第8話

「は!?」

 我ながら実に間抜けな声が出た。案の定レイはバカ受けしている。

「いやいやいや、急に何を言い出すのかと思えば。詞? 俺に作詞しろって?」

「そう。現国トップクラスの実力を発揮してさ。あ、ちなみにコレひょっとしたらタイアップ決まるかもしれないから」

 レイは何でもないことのように、とんでもないことを言う。

「ちょっと待て、そんなのプロに頼むだろ普通。なんで何の変哲もない只の高校生である俺に言ってくるわけ?」

「それは、マグの感性は僕に限りなく近いけれど、表現の方法が僕と正反対だからだよ」

 レイの説明は何となく理解できたが、それにしても一度に色々なことが起こり過ぎて、俺の許容範囲は完全にオーバーしていた。


 話の流れはこうだった。動画サイトで話題になった零の曲を、是非使いたいと言ってきたゲーム制作会社のプロデューサーがいた。

 彼はゲームのBGMだけでは飽き足らず、エンディングに流すボーカル入りの楽曲まで依頼してきた。レイは初めての試みだったが、なんとかメロディを考え、プロデューサー側が用意した作詞家に歌詞を付けてもらった。

 しかし出来上がってきた歌詞は、とても納得のいくものではなかった。

 レイが駄目出しをすると、プロデューサーは生意気だと怒って仕事の依頼自体を取り下げてしまった。


「ん? じゃあ、この曲は一回お蔵入りになったってことだよな。何でまたタイアップって話になってんの?」

「ゲーム会社の誰かが、たまたまデータを見つけて聴いたらしいんだ。それで、来年発売になる某ゲームの主題歌にどうか、って会議に出したらしい」

「それが通ったってことか。やっぱお前スゲェじゃん。ちなみに、そのゲームのタイトルは?」

 レイが答えたタイトルは、俺が中学生の時にハマりしたRPGだった。


「またマニアックな。あれ、当時そんなに売れたっけ? 良く続編の話が出たな」

「最近になって実況した人がいて、一時期SNSで話題になったんだよ。当時から少数だけど熱烈なファンがいたんだって。僕もその一人だけど」

「あれは埋もれさせておくのが勿体ない良作だったからな。ちょっと待て、そんな思い入れのあるゲームの作詞なんて荷が重すぎるだろ」

「思い入れがあるからこそ、良い歌詞が出来るんじゃないの? まぁ、マグもハマってたのは想定外だったから。ここまで好きなものが同じってのも凄いね」

 レイは呑気に笑っていたが、俺は頭を抱えていた。一体どうしろって言うんだ!

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