第3話

(ィャ、やっぱ堪えてんのかなぁ、図星 突かれて。

否定しようって矢先、アイドル曲の仕事も干されっし、

何か、自分の呆気無さを地味に引きずってるってか、ダメージ回復してねぇってか……)


 あぁ、こんなつまんねぇコトでケンカとかしたくねぇよ……


「やっぱ、しがないカンジのリーマンのオレぢゃ、価値 沸かねぇ?」

「!」


 ユーヤ君は頭を挙げ、必死に頭を横に振る。

その反動で、目に溜まってた涙がボロボロ零れちゃってまぁ、カワイイ。


「ち、違うっ、違いますっ、石神サンが何だって、俺は石神サンが好きですよっ、」

「ホント?」

「本当ですっ、」

「そいじゃさ、オレに真っ当な大人としての役割を果させてよ」

「っ、」

「オレはユーヤ君にピアニストになって貰いたい」

「ぃ、石神サン、」

「今は、その協力をしたいんだ。

オレは知名度ねぇし、押し上げてやるコトも出来ねぇけど、

ピアノはね、まだまだキミより弾けるって自信ある。

だから、時間作ってシッカリ練習しよ? オレの技術、全部キミに上げる」


 全部。全部だ。オレの夢をユーヤ君に託す。



『揃々、石神チャンも若手に道 譲ってやる立場になったのかもねぇ』



 ねぇプロデューサー、オレだってね、腐ってもプロだったんだよ。

道を譲るなら、その相手は自分で決める。

顔も知らんクソガキに譲ってやる道なんてねぇんだよ。


 ユーヤ君はギュッと下唇を噛んで、小さく頷く。


「メシ、食お?」

「……はぃ、」


 半ば強引に着地点を見っけたトコで、オレの携帯電話が鳴る。



 Tururururu……



 珍しいコトもあったもんだ、

って、画面を見ると、そこには前に世話んなってたプロデューサーの名前が表示されてる。


(あのアイドルのCDのコトかな?

買って聴いて感想 寄越せって、あのプロデューサーなら言いそうだぁ)


 一応、俺が道 譲ってやったらしい新米作曲家のデビューアルバムでもあるからね、

実際どーよ? 的な意見ってのは聞きたいのがプロデューサーっしょ。

でも、ユーヤ君の前で話すんもカッコワリぃんで、俺は極美味メシを前に席を立つ。

ンで、いそいそ玄関へ。


「はい、石神ッス」

「あぁ、石神チャン? 久しぶりぃ!」


 相変わらず声デケぇなぁ、プロデューサー。

オレは慌てて靴履いてユーヤ君の部屋を出る。


「朝っぱらから悪いねぇ、あの子の初アルバム、リリースされたんだけど、気づいた?」

「ぇぇ、そりゃもぉ、はい。ポスター見ましたんでバッチし」

「そっかぁ、で、どぉだった?」

「いやぁ、まだ買ってねぇもんでぇ、ハハハ、すんませーん」

「そっかぁ、感想 聞きたかったんだけどなぁ」

「すんませーん」


 アホ。アルバム何ボすっと思ってんだっつの。

1杯のかけ蕎麦も食えん このオレの財布に3000円は荷が重いんだっつの。

どーせなら、無償で送って来いや。


「一応さぁ、ファンからのアンケで諸々の感想は来てんだけどね、」

「そっすか。ンじゃ良かったじゃねぇっスか」

「ソレが、石神チャンと比べるとアレな感じってね、そうゆうファンの子が多いみたいで」

「アレな感じって? 何スか?」

「ホラ、石神チャンの曲って王道いってる割りにテクニカルだろ?

その分、ファンの子も気合入れて曲聴いてくれてるんだよ。

合いの手入れた時の感じとか、胸アツって高評価だったからさ」

「はぁ……」


 そんな話、コレまで聞いたコトねぇぞ?


「今回はね、新米クンだったから、まぁ……

ファンも慣れないんだろうけど、石神チャンと比べるとねぇ、

手抜きっぽく聴こえちゃうみたい何だよなぁ」

「はぁ、」

「そこで、ものは相談なんだけど、もう1回、あの子の面倒みてやってくれないかなぁ?」

「ぇ?」


 何だろ、おかしいな?

この晴れ晴れとした青空から神の声でも轟いたか?

神様、うっかり間違えて特大ギフト 落としちゃったか?

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