第20話 自由終了

 そんな四年間の旅を思いだしながら、おれは目の前の焚き火をつついた。


「あと一年でこの旅も終わりかぁ」


 感慨深く呟いた言葉に焚き火を挟んだ先にいる青年が頷く。

 おれの祖国ではあまりいない黒に近い茶髪を持ち、人畜無害そうな柔らかい顔立ちをしている。


「と、いうことは私が我が君と出会って三年も経つのですね」


「その小っ恥ずかしい呼ばれ方にも慣れちまったな」


「我が君は、我が君ですから」


 おれの小言を笑顔で流す。だが、こげ茶色の瞳には、その呼び方は譲れないと強い意思が見える。


 こいつの名前はサミル。三年前に東南にある国を旅していて知り合った。ちなみに家名もあるが、あまりにも長すぎて覚えるのを諦めた。本人からも捨てた家の名なので忘れて下さいと言われた。


その国でちょっとした出来事があり、サミルは何故かおれのことを我が君と呼んで旅にくっついてきたのだ。

 なにやら大騒ぎにはなっていたが、おれが死にかけることはなかったから、ちょっとした出来事程度のはずだ。


 そのどさくさ騒ぎにまぎれて国から出てきた公爵家育ちのサミルは、騎士団に所属していたとはいえ最低限の装備で野宿ありのおれの旅に付いてくることは困難の連続だった。それでも、なんとか根性でついてきているのだから、ある意味すごい。


 おれは地図を出してサミルに言った。


「明日にはこの町に着く予定だ。そこで足りないものを補充しよう」


「携帯食料が心もとなくなってきていたので、ちょうど良かったです」


「そうだな」


 そう言っておれが笑うとサミルが少し訝しむような顔をした。


「どうされました?」


「いや、サミルもすっかり旅になれたなぁと思って」


「我が君のおかげです」


「お前なぁ、そういう恥ずかしいことをあっさりと言うなよ」


「事実なのですから恥ずかしいことなどありません。私が見張りをしますので、我が君はお休み下さい」


「わかった」


 おれは背中にある大木に体をあずけて目を閉じた。そこで懐かしい魔力が体を包んだ。


「我が君!」


 サミルの呼び声に目を開けると転移魔法の魔法陣が足元に出現していた。


「なんだ!?」


 おれが立ち上がると同時に魔法陣が輝く。サミルがおれの腕を掴んだところで転移魔法が発動した。

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