13 ―お願い、雁金空也―

13―お願い、雁金空也―


「頼む空也。助けて欲しい」

 空也の側で正座をしながら頼み込んだのはあの後解散し空也の住む部屋に連れていかれた時だ。

 飲みの約束をすぐに決行に移された。

 部屋の床を埋め尽くさんと転がる酒の数々。全て空也が飲んだものだ。

「計画性なく言っちゃったんだぁ~ダメだなぁ少年。あんな事まで言っといてぇ」

「あ、あのままだったら桂御園は引き下がらないと思って……」

「素直じゃないなぁ少年は。嬉しかったんだろぉ? 自分宛に招待状を用意してくれたのとかさ」

 にやにやと嫌らしい笑いだ。

「それともぉ、あの葛葉ちゃんって娘に惚れちゃったの?」

「それはもっと違う! 僕は、その、葉子と今いい仲を築けている。だから……桂御園もそうなって欲しいと思っただけだ!」

「少年。うちマンションだからさ、隣のお部屋の迷惑になることやめようよぉ」

「空也……」

「そぉんなに見つめないでぇ。いいよ、手伝ってあげる。お姉ちゃんに感謝しろよぉ」

「え、いいの?」

 意外だ。正直いってしてもらえるとは思っていなかったのだ。

 ダメもとであったがこれは僥倖だ。

 しかし大丈夫なのだろうか。なにか取引を持ちかけられたりしそうではある。

 まだ笑うな、私。

「桂御園の時とはえらい違いだね」

「あの子はユートピアから狙われてる標的だからね。でも、少年は桂御園君じゃないからね」

「屁理屈っぽくないか」

「屁理屈も理屈のうちだよぉ。それに、少年を助けるのは私にとって都合がいい」

「?」

 都合がいいとはどういうことだ。

 私とユートピアが衝突して空也が得をするのか。

 こうもりにでもなって二つの陣営相手に取引すれば得をするかもしれないが、そういうことをする人間ではない。

「はっきり言って私の後輩は強い。多分勝てる人間なんてそうそういないよぉ」

「まぁ、それは否定しないけど……」

 否定できない。若王子さんだけでも恐ろしい。

 相生さんも人並み以上の力を持っているし、過書さんは……特になにもしてなかった。

 あの人も葛葉さんを狙ってきたはずだと思うが、本当に何もせずに帰っていった。

「あの子達にぃ経験積んで欲しいんだけどねぇ。苦労を知らない若者なんだなぁ……お姉ちゃん、悲しいぞぉ」

「僕がユートピアと衝突するとそれが経験になる?」

「そうだよぉ」

「でもそれ僕がすぐに負けちゃったら意味ないんじゃ……」

「んー? そうならないようにお姉ちゃんがサポートしちゃうぜぇ」

 心強さがある一方で心配だ。

 空也のサポートやアドバイスは私にとって有益なものになるだろう。

 しかしそれを受けたとしても勝てるかどうか分からないのだから。

 優秀なアドバイザーがいてもハンターが素人では虎を狩りそこなうかもしれない。

「済ませられるなら交渉でもいいんだけどねぇ。まぁ十中八九殴り合いになるからさぁ」

 出来ればこちらも荒事は避けたいがあの日のことを思い出すとそううまくはいかないのだろう。

 敵対とみなせば即攻撃だ。

 彼女達は他の現場でもああいう感じなんだろうか。

「……ごめんよぉ」

「なにが」

「多分、すごくつらい思いをすると思うからさぁ……君は優しいしぃ……だから誰かを傷つけることが少年自身を傷つけるんじゃないかって」

 そんなことはないとは言えない。

 喧嘩の経験はあまりない。ただ人を殴って気持ちよくなれるかと言ったら答えは否だ。

 心が痛むかはやってみないと分からないが。

「無責任だけどさぁ頑張ってねぇ。少年」

「出来るだけのことはやるよ」

「死なないでねぇ。少年」

「不吉な事言うなよ」

「あはは。少年、大丈夫だよ。殺すつもりは向こうもないからさぁ」

 殺す気満々で来てたら退魔サークルではなく殺し屋集団だろう。

 その言葉が嘘にならないことを祈ろう。

 それと空也が酒の飲み過ぎで途中で寝てしまうことを祈ろう。

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