12  ―聞き残したこと―

12 ―聞き残したこと―


 いやまだおしまいではないと私がいったのはひと段落ついた時だ。

「どうしたのぉ? 少年」

「昨日の三人との関係を聞き忘れてたんだ」

「若王子ちゃんのこと?」

「そうだ」

 なにをまったりしているんだ私は。

「知りたい?」

「勿体ぶるなよ」

「どうしよっかなぁ〜」

「飲みでもなんでも付き合うから」

 私はそういってから自分の言葉が厄介なことになることに気づいた。

「言ったね少年? じゃあお姉ちゃんと朝までコースだからねぇ」

 しかし時すでに遅く空也に約束をとりつけられた。

 元々あまり酒は飲まないのだ。

 空也は無理に酒を飲ませることはないのでそこは安心ではある。

「簡単なことだよ、同じ大学の先輩後輩で、ユートピアの部長が私なんだ」

 予想できたことではあるが実際にそうだと少し驚いてしまう。

 退魔サークルユートピア。あの三人の仲間。

 しかし空也が彼らと同じとは信じたくはなかった。

 今まで見てきた空也と彼らの妖に対する接し方とか考え方は違うからだ。

「少年そんな悲しそうな顔するなよぉ。昨日は私だってギリギリの綱渡ったんだからさ」

「雁金」

「ん? どうしたの? 桂御園君」

「これをやろう」

「なにこれ?」

 招待状だ。

 私に渡した物と全く同じ。

 ご丁寧な封蝋付きの招待状。

「ありがとーね。結婚式、女の子喜ぶと思うよ。少なくとも私は幸せな結婚式をしたいしね」

「だが、それも出来るか分からない。お前のところの三人だ。そいつらが邪魔をする」

「んーそうだねぇ」

「だから手を貸せ。奴らの仲間なら色々と知っているだろう」

 桂御園もあの三人との衝突は避けたいようだ。

 常に自信満々の雰囲気だったが少しは落ち着いてモノを見ているのかもしれない。

 いやモノを頼む態度にしてはもうちょっと下手に出て欲しいものだ。

 私が頼まれた訳では無いのだけれど。

「無理だよぉ。さっきも言ったでしょ? 昨日はギリギリだったんだからぁ。私達の取り決めのグレーゾーン」

「結婚式までの間だけでいい。式が終われば俺が全て片付ける」

「君が起こした問題だろぉ。君を私が助けなきゃいけないってぇ、理由もないしぃ」

「……だがそれでも俺は葛葉と式を挙げねばならない」

「君が式にこだわるのにはさぁ君なりの理由があると思うけどさぁ、そこはダメ」

 私はポケットをまさぐってみる。

 空也がもらったものと同じ招待状。

 時間は少なかったろうによく用意したものだ。

 結婚式か。私にも縁のある話だといいのだが。

 私は自分の指を見つめる。

 爪が随分伸びている。こんなに鋭いと紙ぐらい切ってしまいそうだな。

 もはやこれは刃と呼んで差し支えないのでは?

「やめなよ桂御園。空也だって事情があるんだから」

 刃のように鋭い爪で封を切る。なるほど、招待状とはメッセージカードのようだ。

 式は……一週間後か。意外と近いな。

「金谷、なにをしているんだお前」

「僕はユートピアの面子の邪魔をしようとした。味方に付くというのもおかしな話だ。それに君はともかく葛葉さんには幸せになってもらいたい」

 爪は鋭く紙など容易に貫いてくれる。

 御出席と書かれた部分を丸くくり抜いた。

「出席だ、桂御園。ただこの式が潰れてしまうと出席出来ないな」

 だから君を手伝おう桂御園。結婚式が出来るように、式の日まで君を守ってやろう。

「祝儀は君が持っていた油揚げの釣り銭で勘弁してね」

「お前、案外せこいな」

 ぽかんとした桂御園の顔を僕は笑ってやった。

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