葉にリアはにっこりと笑った。


「そうなると、孫の顔を見るまでは死ねないわね」


「まあ、簡単には死ねないね」


 そう言ってジンは庭の入口を見た。聞きなれた声が言い争いをしながら近づいてくる。


「……半分なんだから。そこは嫌って言っているでしょ!」


「もう面倒だから、おまえの残りの人生全部よこせ!」


「嫌よ。最初に半分って言ったのはレンツォでしょ」


「あぁ、面倒くせぇ!」


 まだ姿は見えないが、言い争いながらもどこか楽しそうな二人の声に三人が顔を見合わせて笑顔になる。

 この二人なら、どんな未来でも乗り超えられるだろう。だが、できれば、この二人の未来に幸多からんことを。






 常識とかけ離れた人間が普通の親らしいことを祈ったためか、このあとアルガ・ロンガ国では珍しくヒョウが降ったという。そして、二人の結婚式は晴天なのに雨が降るという、これまた珍しい天気だったという。


 その後、レンツォは国内を改革していくと同時に再び侵攻してきたフオル国を撃退。そのまま進軍して制圧し、周辺諸国から戦神と呼ばれるようになる。


 私生活では相変わらずカリーナに振り回されながらも、師匠のように異世界から魔力が強い人間が召喚されないようシャブラ国に策を巡らしていくが、それはまた別の話となる。

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第三皇子なのだが周囲からの扱われ方がひどい @zen00

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