第25話 命をかけたイベントあけなので

 とんでもなく危険だったイベントが終わった。その結果。

「も〜〜〜〜〜〜、授業にでたくなぁい」

「サボりは駄目よ、ハルカ。自習でもいいから、ちゃんとしなさいね」

「………………………という姉上も、仕事をサボっていますよね?」

 図書館の奥にある、司書室の椅子にへたりこんでいるシルヴィアとハルカに、ルシウスはそう言いつつも紅茶を淹れてくれる。

「サボっていません。私の仕事は終わりました。もう他人の仕事は手伝わないというだけよ」

「今頃、殿下が頭を抱えていますよ、生徒会室で」

 副会長としてはどうなんだ、と言いたげなルシウスだが、ハルカはもちろんシルヴィアの味方だ。

「自分の仕事は自分でやんなきゃダメだよね〜〜〜〜。人として当たり前。というか、しばらく仕事しててよ。相手するの面倒臭いから」

「うんうん。甘やかすのは殿下の為にならないものね。これは厳しい優しさよね」

 それにルシウスは苦笑いしながらも「お怒りをかわない程度にしてくださいよ」と言うだけ。

 それもそのはず。二人は見るからに気が抜けているからだ。

 あれだけの仕事を成し遂げたのだ、少しだらけるくらい容認してほしい、というのが彼女達の本音だ。

 どこかぐったりしているようにも見える二人に、ルシウスが焼き菓子を差し出す。

 案の定、すぐに手が伸びてきた。

「あー、美味しーい」

 嬉しそうにかじりつくハルカにルシウスが釘を刺した。

「図書館は飲食禁止になっていますから、口外はしないように。

 それから後でハルカは自習をすること。俺が付き合いますから」

「…………………はぁい。わかりましたー」

 渋々といったようにハルカが頷く。そのやり取りにシルヴィアは、あら? と、ちょっとした変化に気付いたが、ここでは突っ込まないことにした。

 かわりにシルヴィアは別の話題をハルカにふる。

「そうだ、ハルカ。貴女、冬休みは寮に残るのよね?」

「うん。エドワード様に、一緒に城へ帰ろうって誘われたけど、断ったから」

「だと思った。よかったわ」

「ん? 何が?」

 首を傾げたハルカにシルヴィアは飛び切りイイ笑顔で教えた。

「私達も寮に残るの。聖誕祭の件があったから、お祝いは自粛だし。王都は厳戒態勢で、むしろ学園にいた方が動きやすいわ。

 それにハルカ一人で年越しなんて、させられないもの」

 そのニュースにハルカの顔がぱぁっと明るくなった。

「嬉しい! 正直、一人は寂しいなーってヘコんでたんだ。

 残る学生さん達もいるって聞いたけど、仲がいいわけじゃないし。食堂のおばちゃんも帰っちゃうって言ってたし、もー、引きこもるしかないかーって思ってた!!」

「また泊まりっこしましょう」

「いいね、いいね! この際だからパーティーしちゃう? この世界ってクリスマスあるの!?」

「残念ながら、ないのよ。でも新年を迎えるお祝いはするわよ! いわゆる大晦日ね。

 せっかくだから、クリステラ家の権威を使って食事とか豪勢にしちゃいましょう!」

「おぉー!」

 盛り上がる二人にルシウスが冷静に口を挟む。

「あまり派手にやると睨まれますよ」

「あら、駄目かしら?」

「………………残っている学生やスタッフも参加できるものがいいでしょう。

 それにクリステラ家というより、姉上が『生徒会副会長』として企画したほうがいいかと。もちろん、金銭面は寄付という形で家が出すとして」

「って、やる気まんまんじゃん! ルースだって!!」

 にこにこと笑うハルカにルシウスは肩をすくめてみせる。

「俺だって寮に残る身ですから。楽しみぐらいほしいですよ」

 そして真面目そうに付け加える。

「そうなれば、だらけていられませんしね。

 勉強や仕事をサボらせる気はないですから、ちゃんとやらないと駄目ですよ?」

「分かりました! ちゃんとやります!! で、楽しくパーティーだ!!」

 さっきまでの渋々感が嘘のようにハルカが良い返事をしてみせる。楽しみが待っているとなれば俄然やる気がでるというものだ。

 ハルカはご褒美に弱かった。しかもそれが美味しい物となれば、なお弱い。その素直さに公爵家の姉弟が癒されているとも知らず、ハルカは明るく笑う。

 危機を乗り越えた悪役令嬢とヒロインは、しばしの安息にゆっくり羽をのばすのだった。

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