ゆかりSide 2

 去年、中3だった私達は、ラジオ番組主催のコンテストに出場した。


 当時、私は花奈や同級生達と組んでいたバンドで、そのコンテストに出場した。


 音源審査を通って、予選のライブハウスで演奏する日の朝、人前に出るのが不得意な花奈は、かなり緊張していた。


 私は花奈を付き合わせてる手前、あれやこれやフォローして、なんとか彼女の緊張をほぐしてステージに上がった。


 それもあってか、花奈は1回もミスをせず、それどころか、今までで1番の演奏を披露した。


 だけど、最後の4小節の頭で、花奈は客席の拍手喝采に動揺したのか、1音間違えてしまった。

 ミスに引っ張られてか、花奈は終わるまで青い顔で棒立ちになっていた。

 

 他の参加者のバンドからも拍手をもらって、ドンマイ、と励ます声もしたけど、花奈は聞こえていないようだった。


 幽霊みたいにステージから下りた花奈は、控え室に帰った途端、号泣して膝から崩れ落ちた。

 私はベースの鈴木さんと一緒に、そんな彼女を励まして、なんとか気持ちを持ち直させた。

 なのに、ボーカルとドラムの子がひどいことを言ったせいで、花奈はパニックになって過呼吸を起こした。


 花奈を落ち着かせようとしながら、私は険悪ムードの鈴木さんと2人の仲裁に入った。


 だけど2人は、花奈に謝るどころか、私に彼女をメンバーから外す様に言ってきた。


 流石(さすが)に頭にきた私は、あんまりやりたくなかったけど、2人のミスを指摘した。

 そうすると、2人は謝るどころか、見苦しい言い訳を始めた。


「もういいよ。――私、このバンド辞めるから」


 彼女達のそんな様子に幻滅して、私が冷たくそう言うと、鈴木さんも私に賛同した。


 そこにきてやっと、2人は花奈へ必死に謝りだした。だけど、私が抜けると困るから、という魂胆が見え見えだった。


「ゆかり……っ」


 花奈のギターを片づける私に、花奈は酷くおびえた声でそう言って抱きついてきた。


 そんな自分勝手な2人に、もう堪忍袋の緒が切れた私は、


「花奈を馬鹿にするのもいい加減にして!」


 多分、生まれて初めて怒鳴り声を上げた。


 その後は、まだ審査が終わってなかったけど、私は花奈と鈴木さんを連れてさっさと帰った。




 何日か経って、携帯に予選通過のメールが来たけど、私は無視して削除した。


 後から聞いた話だと、2人はなんとかメンバーを集めて、本戦に出たらしい。

 それを伝えてくれた鈴木さんは、結果も言っていたけど、もう興味が無かったから覚えていない。


 私達はその後、そのまま部活も引退して、高校受験の勉強を始めた。


 花奈と私は、進学先を同じ私立の学校にしていた。そこは、県内でも軽音で有名な所で、卒業生にはプロのミュージシャンもいる。

 

 試験勉強の間に、私たちは推薦入試の演奏の練習をしようとした。だけど、


「どうしよう……。弾けないよ……、弾けないよゆかり……っ」

「花奈……」


 コンテストでの出来事がトラウマになって、花奈はギターを弾けなくなっていた。


 私は一般で受けるから、気にせず受けて、と花奈には言われたけど、彼女のその目は酷く寂しそうに見えた。


「じゃあ、私は行かない」


 それに堪えきれなくなった私は、花奈をぎゅっと抱きしめた。


「なん、で……?」


 驚いた顔の彼女は、私と離ればなれになるのは寂しいけど、自分のわがままに付き合う必要はない、と言った。

 でもその言葉の最後の方は、涙混じりの声になっていた。


「私ね、花奈に寂しい思いさせてまで、行きたくないんだ」


 花奈の悲しい感情を吹き飛ばすみたいに、私は思い切り笑みを浮かべて、


「それに、花奈が聴いてくれてないと、魂がビリビリしないんだよね」


 彼女の背中をそっと撫でながらそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る