第32話 無敵な英雄たち

「再出陣だ!俺様の本体が拠点の維持リソースを割いて超高速で増援の戦闘用ゴーレムも量産している!今より敵陣を真正面から突破し、魔物の女王を討つ!」


 鉄の馬に乗ったオノールは、銀色に鈍く光る槍を掲げてそういうと、狼の姿に戻ったハティに乗ったアビスモとルリジオ、同じく狼の姿に戻ったスコルに乗った信とナビネがそれぞれ高々と武器を掲げて応じた。

 それを見たオノールは満足そうな表情で頷くと槍を背中に背負い、深緑色の太陽を抱いた龍の紋章が描かれたマントを翻して鉄の馬の手綱を引いていななきをあげさせた。


「皆のもの!俺様に続け」


銀の鎧の君オノール…。貴女の剣として僕は必ずしや目的を達成してみせましょう。その暁には、貴女のその秘められた大きく美しい双丘を拝ませていただいてもよろしいでしょうか?」


「え?俺もオノール様に新しい一張羅をお創りしたいです!」


「ええい!緊張感がない!好きにしろ!」


 ルリジオと信に水をさされたオノールが眉間にシワを寄せながらそう言って巨大な門に向けて鉄の馬を走らせる。

 目を見合わせて深く頷きあったルリジオと信に、アビスモとハティは軽くため息を漏らすと、オノールの鉄馬を追ったスコルのあとに続いて巨大なゴーレムたちの間を縫うように駆け抜けていく。


 先程ルリジオとアビスモが大量に魔物を倒したせいか、朝ほど戦闘は激しくないように感じる。

 それでも、飛んでくる魔物の遺体や、砕けたゴーレムや武器の破片を避けながら疾風のような速さで一行は太陽の女神の領域を進んで魔物の女王の元へと向かっていく。

 順調に進んでいた信たちだったが、先陣を切っていた護衛のゴーレムたちが立ち止まったのを見てオノールが槍を横に凪いで止まれのサインを信たちへ送った。

 それを見たスコルとハティは、オノールが乗っている鉄馬のすぐ後ろについた時、熱風が一行の頬を掠めた。

 先陣を切っていたゴーレムたちが赤くなったかと思うと、まるで水飴のように溶けて、水たまりのようなものを地面につくる。

 何が起きたのか把握する暇もなく、目の前に迫る真っ赤ななにかに目を奪われていた信たちの前に颯爽と漆黒のマントを翻しながらアビスモが飛び出した。

 今度はまるで冬の朝のような肌寒さを感じた信たちが見たのは、前にかざした手から吹雪のようなものを放って目と鼻の先に迫っている真っ赤な炎を受け止めているアビスモの姿だった。

 アビスモは漆黒のマントと紫色の絹のような細くきらめくような髪を靡かせて気怠そうな顔でルリジオのことを見ると、ルリジオはハティの背を蹴ってアビスモの隣に躍り出る。


「顔は獅子、身体は鷹で脚は鹿…いい趣味してるなこの魔物の創造主は」


「持って帰れそうなら捌いて血抜きでもしておきたいね。味が気になる」


「頭は俺にくれよ。部屋に飾りたい」


「じゃあ、首を切り落として仕留めるよ」


 炎が止むと、アビスモの言っていた通り、立派な鬣を持った黄金の獅子のような頭部を持ち、胴体は黒い羽毛に覆われて背中に羽根を生やして、鹿のような脚の魔物が数匹こちらに向かってグルルと威嚇するように唸り声をあげていた。

 魔物たちが頭を低くして足を折りたたんで飛びかかってくるタイミングに合わせるように、ルリジオは光り輝く黄金の剣を鞘から抜いて横に薙ぐ。

 まるで闘牛士のようにひらり、ひらりと魔物の突進を避け的確に魔物の頭を落としていくルリジオをオノールは血の気の引いた顔で見ているが、それとは対象的に隣の信はスコルの上でルリジオの活躍を目を輝かせて見ている。

 その信の表情はまるでヒーローショーを見る子供そのものだった。

 一瞬でゴーレムたちを溶かした魔物たちを難なく皆殺しにしたルリジオは、切り落とした魔物の頭を腰につけていた小さな袋の入り口に触れさせる。

 すると、魔物の頭は見る見るうちに小さな袋の中に吸い込まれるように消えていった。


「アビスモ、持ち帰れるみたいだけど幾つ欲しい?」


「頭はそうだな…バエル将軍への土産も含めて3つほどあればいい」


 ルリジオとアビスもは、魔物に怖じ気付くこともなく、淡々と作業を進めていく。その様子を一行は呆気にとられてみていることしか出来なかった。


「あのさ、ルリジオが使ってる袋ってどうなってるのかな?」


「アラクネたちの蜘蛛の糸を収拾したときに使った袋と似たものなんじゃないか?」


 スコルと信は、二人の英雄のペースに慣れてきたのかそんな世間話をしていると、魔物の遺体を集め終わったルリジオがニコニコとしながら戻ってくる。


「おまたせ。さぁ、魔物の女王のもとへ急ごう」


「あ、ああ。さすが英雄殿だな…。あんな強力な魔物ですら一太刀とは…」


銀の鎧の君オノール…顔色が悪いようだけれど大丈夫かい?」


「…いや、英雄たちの活躍に言葉も出ないだけだ。気にすることはない。このまま進むぞ」


 横に立ったルリジオからふいっと目をそらしたオノールは、鉄の馬を嘶かせて再び周囲のゴーレムを集めるとそのまま走りだした。

 

「よくあることとはいえ、僕はどうも人の気持ちがわからないようだ。嫌われたくはないのだけれど…仕方ないか」


「綺麗な顔の男が微笑んだまま魔物の首をぶった切るなんて大体の人間はドン引きだ。ザマァ見ろ」


 鼻の横を掻きながら少し淋しげに笑ってハティの背に戻ったルリジオを慰めるために信が口を開こうとすると、それよりも早くルリジオの後ろに座ったアビスモが愉快そうな笑い声を上げた。


「…シノブ、もし間に合えばアビスモの魔力を搾り取って全部君に与える呪法を試してみよう」


「てめぇ…。シノブも頷くな!ったく」


 微笑みながらハティの上でじゃれ合う二人をみて笑いながら信たちは、先を走るオノールの鉄馬を追いかける。

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