第2話

「うん。今 帰り~~」

「お疲れ様です! オナカ空いてます? ゴハン、食べれます? ソレとも少し休みますか?」

「腹ペコ~~」

「良かったぁ! 今日は和食にしたんですよ。

シャケとトロロと、ほうれん草のゴマ和えに温泉卵、お味噌汁はワカメ!」

「ぅおっ、スゲ! 旅館の朝食だっつの!」


 ユーヤ君に手招かれて お邪魔しまーす。

ブルジョワなガラステーブルには家庭的な和食が並べられてる。

もぉホント、至りにつくせりで非の打ち所のないオレのカレシ。

こぉやって、自称・作曲家としてのオレを後押ししてくれちゃってんだよね、

ホント、天使だわ、この子。


「いただきまーす!」

「はい、どうぞ」


 顔もカワイイ。気立てもイイ。優しい。

部屋の片付けもキチっと出来ちゃう。料理も美味い。


「つか、美味!!」

「ハハハ、良かったぁ」


 挙句の果てに、夜のテクがハンパねぇ。

現実にいるんだねぇ、こぉゆぅ可憐な王子様タイプってのがぁ。


(ソレに比べてオレときたら、優秀なるヒモ予備軍)



 ジ ョ ー ダ ン じ ゃ ね ぇ !!



 って、やっぱし思うから、ガリガリ金稼ぎてぇって思っちゃうんだ。

オレが稼いで、ユーヤ君にこそバイトを辞めさせて、日がな一日ピアノの練習をさせたい。

だって、この子の才能は天下一品だ。その上 まだまだ伸び白が見える。

最高級の超一流ピアニストに育ててやりたい。


(防音の利いた部屋でも借りられりゃぁ……)


 ズルズル味噌汁すすりながら物思いに耽っていると、ユーヤ君は不安気に首を傾げる。


「石神サン、どうしました?」

「ぇ? ……あぁ! ううん。べっつにぃ、ぃゃ、転職をね、しよぉかとぉ」

「え!? お仕事の依頼、来たんですか!?」


 オレの大ファンだと言うユーヤ君だから、オレがまた作曲の仕事を見つけたと思ったみたいだけど、残念ながら的外れ。


「つかぁ……オレ、髪 黒くしてイメチェンしてさぁ、」

「うんうん」

「どっか、会社に就職しようかと、」

「……」


 オレの金髪が黒くなるのは どーでも良さそうだけど、

本物の しがないタイプのリーマンになろうかって提案には目を細める。


「ぃや、だからさ、その方が生活が安定するってか、ユーヤ君にアレコレ世話やかすのもさ、」

「迷惑ですか……?」

「そぉじゃねぇよ、スゲェ助かってるってば!」

「ソレならソレで良いじゃないですかっ、

今の環境だと作曲に打ち込めないって言うのは分かります、

ソレなら俺、バイト増やすし、石神サンが ちゃんと音楽に向き合えるように、」

「ソレ、違うでしょぉが!!」


 オレは力いっぱいに箸を置く。

ガチャン! って耳にイテぇ音が鳴るモンだから、ユーヤ君がビビッって仰け反る。

あぁ、やっちまった……


(こんな悲しい顔をさせたいんじゃねぇのに……)


「あのね、ユーヤ君、キミはさ、将来ピアニストになる子なんだよ?

社会勉強にバイトするとかってのはイイコトかも知れんけど、

包丁 持ってママゴトするんは違うと思うんだよね、オレ」

「マ、マ、ゴト?」

「ぁ、ぃゃ、……あんね、曲は書くよ。書いてるんだから。

ただ、進んでねぇってだけで、単なるオレの性能の悪さっつーだけの話で」

「自分の事 悪く言うの、やめてください……」


 そっか。

ユーヤ君は作曲家=石神亮太郎の大ファンで、

その石神亮太郎本人であるオレがオレの悪口 言っちゃうのはアウトだわなぁ。

あぁ、複雑。


「……つか、オレはユーヤ君に ちゃんとピアノの練習をさ、して貰いたいんだよね」

「してます」

「そぉかな? 家で弾いてるの、近頃 見ねぇけど?」

「……学校で、してます」

「ソレは当たり前だろ? そンなんでプロになれっと思ってねぇよな? 流石に」

「……、」


 毎朝 空が暗い内からバイトに出かけるオレを送り出して、

帰って来るオレの為に朝メシの準備して、昼の弁当まで作り置き。

そんでもって大学行って、授業が終われば そのまま20時までバイトして、

帰って来たらオレの晩メシ作って……コレが近頃のユーヤ君の日常ッス。

何処にピアノ練習してる時間があんだよっつー話よ。


 そこまでさせた結果の3ヶ月、オレは1本も曲を書き上げてない。



『才能、使い切っちゃったんじゃん? あのCMで』



 ある日の合コンで女の子に言われた言葉。

今更 動じちゃいないけど、反論の余地が未だに生まれない。

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