第21話 急展開

 転移魔法による眩しい光の次に視界に入ったのは知らない広間だった。豪華絢爛というより要塞のような堅牢な造りをした広間を人々が駆け回っている。


「どこだ?」


 おれとサミルが警戒しながら周囲を見ていると、慌ただしく走り回っていた人々が動きを止めた。


「レンツォ様!」


 呼び声とともに見覚えのある初老の男が駆け寄ってきた。確かおれの父親であるアルガ・ロンガ国王の相談役としてよく城で見かけた人だ。


「えっと、確か……」


 おれが名前を思い出そうとしていると、その時間も惜しむように先に早口で自己紹介をされた。


「アルド・グランディです。それより、早くこちらへ」


 言われるがままグランディ卿の後ろをついて人垣をかき分けて行った先には、血を流した師匠が倒れていた。


「師匠!?」


 おれが駆け寄るとその隣にいた王が顔を俯けたまま悔しそうに言った。


「私をかばったのだ。そして、ここにいる者たちを転移魔法でここまで避難させてくれた」


「この傷で!?」


 ここがどこなのか、何が起きているのかは分からない。だが、明らかに致命傷の傷を負った師匠が、この多人数を転移魔法で運ぶなど自殺行為以外のなにものでもない。


「……レンツォ?」


「師匠!」


 かろうじて意識がある師匠の手を握る。


「どうやら、ここまでのようだ……」


「すぐに回復魔法をかけます!ですから……」


 おれの言葉に師匠が掠れた声で話す。


「傷が深すぎる。魔法でも無理だろう……」


「何、言っているんですか!ベッドの上で大往生するのが師匠の夢でしょう!?」


 師匠が虚ろな目で宙を見る。


「……ようやく自分の世界に還れる……」


 うわごとのように呟くと師匠は琥珀色の瞳を閉じた。


「師匠!?」


 返事はなく、ゆっくりと息が止まる。


 その姿におれは立ち上がりサミルに向かって叫んだ。


「聖水をありったけ用意しろ!それを、ここで魔力が一番強い場所に準備するんだ!」


 突然の命令にも後ろで控えていたサミルは悠然と頭を下げて答えた。


「御意、我が君」


 おれと同じで、状況がまったく把握出来ていないはずだがサミルは人垣を超えて走っていった。


 そして、おれは再び床に膝をつくと師匠の額と両手と胸と両足に自分の血で小さな魔法陣を書いた。


 グランディ卿がおれの気迫に押されながらも恐る恐る声をかけてくる。


「レンツォ様、何をされているのですか?」


「これで師匠の魂が体から離れるのを遅らせることが出来る」


「それは禁術では!?」


「治癒が間に合わなければ、この魔法でも魂は自然と体から離れる。死者を無理やり蘇生させる禁術とは違う」


 グランディ卿に説明をしておれは周囲の人に言った。


「ここで魔力が一番強いところはどこだ?」


 おれの行動に人々が戸惑い、誰も質問には答えない。


 グランディ卿が頭を下げて言った。


「レンツォ様、突然のことで混乱されているのは分かります。ですが、今はジン殿より国の危機なのです。どうかお話を聞いて下さい。そして、国を救うために力をお貸し下さい」


 その言葉におれはグランディ卿を見据えて叫んだ。


「目の前の人間一人救えない奴が国を救えるか!話は後で聞く!今は師匠が先だ!」


 おれの態度にグランディ卿が助けを求めるように王を見た。


 王はおれと師匠を交互に見て静かに訊ねた。


「助けられるのか?」


「助けます!」


 無言のにらみ合いの後、王はおれに頭を下げた。


「どうか助けてくれ。私の親友を」


 王の言動に周囲の人間がざわめく。


 だが、おれは王の行動に驚くことなく、しっかりと頷いた。王が師匠を親友として、それだけ必要をしているか知っているからだ。


「必ず助けます」


 そして、いまだにざわついている人々に言った。


「ここで魔力が一番強いところに案内してくれ」


 おれの言葉に人々をかき分けて伯爵家の紋様が入った鎧を着た男が出てきた。

 紋様は外枠の形で位が判別できるようになっているため、名前は知らなくても身分は一目でわかる。この広間にも同じ紋様の旗が飾られているので、この城を統治している家の者のだろう。


 男はおれに頭を下げると手で道を示した。


「こちらです。お連れの方が準備をされています」


 おれは師匠の体を浮遊魔法で慎重に浮かばせると、男の案内で祭殿がある部屋へ移動した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る