第7話

 その日は、運悪くゲームがメンテナンス中だった。アップデート後に何か不具合が発覚したらしく、長引きそうな感じだ。

 俺はこのところ帰宅後はすぐログインする生活だったので、いざゲームが出来ないとなると何もすることがない。我ながら見事なインドアっぷりだ。

 ふとゲーム機本体の通知を見ると、レイのIDからメッセージが届いていた。そこにはURLが記載されている。世界的に超有名な動画投稿サイトのものだった。

 

 早速開いてみると、それはとある作曲者の新作披露動画だった。

 その人の曲は全て打ち込みで制作されたもので、歌は入っていないインストゥルメンタルばかりだ。確か、一年程前に有名な動画配信者がBGMに使用したことで注目されていたような記憶がある。

 俺はなんとなく噂を聞いたことがあるくらいで興味はなかった。基本的に歌入りの曲しか聴かないからだ。

 しかし、ふと作曲者の名前を見て俺は何か引っかかるものを感じた。

 そいつは、『ゼロ』と名乗っていた。


 レイとゼロ。偶然かもしれないが、どちらも同じ数字を表している。

 その曲は、どうやらボーカルが入ることを前提にして作られているようだった。流れているメロディは、確かに俺の好みの感じだ。単純にレイがいつものようにオススメのアーティストを紹介してくれただけのことなのかもしれない。

 だが、歌詞に拘る俺の為に、今まではずっと歌入りの曲しか選んでいなかったレイが、急にこの曲を聴かせようと思ったのは何故なのか。

 俺は一度同一人物かもしれないと考えたら、それ以外は有り得ない気がしていた。


 長時間に渡ったメンテナンスが終了したのは、日付が変わる頃だった。

 俺はゲームにログインすると、レイが入ってくるのを待つ。

 レイは三十分程してから現れると、俺が作成したチームに加入した。

「動画、観たよ」

 俺が単刀直入に切り出したので、レイは少し笑った。

「どうだった?」

 どうやら、自分からは説明しないつもりらしい。

「あれ作ったのってレイ?」

 遠回しに探るのは性に合わない。俺はストレートに訊いた。


「良く分かったね。もっと名前を捻っておけば良かったかな」

「スゲーな、有名人じゃん。視聴者数とんでもない数になってたぞ」

 俺の台詞にひとしきり笑った後、レイは言った。

「たまたま運が良かっただけだよ。あの人がBGMにするまでは全然だったから」

「それも実力のうちだろ? でもさ、何で急に正体を明かす気になったんだよ」

 思ったよりアッサリと謎が解明されてしまい、俺は拍子抜けしていた。

「あぁ、ちょっとマグに頼みたいことがあってさ」

 レイは思わせぶりなことを言って、少し間を取った。早く言え。

「この曲に、詞を付けて欲しいんだ」

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